第16話「One More Light」
星の輝きひとつひとつに想い入れをする事は、僕にはできない。
けれど、今まであった瞬きが失われた事を知る時、
星々全体の無常に想いを馳せる事はできる。
僕の人生にそれらを当てはめるなら、母という星が失われた時、
次に失われるもうひとつの光は僕でありたい。
ともあれ、瞬時に思い浮かぶだけで数十くらいの星々には、
僕の細い人生にも想い入れがある。
だけど、母を含めて、僕は誰のお葬式にも出席したいとは思わない。
それが不幸にあたるとしても、その報いは受ける。
父が亡くなって今感じる事は、僕の記憶から抹消されない限り、
僕の中でその人は生き続けるという事。
父は生前に「死んだら全て終わり、全部無くなる」と言っていた。
全てが「無」のせかいがあるなら、僕はそれも良いな、そう思う。
ただ、幼い頃父に紙芝居を読み聞かせしてもらった事や、
母に、朝起きられず太ももを思いっきりひっぱたかれて起こされた事、
姉兄に、ずっと守られている事、
姉兄の家族も、叱責もせずに見守っていてくれる事、
父の親戚、母の親戚、もう顔をはっきり覚えていないが、
その人々が尽くしてくれた以上のものを、僕は返せないまま終わるだろうし、
そのぬくもりが僕を維持し続けたいと思わせてしまう、思わせてくれる。
皆に会いたくない訳ではないが、もしも会えても何も話せる事はないし、
どんな顔して会えば良いのかにも困る。
誰にも会いたくないという事は、せかいを滅ぼす事と同じだ。
しばらくの間、この「早水家の日常」以外の創作から距離を置きたい。
僕の創作は、愛する人への恋文というのが初心であって、
それは「早水家の日常」を物語というより日記としてゆくだけでも、
十分だから。
本来なら、今後の創作は様々な死を綴ってゆくつもりだった。
だけれど、そう決めてから創作意欲が損なわれていった。
原因はわからない。しかし、それは僕にできる事、
本当にやりたい事ではないのだろう。一文字も進まなくなってしまった。
普通の思考、その言葉は全知全能者だけが語っていい言葉だ。
僕も社会の洗脳化にあるが、僕を含めた人が語る言葉は、
全て偏見にまみれた主観でしかない。
人生は何処にいても、常に崖の上だ。
そして、どんな輝きも、いずれは失われる。
僕が輪廻転生を信じるのは、在るものを在ったと思いたいだけだ。
倖子君の形や声音、身につけているものや、感情の色彩。
そういった刹那的な装いに、完全にまいってしまったから。
また、逢いたいな、そう想う。
人に、根源的にしてはいけない事なんてあるのかしら?
人生を喜劇にするのも悲劇にするのも、自分の心の在り方次第。
人が神仏を信じるように、
神仏もまた、さらに上位の存在を信じているのだとも信じている。
終わりが無いという終わり。
せめて、どうか、
生命の最期が、全て望む御許へと還れますように。
愛してるよ
つたえたかったことをつたえられなかったことがくやしい
それはなに?
ぼくがきみをきにしていたこと あいしていたこと
歌 Linkin Park 作詞・作曲 Mike Shinoda Francis White




