表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早水家の日常  作者: 恋刀 皆
17/57

第17話「One more time, One more chance」

 2019年8月17日土曜日大安午前4時15分


 僕は十年以上前に公開されたアニメ映画を鑑賞していた。

その映画はアニメ映画では指折りに好きな映画で何度も鑑賞してしまっている。

その映画監督が歴史的な大ヒット映画を世に送りだしていてさえ、

僕はこの映画が一番のお気に入りだ。

この監督は長編よりも短編が真骨頂だと、僕は信じている。


 正直カルトから出て行かないでほしい監督だったが、

僕と違い、才能も努力もあふれるお方様ですから、

必然的な事だったのでしょう。

仕方の無い事だ。


 その物語は数行の文章で表せるくらい他愛も無いお話だが、

僕はこの物語の映像美と音楽の親和性の高さをこよなく愛してしまった。

そう、彼は僕を優しく殺してくれた。


 齢四十を越えて容姿も冴えない童貞の僕は、

思い出おじさんになってしまった。

懐古厨と呼ばれる程かは分からないが、過去には囚われて生きている。


 寂しい……んだろう。

かといって、現実的に伴侶を持つ事は望んでいない。

ひとりで生まれて、鏡を通り抜けて、ひとりで死ぬんだ。


 死とはいつも当事者には関係が無い。

むしろ、客観視する他者の主観の中にしか存在しないものだ。

生者は死を判断できるが、死者は死を判断する事ができない。


 思い出の中に居る倖子君といつも会話している。

話している事には新しい事柄は滅多になく、ループしている。

けれども僕は飽きる事なく応対する。

それで良いと思っている。


 結婚には恐怖を覚える。自身の醜さが倖子君を酷く失望させるだろうから。

彼女がまだ存在していた頃、

僕は彼女の腕に無駄毛を見つけた。

それは僕にとって絶望と希望だった。

前者は嫌悪。

後者は彼女が生きているという安堵感。

僕自身体毛が濃く、自分の身体が大嫌いだったので、

人間的な性行為というものが、非常にイメージし辛かった。


 そして現在、僕は性行為に憧れがあっても、

決してする事は無いだろうという確信を抱いている。


 僕に魅力が無いというのが第一の理由だが、

僕は人間が嫌いでもあるからだ。


 昔、倖子君に、「人間は好き?」と聞かれ、

その頃の僕は「好きだよ」と答えられた。

彼女は、「私は人間嫌い」と言っていたから、

倖子君が今の僕を知ったら、喜ぶのか哀しむのか興味がある。

とは言え、僕を幸せにしてくれるものは、

今も変わらず、倖子君をはじめとした人々である事は間違いない。


 けれど人間は近付けば近付く程、

ちょっと思いつくだけでも、

体臭や口臭、無駄毛やおくび、おならや糞便との向き合いでもある。

僕は自分の醜さだけでも精一杯なのに、

他者とのそんな向き合いはできればしたくない。

この世は幻想というだけで十分な答えなんだ。 


 それにしては、僕の生活に倖子君が欠かせない。

しかし、きっと現実は、倖子君はもうすでに他の男性と結婚し、

子供を授かり、彼女もまたそんな現実の中を生きているのだろう。


 僕の想いは遂げられないからこそ、保ち続けられるものだ。


 少なくとも僕は僕の身の上に感謝し、倖せでいられている。


 僕はこれから何度輪り廻しても、現実で倖子君と結ばれる事はないだろう。

でも大丈夫だ。心で倖子君を視れば、そんなに悪い気分ではないから。

僕は何度でも君を探しに行く。その度に覚醒めるだろう。




 君は、此処に居る、と。




「愛してる」なんて、本来言葉にすべきものではないのだ、と。








君に、どうか倖せな誕生日を。



 もういっかいチャンスがあればどうかな

きみいがいのじょせいとデートしたこともあるけど

きみがいなくてさみしいだけだった

歌 山崎まさよし 作詞・作曲 山崎将義 編曲 森俊之

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ