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早水家の日常  作者: 恋刀 皆
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第4話「I Say a Little Prayer」

 2016年四月九日土曜日大安、朝。


 今朝の倖子君は、いつもよりほんの少し慌しい。

僕にはいつもの事ですが、第四の壁からご覧の皆様にご説明致しますならば、

今日は倖子君の作品、絵画や仏像、ガラス細工等を、

フリーマーケットに出品しに行く為です。


 僕は彼女のお化粧姿を眺めながら、やっぱり美しいなぁと想うけれど、

そんなに綺麗にして行かないで、なんて事も考えてしまう。


「よし、じゃあ心也君。ちょっくら行って来るわ」


「はい、今日も売れる様に祈っていますね」


「売れる売れないなんて二の次だよ。コミュニティを広げる事が大事なの。

ちょっと赤字で、人様のお力でほんの少し黒字、それぐらいが良い塩梅なのよ」


 全く売れない僕への思いやりを込められている事を忘れちゃダメだけど、

概ね倖子君の言う事は、僕よりも正しく、また優先される。

実質、早水家の稼ぎ頭は倖子君です。


「はい、無事に帰って来て下さいね」


「うん♪ 行って来る」


………………

…………

……


 倖子君が何事もなく帰宅する事、それが一番の財産です。

倖子君も僕も、心に病を抱えて生きています。

これまで、僕の作品にお付き合いいただいているお方々からすれば、


「君達、仕事何して子供を養ってるの?」


 そんな疑問を抱かれるお方も、当然いらっしゃるでしょう。

早水家は現在五人家族ではありますが、

僕の力だけでは、とうに破綻しているでしょう。

数え切れないくらい大勢の皆様のお陰です。




皆様 いつも ありがとうございます




 現状早水家は倖子君と捧華、

僕の生活費だけに集中していれば大丈夫では御座居ます。

コンちゃんとポップちゃんは、

少なくとも僕よりは自立したせかいに居る様子。


 そして、早水家は生活保護下にあります。


目に見えて恵まれるお方々はそれ程多くはありませんが、

 

 それこそ、


「あなたのお陰で生きています」


そうはっきりと感謝をお伝えしなければならないお方々ばかりです。


 いずれは這い上がらねばとは思うものの、

実際、家賃、光熱費、水道代、生活費、

保護下でなくなった時にお返しする医療費等々を考えますと、

手取りで二十万くらいは稼げないとしんどいです。


 落ちるのは簡単ですが、上がるのは難しいのが今。


僕はと言えば、現在は就労継続支援B型作業所へとお世話になっておりますが、

B型は雇用契約を結べないので、工賃もA型に比べればささやかなものです。

毎月フルタイムで通所できれば、二万円以上はいただけますでしょうが、

そうなりますと生活保護者としては、体力精神力、生活保護費の削減まで、

生活保護下になってみないと、

なかなかお解かりいただけないであろう悩みに直面致します。


 生活保護バッシングはこれからもますます厳しいものとなるでしょうが、

僕も健常者であれば、冷めた目線を送ってはいたでしょうから、

納得せざるをえません。


 これから老いる一方である事実は、

一日でも長く倖子君を想う一日を増やしたい祈りと、

次の子らの為に、なるべく早く消えてゆきたい祈りの板挟みです。


 明日どころか、今日をも知れぬ身。


ですが、何処に居たって、安全地帯はありません。

僕の向いている方向は、僕からすればいつだって前向きには違いありません。


 ふと、倖子君、…………大丈夫かな?

創作こそが、僕の一番の君へ仕える事ですが、倖子君が傍に居てくれないと、

途端に嫌な妄想が、僕を支配する。

しかし、そんな事を倖子君に吐露してしまえば、彼女は息を抜く暇がなくなる。

本当に手の掛かる、

アラフォーの赤ん坊と来たら……。


 僕は、倖子君が居てくれれば倖せと言える。

独りぼっちの最期を迎えても、倖子君に出逢えて倖せだったと振り返るだろう。

その途中で、総理大臣になれてもホームレスでも、どちらでも構わない。


 だけれど、倖子君はどうかな? 

僕の愛情がなければ、

倖子君の人生をメチャクチャにせずに済んだのは間違いない。

その為に、僕は僕の人生をなげうつのは当然だけれど、

何をもってしてか解らずとも、「もっと!」って想う。


 早水家で最も甲斐性のないのが僕だ。


 倖子君の居ない一日の時間は長過ぎる。思わず、


「コンちゃん、ポップちゃん、捧華、元気かい?」


仰向けで見える天井に、そんな言葉を上げてみた。


「てへっ♪ お父さんも大分お悩みのご様子」


「ぅおっ!! コンちゃんか……、びっくりした……、ポップちゃんは?」


「かくれんぼの途中です」


「飽きないねぇ」


「それがボクらの生き甲斐ですからね。お父さんの創作と一緒です」


「そっか……、僕も今まで倖子君を探していた様なものだもんね」




 そこで親子、クスクス♪ 




一転、




「コンちゃん達は危ない事してやしないかい?」


「ボクらはお父さんが観測している限り、どんな状態に陥っても死にません」


「そうか――、それは良い話しが聞けた。

コンちゃんもポップちゃんも、僕と違って親孝行ですね」


「てへっ♪ ずっと一緒ですよ♪」


 そのコンちゃんの声音はなんというか、

いつの間に僕はこんなに深く潜ってしまっていたのだろうと気付く程、

一瞬で僕に地上の空気を吸わせてくれた。


「……やっぱり独りは良くないね。コンちゃん、助かったよ」


「お父さんは変なところが真面目ですからね」


 僕は苦笑するしかなくなる。けど、


「僕、過去も未来も、ずっと今の家族が良いんだ。

何も変わらなくて良いんだ」


「お父さんは倖せなんですね?」


「うん、間違いなく。コンちゃんはどうかな?」


「お父さんは最初からボクに、

まぎれもない最高ポップちゃんをくれました。

他に望むものなんてありません」


「そうか、安心した」


「では、お母さんが帰って来るまで、ボクを構って下さい」


「こちらこそ」




 きっと誰だって、ずっとの独りぼっちは、寂しいものだろうから。




………………

…………

……




「ただいまー♪」




 おおう、倖子君のご機嫌が良さそうだ。

倖子君が戻るまでに消失してしまったコンちゃんに、

彼女の美声を聴かせたかった。


「おかえりー♪ 何か良い事でもありましたか?」


「それがさっきまでポップちゃんが居てね。女同士楽しかったよ♪

それに、これを見ろ!」


 バッと倖子君は右の掌を開く、そこには……、


「に、二千……、五百円……、だと!?」


「へへっ、これで二日は切り詰められるぜ? どうだいだんな様?」


「ククク、倖子君、お主もワルよのう?」


「ワルかねーよ!!」


「はい、倖子君、お疲れ様でした」


「心也君、あんまりサミしそーじゃないな? つまんねーの」


 僕は、少し不思議に首を傾げて、

それからなんとも複雑な多幸感に襲われる。




「はい、さっきまで親孝行息子がね…………?」




………………

…………

……




 個人の偏見に過ぎないとしても、

この世は心身が満足に動くお方々中心のせかいの様に存じます。

ただ、誰しもいずれは動けなくなってゆく。



 

 そうした時、人に残されるものはなんだろう?


身体が動かせず、心も様々な事柄をもの凄い速度で忘却してゆく。


 そうしたら、僕は、小さく祈るしかないのかもしれません。


 今日より明日がほんの少し良くなる様に、


いつかまた、








君に逢えます様に、と。



どうかおねがいします

それがかなえば

これいじょうないほどしあわせです

Song Dionne Warwick Lyrics Hal David Music Burt Bacharach

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