第十一話:レッドドラゴン
三匹のドラゴンとの戦闘の最中に、
「何だ、あれは!」と兵士たちが騒ぎ始めた。
湖の上に巨大な銀色の円状の線が現れる。
その中に光輝く星の形をした線が出現。
超巨大な魔法陣だ。
ちょうど湖と同じくらいの大きさ。
五芒星の線が七色に光って凄くきれい。
巨大な五芒星の魔法陣がゆっくりと回り始める。
山の中腹にいるドラゴン秘儀団の魔法使いらしき人物がいろいろと操っている。
「ああ、もう、だめだわ……」
クラウディアさんがヘナヘナと腰が抜けたようにペタンと女の子座りして、顔を覆ってる。
シクシクと泣き出す。
もっと怖い人かと思ってたけど、もしかして乙女?
とにかく危ないから情報省員の人たちと一緒に大岩のところへ連れて行った。
「何か、飛び出してきたぞ!」兵士の一人が叫んだ。
巨大魔法陣の中央から、何だかバカでかい赤黒い物体がゆっくりと姿を見せる。
まるで、大きい山が浮いてきたみたい。
赤黒いのは鱗、でっかい翼、四本ある太い足にはバカでかい爪。ずんぐりとした胴体。巨大な顔。鋭い大きな牙。
普通のドラゴンの何百倍はあるドラゴンが出現してきた。
超デカい! 湖を全体を覆ってしまうぐらいの巨大ドラゴンだ。
翼が羽ばたくと、もの凄い強風が舞う。
何かに捕まっていないと、飛ばされそう。
顔は平面的であんまりかっこよくないな。目も垂れている。
ありゃ、赤ひげ隊長、部下を見捨ててまっ先に逃げ出した。セルジオ副隊長とブルーノ副隊長も追いかけて逃げてる。
まあ、相手が超巨大ドラゴンじゃあ、仕方がないか。
兵士たちや冒険者隊の中にも逃げ出す人たちがいる。
あたしも何も知らなきゃ逃げてるな。
……。
昨夜、クラウディアさんに会った時、こんな会話もした。
美味しいお茶を飲みつつ、
「だけど、こんな安っぽい土産物屋で売ってるようなペンダントを、殺そうとしてまで取り返しに来るなんて、ちょっとおかしいと思うんですが」とあたしはクラウディアさんに疑問を投げかけた。
「そうですね、確かに見た目は安物ですね」
へ? 安物なの?
「ドラゴン秘儀団のメンバーには安物を配ってるようなんですが、幹部は見た目は同じでも違うペンダントを持っているんです」
「何が違うんですか」
「幹部が持っているペンダントでドラゴンを操れるんです」
ひえ、そんな恐ろしいものをあたしはポケットに入れたり、宿屋のソファに寝転んで、天井へ向けて投げて遊んだり、鎖を持ってクルクル回したりしていたのか。
「このドラゴンを操れるペンダントって何個ぐらいあるんでしょうか」
「いま調査中です。但し、相当魔法に精通している人じゃないとドラゴンは操れません」
そりゃ、そうだ。あたしが操ったら大変だ。ドラゴンを操って、イケメンを何人もさらって、って何を言わせんの!
クラウディアさんがドラゴンペンダントを、綺麗な指で何やら操作する。表面がピカピカと光りはじめた。
「これで、ドラゴンが操作出来るようになります。この状態だと、ペンダント自体から魔力が出ています。だから、この前集会場で治療していた時、あなたが持っていたのに気づいたんです。ドラゴン秘儀団の幹部は普段は消しているようですけど」
縁日とかによくある安っぽいオモチャじゃなかったんだ。
あと、透視していたわけじゃないのね。良かった。
透視術なんてあったら、裸見られ放題じゃない。そんな術、男の魔法使いが使ったら、たまったもんじゃない。
お前の裸なんて見てもしょうがないって? 失礼ね!
「けど、精鋭部隊が到着すればドラゴンを倒すことが出来るんですよね」
「それが……」何やら深刻そうなクラウディアさん。深刻な顔でも美人です。
「このペンダントで巨大な五芒星の魔法陣を作って、別世界にいるレッドドラゴンを召喚出来るようなんです」
ほへ~、こんな見た目は土産物屋で原価十倍のボッタクリ価格で売ってそうなペンダントが、別世界からドラゴンを召喚出来るとは、凄いもんですねえ。
「そのレッドドラゴンとやらも精鋭部隊で倒せないんですか」
「難しいです。普通のドラゴンの千倍の破壊力を持っていると思われます」
ひえ! 恐ろしい事を聞いてしまった。普通のドラゴンの千倍。レッドドラゴン、半端ないっす!
「だた、問題はそれだけではないんです」
「と言いますと」
「このペンダントでは不完全な魔法陣しか出来ないようなんです。そこから呼び寄せたレッドドラゴンを操ることなんて不可能です。暴れだしたら手をつけられなくなります。そして、放っておくとその魔法陣から膨大な数のレッドドラゴンが出現してきます」
「えーと、そうなると、どうなるんですか」
「……世界がレッドドラゴンによって滅ぼされます」
ひえー! またまた恐ろしい事を聞いてしまった。聞かなきゃ良かった。失禁しそう。
「けど、ドラゴン秘儀団は世界を支配するつもりなんですよね。操れないレッドドラゴンなんて召喚しないんでは」
「それが、どうもドラゴン秘儀団はこのペンダントでは不完全な魔法陣しか出来ないということを知らないようなんです」
アホだ。
バカ集団と呼んでたけど、ほんとにバカ。大バカ集団ね。
「そのため、情報省としては、下手に軍隊を動かして、ドラゴン秘儀団を追いつめるのはまずいのではと考えています。ただ、アレサンドロ将軍にも、このことについては教えていないんです」
「何で知らせないんですか」
「上からの命令ですから」
上の指示には従わなきゃいけない政府のお役人は大変ね。
「ただ、もしアレサンドロ将軍が軍を動かしたら、事情を話して止めるつもりです」
「出現したレッドドラゴンを元の世界に戻すことは出来ないんですか」
「魔法陣を壊せば、元の世界に戻っていくと思います」とクラウディアさんはドラゴンペンダントをまた操作して、表面のピカピカを消した。
「魔法陣ってどうやって設置するんですか、それを壊す方法はあるんですか」
「この魔法陣は、ある程度、同じ高さで頑丈な場所に、五芒星の形でペンダントを設置しないとできません。壊すのは設置したペンダントを外せばいいんですが」疲れているのか、無意識に片手を顔に当てるクラウディアさん。
眉毛が消えますよと言いたかったが、思いとどまった。
「五芒星だから五か所に設置してあるペンダントを全て外すんですか」
「いいえ、ひとつでも外せば、魔法陣は崩壊すると思います」
何だ、ペンダントを一個外して、ポイッと捨てればいいだけじゃん。
「そうすると、かりにレッドドラゴンが出てきても、操ることが出来ないことがわかれば、ドラゴン秘儀団もさすがに魔法陣をすぐに壊すんじゃないですか」
「ドラゴン秘儀団がそうしてくれればいいんですが……。今、もう少し情報を集めてる最中ですが、正直、不安で最近よく眠れないくらいです……」とかわいい犬柄のパジャマ姿で不安な顔をするクラウディアさん。情報省の人が一般人に眠れないとか喋っていいんかい。レッドドラゴンの事とか教えていいのか。フランクな人なのかな、クラウディアさんは。それとも、それに気づかないほど心労がたまっているのかな。一人で抱えきれなくなってるのかね。まあ、世界が滅びるかもしれないのに、ぐっすり眠れるほうがおかしいか。
偉い役職の人はつらいですね。
それにしても、クラウディアさん、不安な顔もうっとりするぐらい、すっごく綺麗。どこから見ても綺麗だけど、やや左斜め上から見る角度が一番綺麗かな。ずっと眺めていたい。
え? 綺麗、綺麗、すっごく綺麗ってお前はレズかって? 違うわい! けど美しいものは美しいのよ。美しいものを美しいって言って何が悪いの。そうなのよ! 男も女も美しいは正義なの! 綺麗もかわいいもイケメンも正義なんよ! そう、イケメンは正義!
え? お前の顔はどうなんだって? ノーコメント!
「そういうわけで、今回の件はとりあえず内密にしていただきたいのですが」とクラウディアさんから頼まれた。
「わかりました。仲間にも言いません」
だけど心配して損したな。
大バカ集団でも死にたくはないから、レッドドラゴンを操れないと分かったドラゴン秘儀団は魔法陣を壊して、レッドドラゴンは元の世界にさようなら。
普通のドラゴンは精鋭部隊がやっつけて、終わり。
ドラゴン秘儀団の連中はクラウディアさん率いる情報省が逮捕。
その間、あたしはベッドで昼寝でもしてればよいと。
一件落着。
心配無い、無い。
心配したら負け!




