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早水家の日常  作者: 恋刀 皆
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第12話「ウィアートル」

 突然ですが、あなたはこう訊ねられたら、どう答えますか?


「自分以外の家族が死にたくなる程困っていたら、助けますか?」と。


 僕はその言葉への回答を持て余してしまいます。

「当たり前」、そう即答する事ができません。

何故か、そんな事すら即答できなくなってしまいました。


 僕自身、生きていたいと思いつつも、

障害者というお荷物で居続ける事に疲れてしまい、自身を投げ捨てたくなる。


やるべき事をやらないと、どんどん辛くなるのは目に見えていても。


 その質問に即答できない僕は、

とりあえず自分自身を哀れんでいる事だけは……、

その気持ちだけは、心に残りました。


 障害者手帳を持っています。

「障碍」でも「障がい」でもなく、「障害」という厳然たる事実があります。

僕自身は障害者と呼ばれようが、障碍者でも障がい者でも、

どれでも構わないと思っています。


 区分けしないと制度が成り立たないでしょうし、

社会の障害おにもつである事はわきまえているつもりですから。


 僕の生活状態はほぼ日々バラバラで、最近は寝込む事が増えました。




 誰の事も責めず恨まず、自身の生命が絶てたならいい。




 死のハードルを乗り越えた経験が、三度あります。


 一度目は、自宅にて病院で処方されたお薬を大量に飲んで、

筆舌に尽くしがたい痛みで気が付いたら、

周りに医師、看護師と思われるお方々に囲まれ、

激痛の中また意識を失い、

ふたたび意識が戻った時は病院のベッドに寝かされていました。


 二度目は、父に包丁で腹を突き刺される寸前に。


 三度目は、致死量を確実に超える薬の分量を確かめて自殺を試みましたが、


まだ、生きています。


 四度目がいつ訪れるのかは分かりませんが、

自殺には毎度毎度気合いが要りますし、

例えば投身自殺や凍死を選んだとしても、

もしかして半身不随などで生き残った場合、

今よりももっと悪い状況に陥ってしまいかねません。


 社会のお荷物、障りある害なす者。

ですが、まだ社会は良いのです。

問題は、僕の周りに居てくれる人々への害。


 僕の為に大切な時間を使ってくれている人の善意を無駄にする。

それが怖い。


 唯一社会貢献らしい事に、作業所への通所がありますが、

そこでもまだまだお荷物です。


 人間には、


知り合いだから言えない事、言ってはいけない事が、


友達だから言えない事、言ってはいけない事が、


姉兄だから言えない事、言ってはいけない事が、


親子だから言えない事、言ってはいけない事が、あるのだと思います。


僕はそれらを踏みにじってから後悔し、どんどん動けなくなってゆく。


僕はかなり倖せな身の上のくせに、誰にでも不幸面を見せる。


 今の生活で最も幸福な時間は眠っている時、

眠っている時だけは文字通り自由に夢を見ていられる。

起きた時は、「嗚呼、またここか……」そう思ってしまう。


自分のやる事なす事醜くただれていて、誰かに許しを請いたくなる。


それは一体誰で、

どれだけの数の生命にそうしなければならないのかもしれない。


 希望は現時点では創作しかない。

潔く死なせてはもらえないみたいだ。


 だったら無様でも生き続けるしかない。

焦らなくても、死は平等に訪れるのだろうから。


 創作が進まないと、愚痴や泣き言ばかりになる。

今は少しトンネルの中に居るだけだ。


 本当にどうでもいい事だけど、

「少」の漢字って結構イケメンに見えるのは僕だけだろうか?


 三日前が母の日だったので、

特養にお世話になっている母とほんの少しお話したけれど、

母もずいぶんまいっている声音だった。




 いつも ありがとう




 そんな言葉だけしか出てこなかった。

母にはよく叩かれたけれど、あの痛みも懐かしい。


 母より先にだけは逝きたくない。


 僕の周りには、僕よりずっと強くて優しい方ばかりいらっしゃる。

劣等生が嫌なら、努力するしかないが、

努力してまで手に入れたいものは全て失われてしまった。


生きていく為には、みんなの支えと、細々とした創作と食事があればいい。


 そして、どうか、僕もたったひとりでいいから誰かの支えになれたら、

生まれてきた甲斐もあったってもんです。


 僕はバランスを崩している。

だから、

こうやって自分自身を突き落としたり持ち上げたりして、

丁度良い場所を探している。


一体何の為に? それに何の価値が?


そんな事は知らない。




でもきっと、全部生ききる為にやっているんだと思います。




 言葉にできない想いを、言葉にしようとするから、無理が出る。

僕には人に与えられる有益な才能なんてない。


誰かの為に、なんて、そんな言葉信じられない。


しかし、誰かの為に何かできたら嬉しいに決まってる。


僕は母を見捨て、母も僕を見捨てた。


それが、僕の生き方が導いた結果です。


母は僕に大人になりなさいと想い、僕は母に若返れと無茶を言う。


どちらが正しいかは自ずと知れる。


 けれど、今では母親でさえ一緒に居る事がいたたまれない。

僕は異邦人だ。

TPOとかドレスコードだとか、人と居ても情報過多で戸惑い、

いつも道化にしかなれない。


 表面だけはなんとか繕うが、長く関係を続ければ、みんな僕が嫌になる。

そして、それを全て「仕方ない」だけで済ましてしまうのだから、

深い人間関係なんてつくれっこない。ほんの小さな悩みです。


誰だって多かれ少なかれわいて来る、大した事のない悩み。


 お読みいただいた方には申し訳ないけれど、

どうか僕の発した下らない言葉なんて忘れてしまってほしい。


僕から生まれた言葉だけれど、僕にも制御はできないんです。


 多分、まだここでやっておかねばならない事があるから生かされている。


 それが何かは分からないけれど、

今日一日だけ、生きてみようと思う。


 もう残り時間を数え始めたけど、

今日一日だけ生きてみようと思うを、

あと幾千幾百続けるだけだ。


 そう考えてみれば、人生なんてあっという間だろう。




それを終えたら、








また新たな旅路へと向かうのです。



いちもんなしのたびびとは

どろぼうのまえでうたうだろう

ことばはとぶがかかれたものはとどまる

歌 rionos 作詞 riya 作曲 rionos

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