第22話「HERO」
せかい中の誰か一人の命と引き換えにせかいを救えるとして、
僕は名乗り出られる、傍若無人な男だ。それはヒーローじゃない。生贄だ。
僕が死んで悲しむ人がいる事を考えもしない傲慢な男だ。
僕も小さな頃は、正義の味方に憧れていた平凡な男の子だった。
でも僕にはヒーローになれるだけの資質はないと今は解っている。
僕の身近なヒーローは、兄だ。
まだまだ薬物依存に苦しめられる事はあるけれど、
兄が、僕の命を最も身近に支えてくれている。
僕の出会った人々、誰が欠けても、今の僕の生活はないだろう。
例えばどんな物語にせよ、人が次々と命を奪われてゆく事に、
僕はもう麻痺していた。
特にアニメや漫画、映画は、そんな事をしたら、
一般人は簡単に死んでしまうだろうという仕掛けや技がわんさとある。
とある漫画、とある少年がこんな事を言っていた。
主人公や敵が暴れまわる中で関係もない人々が殺されるなら、
それはその少年にとってはバッドエンドなんだって。
確かにそうだ。
でも現実には不条理も理不尽もある。
僕は創作において、
その不条理や理不尽を除いて物語を綴る事に白けてしまう。
希望の光を見続ける事ができない。
けれど、生み出した登場人物全員に、
その人々一人ひとりにハッピーエンドを用意したい。
そんなジレンマの中で、僕は物語を綴る事が怖くなってしまった。
風呂敷だけ広げておいて、収拾しないだなんて、創作者失格だ。
僕の一番は、創作で倖子君への恋文を綴っていく事だ。
ここにおいては、それだけが望みだ。
僕は僕自身が大人になったとは、とても思えない。
今だってしょうもないガキのままだ。
ようするに、アダルトチルドレンなんだろう。
僕らの世代のヒーローにはギリギリ、
過去に負った傷や、謎、秘密が必要だった。
それからは、無垢な魂こそが正義という変遷を辿った気がする。
僕も創作である程度赤裸々に過去を語ってきたけれど、
まだ倖子君にさらけ出せていない事があるとするならば、
倖子君に、とても心を込めてフラれて以来、
一度だけ、みじめな想いを払拭する為に、他の女性を好きになった事。
しかし、これまたこっぴどくフラれた。
そんな失意の中で、やはり倖子君の面影を追い続けるようになった。
もう、倖子君を愛せないのなら、僕は一生人を愛せないと想い、
今もまだ、君を追いかけ続けている。
兄への借金も返し、手元に70万円程度持っていた時期があった。
僕は、君にフラれても、
そのお金で結婚指輪を送りつけようか迷った。
けれど、
君の左手の薬指の大きさも君に与える恐怖も分からなかったから、
思いとどまり、アイスランドへ旅行に行く事にした。
今でも、その判断が正しかったのか間違っていたのか迷う。
しかし、現状を思えば、僕にはパートナーを得られる資格なんてない。
倖子君? 僕は君が今何処で何をしているか分からない。
素敵なパートナーを得て、
安定した生活を送ってくれているなら、それはとても喜ばしい事だ。
突飛なところもあるから、冒険の毎日もいいだろう。
だけど、どうかくれぐれも、生きていて下さい。
もしも、行くアテもなく、住むところさえ奪われたら、
僕のところへおいで。食と住なら、質素ではあるけれど分け合えるよ。
ここを見ていて、どうしても辛くなったら、メッセージを下さい。
電話番号も住所も伝える事ができるから。
君が幸せなら、僕もまだ生きている甲斐がある。
僕は君のヒーロー足り得ないだろうけれど、
君は僕の、一生の……、ううん、永遠の――……、
ヒロインなんだから。
きみはぼくのヒロイン
ヒーローとは
じぶんにできることをせいいっぱいおこなうひとのこと
歌曲 Mr.Children 作詞・作曲桜井和寿




