第八話:ドラゴン秘儀団
宿屋に帰る途中、いろいろと考える。
うーん、それにしてもあたしはいつからリーダーのことを好きになったんだろう。
はっきり言って完全にあたしのタイプじゃん。
まだ、リーダーに会ってから一週間も経ってないぞ。
会ったその時、惚れてたのかな。
一目惚れか。
それとも、冒険者ギルドが襲われた件で、フラフラしながらリーダーのいる部屋に入り、倒れこんだ時に優しくリーダーが抱き起こしてくれた時かな。倒れたのは演技だけど。
昨日の夜、集会場の廊下でリーダーに会った時、なぜかドキドキした。
あたし惚れっぽいのかなあ。
ん? 女は優柔不断な男は嫌いじゃないのかって? それは人それぞれ。あたしは強引な男は嫌いなんよ。
リーダーが相手にしてくれなかったらどうするんだって? それはまだわからないじゃない。
リーダーが、お前の本当の姿を知ったらどうすんだって? スラム街出身で、万引き常習犯、ギャンブル依存症、借金取りに追われていて、酒飲んだり、タバコ吸ったり、おまけにさぼり魔、最悪だろって?
そうよね……。
うーん、でも改心します!
無理だろって? 努力します! 大丈夫! 大丈夫と思う。……大丈夫って言ってよー!
ああ、リーダーのことで頭がいっぱいになってきた。
おっと、ダメダメ。これから宿屋で大事なことがあるんだ。
恋愛も大事だけど。
宿屋に到着。
正面玄関から入る。
ロビーには都合よく誰もいない。
あたしは宿屋の主人に話しかけられた。
「すんませんが、あんたがぶち壊した二階の部屋の窓、弁償してくれませんかねえ」
「すんませんねー。けど、何であたしが壊したって知ってるの」
あたしは怖い顔で宿屋の主人を睨む。
童顔だから全然迫力ないと思うけど。
「そ、そりゃ、あんたが泊っている部屋じゃねーすか」
「そうね。けど、その前に、何で昨夜簡単に賊が入れたの。あんたが部屋の鍵を渡したんでしょ!」
「な、何を根拠にそんな事おっしゃるんで」と焦る主人。
「昨日の朝、あたしがクルクルとドラゴンペンダント回してたら、あんた、目の色変えてたじゃん。あの時、ロビーにいたのはあたしとあんただけよ!」
昨夜、不審者から逃げて、集会所の二階の貴賓室に泊っておられる情報省のクラウディアさんに会いに行った。
ナイフを怖い顔した情報省の職員に渡した後、少し部屋の中で待たされる。
クラウディアさん、お風呂に入っている模様。
ヒマだ。
ヒマなんで、失礼ながらバッグを物色。
え? 泥棒すんなって? 泥棒ですが、何か?
さて、金目のものはあるかな。
スキンケアの化粧品が入っとる。
美人は美容にも熱心ね。しかし、意外にも他には化粧品がない。ファンデーションすらないぞ。化粧魔法ってのがあるの? 聞いたことないけど。
クラウディアさんはすっぴん派か。すっぴんであんなに綺麗なら、気合入れて化粧したら超絶美女になるんじゃないか。
あたしも、すっぴん派だけどね。
あたしが化粧するとピエロみたいになっちゃうんよ。
おい! そこ! 笑うな!
そもそもお前には必要ないだろって? うるさいわい!
どうにもならないからすっぴん顔なんだろって? 殺されたいのか!
おっと、ペンシル&パウダー一体型アイブロウを発見。
完璧美人の弱点は眉毛ね。
他にはかわいい犬柄のハンカチ、かわいい犬柄のティッシュ、かわいい犬柄のペンケース、かわいい犬柄のメモ帳、かわいい犬柄のキーホルダー。
クラウディアさんは犬が好きなのかな。
ブックカバーもかわいい犬柄。何を読んでるんだろう? 中身を見ると『綺麗な眉毛メイクで女子力アップ!』って本。
やはり、眉毛を気にしてるんだな。
肝心の財布がないぞ。気づかない程度に小銭をくすねるつもりだったのに。金は部下が払うのか。偉い人はいいなあ。
おっ、ドラゴンペンダントもあるぞ。やっぱりペンダントコレクターなのかな。けど、ピカピカ光りはもうしてない。やっぱり安物ね。
盗むものがないので、そのままバッグは戻した。
しばらくして、クラウディアさんがバスローブ姿で頭の髪の毛をタオルで拭きながら現れた。
髪がまだ乾いてないので少し濡れている。濡れ髪のクラウディアさんもうっとりするほど綺麗。すっぴん顔でも綺麗。眉毛が薄いけど、ナチュナルのほうがいいんじゃないかな。脚も綺麗だなあ。
だけど、実はあたしも脚には自信があるんだな。すらりと伸びたきれいな脚なんよ。チビだけど、手足と胴体のバランスは良いんだな。
え? お前のことはどうでもいいって? 悪かったね!
「クラウディア様、突然、お邪魔して申し訳ありません。ちょっと報告したいことがありまして」
「すみません、もう少し待ってくださいね」クラウディアさんはニッコリ笑顔で別室に入っていく。
「はい、お待ちしております」
別室に入って、しばらくするとガウンを持って、かわいい犬柄パジャマ姿で出てきた。
髪の毛をアップにしてる。うなじが綺麗。
お、眉毛を足してきたな。
クラウディアさんはガウンを着ながら、
「ちょっと待って下さい、お茶でも出しますわ」とおっしゃった。
高級そうなお茶を飲みながら、黒装束の賊に襲われた件を話す。
「そうですか、よくご無事で」
「あのペンダントを取り返しにきたと思うんです。私、他に狙われる覚えがないんですよ」
まあ、本当のところ、あたしはいろんなところでトラブル起こしてきたんだけど、こんなド田舎まで追ってくるとは思えないんよ。例の借金取りも、全く追ってくる気配がないし。
クラウディアさん、すこし悩んだ後、
「極秘の話ですが、あなたには教えておきますね」
何じゃ、極秘の話って。怖いけど興味もあるし。
クラウディアさんはバッグの中から例のドラゴンペンダントを取り出した。
「このペンダントの中央にドラゴンのデザインがあるでしょう。実はこのペンダントを持つ者はドラゴン秘儀団のメンバーなんです」
ドラゴン秘儀団。
何となくダサい名前だなとあたしは思った。
ペンダントも安っぽいし。
「その団体の目的は何ですか」
「ドラゴンを操って、世界を支配しようとするつもりなんです。一種のカルト教団ですね」
また、そーゆーバカ集団が出てきたのね。
世界を支配するとか面倒くさいっちゅーの。
疲れるだけ。
世界を支配したら負けよ。
クラウディアさんによると、普通、ドラゴンさんは人を襲わない。
と言うか人間なんて相手にしないそうね。
今回、討伐隊を襲ったドラゴンは誰かが魔法で操ってるとのこと。
以前から、このド田舎にあるニエンテ村にダサいドラゴン秘儀団の連中が集まってるという情報があり、事前に王国情報省のクラウディアさんが派遣されたようね。
冒険者ギルドの主人が情報省の協力者で、それがばれて殺されちゃったのがこの間の騒ぎみたい。
お前が仲間のお金を博打でスッカラカンしたのを盗賊のせいにした件のことかって?
そうよ。記憶力がいいのね。って、忘れてよー! お金はいつか返すつもりだから仲間には言わないでー!
で、何週間も前から準備していた王国の国防軍精鋭部隊がすでにこちらに向かってるとのこと。
「情報省としては、精鋭部隊がドラゴンを攻撃する前に、もう少し情報を集めたい状況なんです」とちょっと心配そうなクラウディアさん。
そうなんだ。あたしはクラウディアさんに協力することにした。
「クラウディア様、私、ドラゴン秘儀団の仲間だと思われる人物を知ってますよ!」




