第十五話:首都警備隊員になった
あたしの名前はプルム・ピコロッティ。
ナロード王国首都警備隊員だ。
あたしはイガグリ坊主頭の王様から、王国首都警備隊員に任命された。
王国首都警備隊は、その名前のとおり、王国の首都メスト市の警備が任務。
メスト市は人口十万人。
王室の華麗な宮殿があるきれいな都だ。
他にも、大聖堂や美術館、国立劇場、国立図書館などがあり、観光目当てで訪れる人も多い。
ナロード教皇庁もある。
遊園地もあるぞ。でっかい観覧車がある。
美味しい料理を出してくれるレストランなど料理店も多い。酒場も多い。
蕎麦屋やラーメン屋、たこ焼き屋まである。
王宮前の大通りにあるラーメン屋が美味しいぞ。
都の中央辺り、西から東に大きい川が流れている。名前はスポルガ川。
川の両側に桜並木があり、春には満開の桜の花が咲いてとてもきれい。
ガス灯がたくさん設置されており、夜でも携帯ランプなしで歩ける。
最近は、前にバルドが教えてくれた発電所なるところから電線を引っ張てきて、電灯が点いている場所もある。
えらい明るいぞ。
あたしは分隊に所属。
分隊は六人編成、隊長一人と隊員五人。
小隊は分隊を五隊まとめて、上に小隊長が一人。
大隊は小隊を五隊まとめて、上に大隊長が一人。
欠員とかいるから、大隊は約百五十名ね。
大隊は四隊ある。
メスト市を東地区、北地区、西地区、南地区の四地区をそれぞれ担当。
各地区を二十五区画に分けて、それぞれ各分隊が担当している。
大隊の警備隊庁舎と寮はそれぞれの地区の真ん中ぐらいにあり、庁舎は小隊ごとに部屋が別れていて、大隊長は別室。
警備隊庁舎で、電話機なるものを初めて使ってみた。
廊下に一台置いてあり、交代制で電話番をする。
コップのような妙な器具を耳にあてて、小型の箱についているハンドルをグルグル回すと、女性の声が聞こえてきて、びっくらこいた。声の主は交換手と言うらしい。箱についているラッパのようなものに番号を言うと相手先につないでくれる。魔法みたい。
通常は本部や他の大隊との連絡に使っている。
めったにかかってこないから、電話番の時は、あたしにとっては昼寝タイム。電話機は大隊長の自宅にもあるみたい。他は、今のところ、各省庁や市役所、病院、学校などの機関くらいしか設置されていない。後はお金持ちの家とか。
けど、これを使って、イケメンに告白するのもいいんじゃないって考えた。
おい、公用の機械を自分の恋愛活動に使うなよって? いいじゃない、これぐらい許してよん!
あたしは東地区に配属。第一大隊の第五小隊。
大隊長の上に、警備長、警備監、警備総監ってのが本部にいるらしいけど、雲の上の人だから、どうでもいいよね。
首都警備隊本部は王宮近くの官庁街にある。
本部には事務部のほか、警備騎馬隊というのがあって、でかい馬に乗って整列しているのを見たことあるけど、なかなかかっこいい。隊員は四十人くらい。これらとは別に、各地区に市民による自警団が組織されている。
他にいざという時に王宮を守る近衛連隊ってのがあるけど、軍隊の事はよく分からん。
そう言えば、以前新聞に載っていた領土問題で隣国のカクヨーム王国との戦争が始まったんだけど、結局、一か月ぐらいで終了した。お互い犠牲者を出しただけでほとんど現状は変わらなかった。
あほらしい。
戦争したら負け!
近衛連隊が一番戦死者を出したらしい。
死んだ兵士がかわいそう。
リーダーと離れて落胆してるだろって? そうじゃないんよ、フフン。
ドラゴンとの戦いで、王国国防軍精鋭部隊の人たちが大勢亡くなったので、警備隊から有能な人が引き抜かれるの。それで、新たに警備隊が募集をかけたと情報部のクラウディアさんに教えてもらったときにひらめいたんよ。
リーダーとバルド、アデリーナさん、サビーナちゃんに強引に薦めたんよ。もう、冒険者稼業は先がないぞって言って。おまけにその後、戦争もあったんで、再度、警備隊から引き抜かれたから、定員が足りないので倍率も低いから受かりやすいぞって。
試験を受けさせたら、そのまま全員合格。
みんな頭がいいなあ。
イガグリ坊主頭の王様の推薦枠じゃなかったら、あたしは落ちてるな。
何で薦めたんだよ、まだリーダーに未練があるんだろって? 違うわよ、信頼できる仲間だからよ。
あと、王様から推薦されたというコネがあるとうまく思わせて、リーダー、バルド、アデリーナさん、サビーナちゃんとあたしを同じ分隊にしてもらった。やっぱり同じ仲間と一緒の方が安心できていいじゃない。
嘘つけ、このシーフ女、隙あらばリーダーを略奪するつもりだろって? 失礼ね、そんな女じゃない。リーダーとアデリーナさんの二人の幸せを心から願っている。
時々、胸が痛むけど。
それに、これで冒険者ギルドの組合費の件はチャラ。
冒険者から公務員に転職になったんよ。
公務員共済組合に加入したんよ!
それが目的だったのかって? 違うわい! 給料が出たらみんなに返すつもりだったんよ。
うるさい! 本当よ!
春に、新規採用者研修を受けたりと忙しい。
たまに、「あなたが、かの有名なドラゴンキラーですか」と言われたりする。
「アハハ!」と笑ってごまかす。
みんな早く、忘れてほしい。
あたしは警備隊の女子寮に住むことにした。
寮母はジュスタおばさん。陽気なおばさんであたしとは気が合う。寮の食堂の料理も美味しい。
寮はサビーナちゃんと二人部屋。
サビーナちゃんとお喋りすると楽しいし、ポニテから髪をおろしたサビーナちゃんの寝顔をみると癒される。
まるで天使のようだ。
あたしが寝坊するとやさしく起こしてくれる。本当にいい娘だなあ。
寝相の悪いあたしが、ベッドから転げ落ちそうになるのを支えてくれたこともある。優しいなあ。
ベッドヘタイブ! を真似するようになるサビーナちゃん。かわいいなあ。
かわいい妹ができたようだ。
研修の宿題まで手伝ってくれる。楽しい寮生活。
リーダーとアデリーナさんは民間借家でもちろん同居。新婚熱々生活。羨ましい。
バルドもどっか借りたみたい。
さて、肝心のあたしが所属する分隊は第二十五分隊。東地区の第二十五区域を担当。
黒っぽい制服。男女ともズボン着用。帽子とかは無し。
着てみると、リーダーはかっこいい、バルドは迫力ある、アデリーナさんは何か色っぽい、サビーナちゃんはかわいい。
けど、あたしは冴えないなあ。
警備隊員の武器はサーベル。あたしは自前の特殊ナイフを隠し持ってるけどね。手錠と腰縄も携帯。この手錠、あたしなら簡単に外せるな。
分隊長以上は回転式弾倉拳銃も携帯。あんまり性能が良くないらしい。けど、使うこともほとんど無いみたい。
あと、首都内では、基本的に攻撃魔法は禁止。一般市民を傷つけないためだそうだ。アデリーナさんには宝の持ち腐れかな。
分隊長は、デルフィーノさん。
この人がですねえ、あたしのタイプなんですねえ。穏やかで、優しい感じ。なにしろイケメンだし。デルフィーノさんも試験で配属されたのに、いきなり分隊長とは優秀な方なんですねえ。
後、サーベルの扱いがうまい。かっこいい。元冒険者かな、デルフィーノさんも。
ちょっと小柄なんだけど、あたしもチビだから、デートの時は似合うと思う。
ますます良い。
妄想すんなって? 何が悪いの、何の法律違反でもないぞ。
だけど、あたしはちょっと慎重になっている。
リーダーの件でへこんだんでね。
で、この分隊長の上に、ベテランのセルジョ小隊長さんがいる。
禿げてる。
それはともかく、真面目で良い人なんだけど、あたしはよく叱られる。怒鳴ったりはしないけど、やたら説教時間が長い。まあ、さぼったり、勤務時間なのに机につっぷして、いびきかいて昼寝してたら叱られるのも当たり前ね。
さて、問題はその上の大隊長さんね。
警備隊第一大隊長は赤ひげ将軍だったアレサンドロのおっさん。
レッドドラゴンから真っ先に逃げ出したんで、懲罰人事とかいうものらしい。
まあ、あんなバカでかいドラゴン見たら、誰でも逃げ出すと思うけど。
社会は厳しいっすね。軍の事はよう分からんけど、敵前逃亡は通常死刑なんだそうで、命が助かっただけでもマシみたい。軍から追放されて、警備隊に拾われたそうだ。
赤ひげのおっさん、書類仕事をつまんなそうにやってる。
まあ、千人規模の軍隊を率いてたのに、百人規模の警備隊だもんね。
気持ちは分からんでもない。
この人、あたしのさぼり癖を知っている。
この間、警備隊庁舎の屋上でさぼって昼寝してたら、気づくと赤ひげのおっさんがいて、遠くを見ながらタバコを吸ってたんよ。
やばい! とオタオタして言い訳を考えていたら、さっさとあたしを無視して行っちゃった。
その後も、お咎めなし。
もう全然やる気無し。
左遷されてイライラしている。いつも酒臭い。毎晩やけ酒ですか。
あたしもお酒は好きだけど、お酒は楽しく飲まないといけないと思うなあ。
そう言えばドラゴンペンダントはどうなったって? 情報省が出来る限り回収したみたい。ただし、結局、何個あるのか確実な情報が無いので、全部回収出来たかは分からないようね。クラウディアさんも忙しいみたいで、全然、会ってない。
仕事は、けっこう楽。市民からの通報や相談に対応の他、担当地区の巡回、事件発生時の捜査などが任務。巡回は基本一人で行う。勤務は分隊ごとの交替制。日勤、夜勤、非番、そしてたまに休日が基本のローテーション。突発的に事件が起きた場合は非番の日でも呼び出されたりするけどね。
日勤は、午前九時から午後六時まで。
夜勤は、午後六時から翌日午前九時まで。夜勤は、交代で二時間休憩を取るんだけど、この時、休憩室で爆睡して、おまけに寝相の悪いあたしはベッドから床に落ちて、そのままベッドの下まで転がって寝ていた。行方不明になって大騒ぎ。ベッドの下から発見されて、セルジョ小隊長から大目玉をくらってしまった。ごめんなさい。
首都の治安は悪くない。
巡回したら報告書を作成。
あたしはさっさとテキトーに書いちゃう。
みんな真面目に書いてるので、イタズラしたくなった。
サビーナちゃんが報告書を書いてるときに、シーフ技を使って、密かに机の前に行って、「バア!」といきなり顔を出してみた。サビーナちゃん、びっくりして、その後、大爆笑。
他の仲間にも試してみる。
バルド、びっくりして、悲鳴をあげるが、その後、笑ってくれる。
リーダー、びっくりして、ビビッてうろたえるが、怒らない。
アデリーナさん、びっくりして、苦笑。
デルフィーノ分隊長、全くびっくりしないけど、穏やかに笑ってくれる。素敵。
セルジョ小隊長、びっくりして、大声で悲鳴を上げて、椅子から転げ落ちて床をゴロゴロと部屋の隅に転がって行った。その後、会議室に呼ばれ、一時間くらい、こんこんと説教される。
すんまへん。
ドタバタしてたら、夏になった。
首都メスト市は夏でも涼しい。そのため、基本的に制服は年中長袖。
そのかわり冬は寒いそうだ。
ある日、巡回してると目の前に、あたしの背丈ぐらいあるバカでかい車輪に乗って向かって来る人に会って、びっくりする。自転車なるものらしい。バカでかい前輪とちっこい後輪。前輪に付いているペダルを足で回して動かす。ちょっと、運転してる人にお願いして、乗らしてもらう。面白いけど、前輪がデカすぎて、チビのあたしにはちょっとペダルを回すのがつらい。倒れたらケガしそう。
けど、イケメンの前でわざと倒れて助けてもらって、恋愛がはじまるってのもいいかも。
お前、そればっかりだなって? そればっかりです。
自転車から降りて、また巡回していると、あら、素敵なイケメンがいらっしゃる。
おっ、と思うと、恋人らしき女性と手をつないで行っちゃった。
あー、羨ましい。
リーダーは、もしアデリーナさんがいなかったら、あたしの告白を受け入れてくれただろうか? それともあっさりと振られたか? それとも、優柔不断だから、あたしの目の前で、永遠に「うーん、うーん」と言い続けたのかな。
まあ、考えても仕方がないけど。
ほーんと、アデリーナさんが羨ましい。
いーなあ、いーなあ、アデリーナ。
職場だと、リーダーとアデリーナさんは普通に接しているけど、家に帰ったら……。
ああ、嫉妬の炎が身を焦がす。
じゃあ、警備隊に誘うなよって? うーん、そうなんだけど……。
本当はあたし、気が弱いんよ、人見知りするんよ。
だから、仲間といると安心できるんだけど。
嫉妬の炎は燃え盛る一方だ。
我ながら、情けない。
あー、何かイライラしてきた。
そんな事を考えていたら、
「おい、ドラゴンキラー」と突然、後ろから声をかけられた。




