第52話「Soft as Snow (But Warm Inside) 」
2020年02月14日金曜日先負、ヴァレンタイン。
「ただいまー」
「おう、帰ってきたかバカだんな。
処方箋何か変わった?」
「いえ、特に何も。
持続性注射剤に眠剤と抗うつ薬、血圧を下げる薬に下痢止めと整腸剤です。
まぁそのどれもがほとんど効果ないのは問題ですかね……」
「診てもらえるだけで我慢しとけ」
「はい、担当医師を信頼はできませんがね」
「そう……、ま、コート脱いで座りなよ?」
「はい」
「じゃあこれ、おら、やるよ」
「こ、これは……、そうか、今日はヴァレンタイン!?
開けていいですか?」
「もちろん♪」
「ではお言葉に甘えまして…………、
うわぁ♪ ハート型のチョコですか、う~ん幸福です。
って……
待った! 何故ハートの中央にギザギザ模様が……?」
「嗚呼、それね、
そこから割って食べたら、貴方との縁も切れると信じて作ったんだよ♥」
「そんなチョコ嫌っ!!」
「私の貴方への嫌悪や侮蔑がこもってるチョコ食べてくれないの?」
「ひぃぃぃっ!? 血塗れのヴァレンタイン!」
「はやく別れてくれよ? だんな様♥」
「それはノー! 絶対にノー!! 君を離さないぞ僕は!!!!」
「壁薄いんだから大声出すの止めてよね?
あの時伝えたよね? 私、貴方ではなんにも感じないの」
「それは……、そうですが」
「何度も確認しておくけど、
私は貴方と別れたい。貴方は私と別れたくない。
その事実から導き出せるものは何かなぁ?」
「倖子君が主で、僕は従者って事」
「その通り! 貴方は私に絶対服従であるぞ? 頭が高い!」
「ははぁっ!」
「分かればよろしい。
では、そのチョコも割ってしんぜよう」
「えっ! それは嫌……」
パキッ!!
「嗚呼、主よ、なんとご無体な……」
「はい、バカだんな様? はんぶんこ、だよ?
私たちはひとつのものがふたつに分かれたものだから……、
ったく、言わせないでよね?」
「倖子君……、愛してます」
「従者ふぜいが、主に愛を告げるなど片腹痛いわ。
よく味わって食べるように!」
「はい、頂きます!」
「でも……、」
「ぅん?!」
「美味しくなかったら、……ごめんね?」
「そんな殊勝な声音で言われると、僕、昂ぶっちゃうんですが――っ」
「黙れハゲ、変態っ!!」
「抱きしめてもいいですか?」
「私に触るな、この痴漢っ!!」
「今日は倖子君のお陰で、僕は倖せですよ」
「じゃあ私の好きなところを言ってみてよ?」
「そうですねぇ、僕には例えばこんなところかしら――……、」
ゆきのようにやわらかで
けれどなかはあたたかい
それこそゆきこくん
歌 My Bloody Valentine
作詞 ケヴィン・シールズ、コルム・オコーサク
作曲 ケヴィン・シールズ




