第1話
こんばんは、サルタナです、
剣と魔法のファンタジー、その人間模様を描いていく筈が…、
キャラ達を考えてる内に、ちょっと違った感じになってしまいましたが…良かったら、暖かい目で読んでくださいますと嬉しいです
それは…闇
「ぅ……ひっく…」
その暗闇を照らす明かりは無く、
ぽっかりと一点を除いて、何処を見渡しても日の光も無い夜の闇が広がっている。
「うう…っ…ひっく」
その一点は、暗闇の中のその中心に幼い人影が大地に腰を落とし、ぺたんと少女の様に座っていた。
ぼんやりと見えるのは少女自身の姿、自身の身体だけが暗闇の中で異物の様に浮かび上がっている。
「……もう、嫌だよぉ…ひっ…く」
そんな夜の闇が己を包んでいる中で…。
「うっ…うぅ…、…怖いよぉ…、誰か……助けてよぉ…」
視界を晴らす明かりの無い闇は、人の恐怖の感情を掻き立てる、その闇に潜む『ナニカ』を人は恐れてしまう、
自分にとって恐ろしい、見えないその『ナニカ』が潜んでる様に、そう思ってしまう。
『オマエ、副団長の息子なんだって?』
「…ひっ……やめて…」
突然、闇の向こうから自分に向かって知った声が聞こえて来る。
その声に少女は、小さく悲鳴を上げ、声が聞こえてくる正面に、月明かりに照らされた夜空の様な紫色の両目を、恐怖に大きく見開く。
『ははっ!、ダッセェなぁ!、こんな事も出来ないのかよっ!』
『男の癖に、ナヨナヨしちゃってよー!』
『うわっ!、コイツ男の癖に、もう泣いてんぜっ!ほんと、ダッセェ!』
『同じ男に、殴られたぐらいで泣くなんて、恥ずかしく無いのかよ!』
『本当に男かぁ?オマエぇ!、ほらほらっ!悔しかったら反撃してみろよっ!そのほっそいナリで出来んならよぉ!』
『痛い!、やめてよっ!』
少女から見て、別な方角から、次から次へと己を蔑んだ言葉が、暗闇の中を木霊する。
桃の様な果実を思わせる長い髪を大きく揺らし少女は、まだ幼い落ち葉の様な両の手で耳を塞ぐ。
…初めは小さな事、ささやかな人と自分の違いから始まった事だった…。
例えば、同い年の子に比べると身体の成長が遅いとか、男の子なのに料理が好きで、その事ばかりを異性の女の子達と話して、男性らしさと言う『モノ』が出来なかった。
だから周りの模造剣を振り回したり、身体を動かす事が好きな男の子達とふざけ合ったり、楽しく話してる様に、男友達を作ってお話したかった、仲良くなりたかった、たったそれだけの事
不思議と自分の中で楽しいと思っていたから、それとも夢中になっていたからか、最初はそれで良かった…と思っていた。
だけど、自分の周りの子達は、それを受け入れなかった…
暗闇の中に過去の情景が映し出される。
『男の癖に料理!?、オマエ馬鹿か?、料理なんかっ!女の仕事だろっ!?、何言ってんだよ!』
『えっ…!、でも…楽しいよ…、お料理とか…ママも褒めてくれるし…、美味しいの出来た時、とっても嬉しいし…』
何処かの教室を思わせる背景に、身体の大きな少年と少女が映し出され、その2人を他の少年少女が野次馬の様に囲む映像が流れる。
『はぁ!?、何だよそれっ!、男の癖に女の真似事すんのかよっ!キモチワリィなぁ!オマエっ!男は身体動かしてなんぼだろっ!』
『キモチワリィ!ってなに!?、俺!結構美味しい料理作れるんだよっ!』
『は?、なに言ってんのかよく分からんねぇ!ってか、前々から思ってたんだけどよぉ!オマエ本当に男か!?実は女なんじゃねぇの!?』
『えっ!?違うよっ!男だもん!』
『って、言ってもよぉ!オマエ身体小さいしよぉ〜!、髪も俺らより長くしてるしよぉ!、同じ学院の制服着てても!遠くからみると女にしか見えねぇんだよなぁ!みんなもそう思うだろう!?』
一回り背の大きな影が、自分と少しだけ大きな影達に問いかける。身振り手振りを使って…大袈裟に。そして自分は正しいと言う事を訴えかける。
『実は、親の権力使って!先生達を脅して、そんな格好してんじゃねぇのかよっ!オマエ!』
『違うもん!、そんな事して無いもん!』
向かい合う大きな影の言葉に、瞳が少しだけ濡れる。
『どうだかなぁ!、オマエあの副団長の子供、いや!娘とかだもんなっ!』
『違うったら!違うもん!』
音声だけが…暗闇の彼方此方から声が木霊し、その言葉に返答する『あの時の自分の言葉』が、暗闇の中に響き渡る…。
いつの間にか、映像に映っていた少年は…黒い人の影の様な『ナニカ』に変わって行った。
その『声』と『声』の言い争いから背ける様に、暗闇の少女は、瞼をぐっと閉じ涙を拭っていた細い両手で己が両耳を今一度塞ぐ…
そんな些細な子供の言い争いから始まった。最初はギルドの先生達が仲裁に入り事なきを得た…。
……が、その自分と言い争いをした、相手は幼いながらも、悪知恵が働くらしくある事無い事を周りに言いふらしたのだろう。
事ある毎に、周りの子達と違っていた自分…..、その度に『男の癖にっ!』と罵倒され、
終いには、クラスの女の子からも…
まるで、カセットテープを切り替えたかの様に軽い音を立てて、映し出される映像が変わった。
『ねぇ、あの子、実は…だってよ』
『えっ!?、そうなのっ!?』
場面は夕暮れ時の廊下の様だ、天井付近の壁の窓から空がみえ傾た太陽の光が射し込んでいる。
「やめてっ!」
少女が叫び、目を背けて尚、その映像は途切れる事なく再生されている。
映像の中で少女は、鞄を背負って歩いている。
この日は、遠い異国で戦っている兄の様に慕っている人物から送られた、お下がりのTシャツを着ていた時の事だ。
サイズは勿論ブカブカで、太もも付近まで丈が届き。市場のお姉さんにワンピースみたいね、とからかわれたものだ。
教室からの帰り仕度を終えて、階段を降り昇降口が目の前に来た時、その声は再び聞こえて来た。
『そうらしいよぉ…、怖いわねぇ』
『あんな可愛い見た目なのにねぇ…、ってか、男子に可愛いってのもオカシイ話よねぇ…、気持ち悪い…』
自分の背後を歩く少女が2人。
『そうそう!気持ち悪いよねぇ!』
『そうそう!、本当に…』
『…キモチワルイ…』
その声が聞こえた時、少女は恐る恐る振り返ると、少女達の姿をした『ナニカ』が赤い口元だけで笑っていた。
最初の小さな事から、どんな話が周りに広まったのか…、ボクは知らない、
…だけど、周囲の反応が、幼い自分でも分かる程に変わって行き…、学院の何処に行っても誰と話しても…裏目に裏目に働く様になった。
『アイツは、こうだから、キモチワルイのだ…』と言う様に。
そして、いつしか、自分は一人ぼっちになって行った。
『早く消えてくれればいいのにねぇ…』
女性だろうか、映像の中で影が言った。
誰かがポツリと呟いた。その言葉が水面に落ちた水の一雫の様に、暗闇の中で響き渡る。
『そうそう、副団長の子供だからって、良い気になってさぁ、今時……なんだよ』
女性に答えるかの様に、男の影が映像の中で現れ。声だけが暗闇の中で聞こえてくる。耳を塞ごうと無駄たと言わんばかりに、少女が佇む暗闇の中に響く。
その一雫から始まった雨の様に、また一つ、また一つと声の波紋が広がって行く
『アイツ家って、何代か前までは俺達と同じ平民だったんだろ、たまたま爵位得たらしいじゃん』
『そうなの?』
また、別の声だ。
『そうそう!、親父や母ちゃん達が話してるの、俺聞いたもん!』
更に、違う少年の声が聞こえた
『へぇ、なのに、偉そうに、色々な事を、影でやってんだぁ!』
『らしいよー!』
楽しそうに、それはそれは楽しそうに、悪意の言葉を彼らは紡ぐ。
『今時、魔物なんて、森とか入るか《アッチ》の方しか居ないじゃん!』
『そうそう!だから、アイツん家の親、外国の《アッチ》行ってるから中々帰って来ないんだってぇ!』
『へぇ…だから、あんな腐ってんだね、そうなると、あの頭のオカシイ格好もなっとく〜、カワイソー!』
『ハハッ、そんな思っても無い、棒読みとかしてやんなよー!聴こえてるかも知れないぞー!』
まるで、冗談の言い合い。
幼いながらの楽しいひとときの中で、悪意の言葉が吐き出される。
聴きたく無い…
ココに居たく無い…
嫌だ、どうして…
今ココに居る事と言う現実、中傷の言葉、学園の何処に行っても、何をしても、一度根付いた悪の印象が付きまとう学園。
今自分は、確かに、大地に立って居る筈…なのに、ココから逃げ出したい、ココに居る事が間違いと言う考えが、自分を支配し、地に足をつけて居ない様な感覚に襲われる。
本来、民を護って先陣を斬ると言う王国騎士団、その副団長の息子の少年に対しての扱いでは無い筈なのだが…平民からの成り上がり、息子らしからぬ見た目、言動も実力また…、学園では下から数える方が早いと言う少女。
最初は、小さな言い争い程度の意見の食い違いと、その相手からの悪巧み、ソコから始まった嘘の噂話
そこに、副団長の息子らしからぬと言う、親達先生方からの少年への扱いが、評価が。
大人の意図しないながらも、子供達に伝わり。
親達の話ぶりから、噂話が本当だと、成り上がった権力で悪の限りを尽くしていると、子供達に伝わった形だった。
純粋な悪意、幼いが故に些細な違いを食い違いを認める事も、知る事もしない。
多くの人とは異なる存在は、悪なのだ。
小さな一雫から始まった波紋は、夜の海の津波の様に、次から次へと少年の『心』と言う小舟に襲いかかる、日が経つにつれて大きく、大きく
それは、まるで小舟を粉々にせんとする嵐、
いつまでも、過ぎる事の無い嵐から、身を守るかの様に、学園に行く度背を丸め、常に下を向いて通って居た。
どうして、こうなったのかが、分からない。
どうして、今の様になってしまったのかが分からない。
どうして、なんで、こんな風に自分がされてるのか、分からない。
分からない、人の心の他人の考えが、まるで
……そんな分からない事だらけの、自分以外の人々が、まるで…。
まるで、日の差さない暗闇の様にみえた。
暗闇は学校だけに限らず…
『おいっ!、また!お前は!負けたのかっ!』
暗闇の世界に先程とは違った、地響きの様な怒鳴り声が響く。
誰かが乱雑にテープを入れ替えたかの様に、鈍い音が聞こえた。
『座学の成績も、模擬戦も、何もかも!お前はっ!』
『それでもっ!、俺の息子かっ!?恥を知れっ!、お前の顔なんぞっ!見たくも無いわっ!』
『……ごめんなさい…』
地響きに、小さな波紋の様な自分の声が答える。
映像に出されたのは、少女の家の談話室の様だった。
大きな暖炉に豪華な椅子が立ち並ぶ部屋の中、少女が一際大きく豪華な椅子と向かい合っている。
その椅子に座っているのは、父親だ。
黒い影の様な姿で映し出されて尚分かる。
『ごめんなさい!?、今ごめんなさいと言ったかっ!?貴様っ!、なんだ、その女みたいな謝り方はっ!誰が教えた!、すみません!だっ!』
『あなた…、もう落ち着いて…、許してあげましょうよ…、この子も…』
父親の影に寄り添う様にして、添えられた椅子に、小さな明かりが灯る。…母親だ。
ここにして、影ではないものが現れたのは…きっと少女の心の気持ちの表れだろう。
いつでも母は味方だった…だが、複雑な心象を抱えていた少女を表すかの様に、母の明かりを覆う様に…薄い影が見える。
『ええいっ!うるさいっ!女の癖に!男同士の会話に割り込んで来るんじゃ無い!、コレは頭首と次代の頭首の将来に関する重要な話だ!、女の癖に!そんな会話に口を出すんじゃ無い!』
『そんなっ……分かりました…申し訳有りません、旦那様』
『そうだっ!それで良いだっ!お前も昔、そう望んだでは無いかっ!』
『アレは……』
庇ってくれる…優しくしてくれる…でも、結果は同じ…諦めて怒られるだけしか、救いは無い。
それが終わるのを待つしかない、だから…自分の目に映る母の存在が複雑なのだろう。
家にも…、少年にとって暗闇が広がって居た、幸い親達が帰ってくるのは多くは無いが…、
でも…帰って来た時には、少年の心を瞳を揺らす様に…地震の様に。次々と怒鳴り声ばかりを浴びせてくる。
そこで映像は終わり、再び暗闇の中に少女だけとなる。
少年の世界は、暗闇ばかりだった。
涙は止めどなく溢れ、しゃっくりを繰り返す。
いくら目を擦っても変わらない闇。
掻き分け用と、小さな手を振りかざしても晴れない闇。
いくら髪を振り乱しても、顔を…視線を…巡らせて、歩みを進めても見つける事の無い闇の中の出口。
いつしか少年はは、心の中で手を伸ばした。
誰にも、その手を握って貰えないと知っていながらも、懸命に…。
誰か助けて…と心の中で叫びながら。
そんな世界に、雲から刺す太陽の光の様な、小さな一条の光が少女を照らした。
『なぁ?、お前、大丈夫か?』
その一言の言葉と共に一条の光が刺すと、その輝きは、みるみる周りに広がり、やがて伸ばした右手に確かな温もりが返ってくる。
『もう、大丈夫だっ!俺が護ってやるからさっ!』
その光が…温もりが…少女の暗闇を、
『俺の名前は、ケビンってんだ!、なぁ!俺の友達になってくれよっ!良いだろっ?』
晴らして行く…、
ーーー
ゴンッ!ドシンッ!
鈍い音と共に、小さな星が眼前に広がり、頭部の後ろから前へと痛烈な痛みが全身を突き抜ける。
「いっ!!」
余りの痛みに、細い両手を頭部に回し、少しでも痛みを逃がそうと、身体ごと横に倒れる、
大きめな掛け布団が引っ張られ、床に落ちた。
「いったぁ〜いっ!」
だいぶ痛みが落ち着いた所で、掛け布団に押し潰される中で若干くぐもった声を漏らす。
「うー…んん…」
「なんだ…夢か…」
ちょっと涙目になりつつ、猛烈な痛みのお陰で覚めつつある頭を回転させ夢だった事に思い至るが…、
だが…その夢は、今からほんの二、三年前まで現実に毎日起こって居た事だと、思い出し呆れた様な疲れた様な、 …何処か安心したかの様な複雑な気持ちを込めた、そんな長いため息を漏らす。
もしも、この場を誰かが見て居たら、寝相の悪い少年が、ベットから頭から落ちて、
痛みで目が覚めた事から、その事に気付いて、ため息をついた様にみえただろう、
まぁ、実際は、両方かも知れないが…
コンコン…コンコン…
少年がまだ、少し痛みが少し残る頭を片手で撫でつつ、一つ欠伸をした後、片目の涙をぬぐって、重い身体でベットの上によじ登ると同時に、部屋の中に木製のドアを叩く様なノックの音が響く。
少年は、窓辺のカーテンから漏れる部屋を照らす光を頼りに、まだ、慣れない部屋を寝起き頭を回転させつつ見回す。
部屋の作りは、四角の木造で、部屋の隅にポツンと一つ机があり、机の上には魔道式ランプが置かれている、
部屋が木造だが、置かれている魔道具、
魔道具は!、オリジナルからの複製された順番的には古く、オリジナルに近い形をしている!と、友人のマルクドが言っいた事を思い出すが、自分にとっては、よくわからない、
売ってるのをみても、全部同じにしか見えないのだから、仕方ない、その辺は専門なマルクドが言うのだから、そうなのだろう。
今回の宿は、彼曰くは「アタリ」らしい。
……コンコン…コンコン…コンコン
ノックの音を寝ぼけ頭の片隅に、少年は、ぼんやりと部屋を眺める
机が置かれた壁とは反対側に、両開きの窓があり、窓の正面にはベットと小さな棚、
棚の上にも、夜、寝る前に手元を照らす為だろうランプが置かれ、その横に、少年の私物であろう、
鈴のついた紐が二本並べられて居る、
今はカーテンが閉められているが、カーテンの下から漏れる、窓の明かりは結構…強い、時折カーテンがなびいているのは、もしかしたら、昨夜、窓をちゃんと閉め忘れたかも知れない……、
どうやら、お天道様は、とっくに営業時間を迎えて久しい様だ。
…カーテンから流れてくる、弱い風も……結構暖かい
ヤバいかも知れない…と、先程とは違った意味で意識がハッキリしてくる
……コンコン
……ドン!ドン!
ノックの音に、力がこもって来たのは、少年の額に、暑くも無いのに汗が流れ始めたのと同時だった!
「オイッ!起きろ!、アーシャ!!、オイッ!いつまで寝てんだっ!、ゴラッ!、遅刻すんぞ!遅刻!今日は学校で健康診断の日やろ!」
そして、部屋の中に、怒鳴り声にと似た、先程思い浮かべていた友人………
……マルクドの声が響く、
「チッ!、こうなりゃっ!しゃあ無いわっ!、こうなりゃ宿のオッチャンには、申し訳あらへんけれど、実力行使で…」
「わぁーーー!、待ってっ!待って!起きたからっ!ドア破壊するのだけはやめてっ!」
「今から着替えてすぐ行くからっ!」
かなり物騒な声が聞こえ、少年……アーシャは焦った様に、ドアの前で相手に見えもしないのに、両手をつきだし「待て」を促しつつ叫ぶ、
気が動転してるのだろう、思わずそうなってしまうほどに、ドア越しなのに、殺気にも似た迫力を感じた為だ。
彼の殺気は怖い、以前ギルドの依頼で一緒に行った時。見に染みた。
野盗共を討伐する依頼だったが、野盗達が可哀想でに見えた程だ。
「良かった!起きとったかっ!、早よ準備して行けよ!アーキッド!」
「わかった!分かったから先に降りててっ!」
「早よ頼むなー!」
アーキッド・シャルルニカ、
ソレが、少年の名前、一部の人の間では、略して『アーシャ』…と言われている。
少年、つまり男なのに、あだ名の響きが女性的なのには訳があり、その理由は少年の見た目にある。
髪は、甘い果実を思わせる様な桃色、
窓から届く、弱々しい風に撫でられて、カーテンと共に薄っすらとなびく長髪。
前髪や襟足の辺りはボサボサと短めにしているが、後ろが長いので、髪の長さだけでも女性的な印象を受ける。
もちろんそれだけで女っぽい!と思われているのではない。
今は困った様な表情をしている為か、八の字に近い眉、紫色の大きな瞳、雪の様な白い肌に、
男性にしては、かなり華奢な身体のせいなのか、小顔。
オマケに、髪と同じ色のパシャマ姿である。桃色。
容姿は母親譲り、そして現在のパジャマも母親のお下がりで、今はちょっと大っきい程度。
割と着易いのだが…、男としてどうなんだろ…と言うのが悩ましい所である
そして、その様な容姿、声も現在の15歳で活発な女性の様なソプラノボイス。
コレらが原因で、学院に通い始めた頃は女の子達に、あだ名をつけられ…。
クラスから先生まで、良くも悪くも親しまれてしまった…そんな『あだ名』である…。
コレが二つ名の様なモノだったらまだ良かったのだが…、この見た目と『あだ名』のおかげで、
初対面の相手からは絶対に女の子だと思われる可能性が高いのだ。…と本人は思っている。
確かに、性格として誰かを強く否定出来ない所が有った。だから、それも一つの原因。
そう言うには正解であろう。だが…理由は他にもあるのだが…。本人は気づいて居ない。
ドアの向こうの声の主は、アーシャが起きてるの確認するや否や、早々にドアから離れ、宿屋二階の廊下から下階への階段に向かったのだろう。まるで母親か?と思ってしまう程に面倒見が良い彼の事を思い浮かべると、笑みが零れた。
催促の言葉は、少し遠かった。
過去の嫌な記憶を夢で見た所為なのか、もう慣れてしまったと思っていた筈の『あだ名』によって再び胸が重くなる。
母親譲りの容姿を、少し恨めしくも思いながら再び長いため息を吐くと、
棚から紐を手に取る、すると手早く慣れた動作でアーシャは、後ろ髪を首元と毛先の辺りでまとめる。
毎朝の事だ、そして紐に付けられた鈴が澄んだ音を小さく奏でるのも、いつもの事。
その透き通った音色が合図と言う様に、ベットの隅に小さな光が二つ集まると、その光が羽根の生えた人型に、そして、もう一つは獣の姿になって行く。
「やぁ、おはよう、メイ!カイ!」
『……』『………!』
羽根の生えた人型、いや、淡い光を放つ侍女服を着た小さな少女は、口を少し動かすと、長い前髪のせいで口元しかみえない頭をペコリと下げた。
白い虎にも似た獣の方は、鳴き声は聞こえないが、口は動いている。
二匹共、挨拶を返してくれてるのだろう。
自分に彼等の声は聞く事は出来ない、その『力』も『資格』も失ったのだから。
されど、いつの日か少しの間だけで良い、話をしてみたいものだと…思っている。
…たとえソレが叶わない願いだと知っていても。
すると、メイと呼ばれた妖精の少女は、着替えを手伝ってくれるらしく、身振り手振りでこちらに伝えてくれる。
獣の方は、着替えはメイの担当だと言わんばかりに、扉の近くに飛んで行くと、猫の様に丸くなった、
実際1人で着替えも出来るのだが、拒否すると頬を膨らませて…その後ずっと微笑んでいるのだ。
正直怖い…、獣の方…カイも尻尾を隠す程に。
「ありがとう!メイ!さっさと着替えて行こう!」
妖精メイに手伝って貰った甲斐もあり、蔦がなく着替えを終えるとアーシャは、自分の部屋を後にする。
もちろん、戸締りオッケーッという様に、メイと仕草で語り合う。
「やばい、やばい!急いで下に行かなくちゃ!」
アーシャが慌ただしく廊下を駆け出すと、髪留め鈴がチリンチリンと音色を奏で、時折木質で出来た廊下がキシキシと小さく鳴いている。
アーシャ達が住まう宿は、ギルドの二階に有る。
ギルドが運営している簡易的な宿で、ギルドが提供している事業は多義に渡る。その一つであるのが『宿』だ。そんな事から始まり…
他に教会と連携して治療を主な目的とした病院、
平民や貴族など人種や出生の問わない学校、多くはないが孤児院なども運営している。
街々によってそう言った副次事業をやってるギルドは異なり。
魔物討伐や町の中での依頼が少なくなった現代のギルドが運営して行く上で、必要とされた上で取り行って居る事業である。
階段を降りればすぐ受付と酒場と言った作りになっていて、
二階には、多くの部屋がありパーティ間で一部屋から二部屋まで部屋と部屋が近い様に貸し出されており。
アーシャ達のパーティもマルクドとアーシャで二部屋借りて居る。
「ハァ…はぁ…、急げ、急げぇ、結構待たせちゃってるかな?」
マルクド時間厳しいんだよなぁ…ケビンとか、ナタリアちゃんみたいに、もう少し優しくしてくれないかなぁ…」
だいぶ廊下もそろそろ終わりと言う所に来て、疲れが出始めたからか、足取りがゆっくりになりつつ。
そんな事呟きをアーシャの肩と太ももにしがみ付く召喚獣二匹は、軽く口を動かしつつ、アーシャの身体をペシペシ叩いて答える。
「分かってるよぉ、起きなかったボクが悪かったって」
「でもさぁ、マルクドいっつも心配してくれるのは嬉しいけど怒ると怖いんだってぇ」
早々に重くなって来た両足が、悲鳴を上げ始めた頃。
木でできた廊下の窓から見知った姿が見えた。その姿を視界に捉えた瞬間。
アーシャは窓を開けて、疲れ始めた事も忘れて、まるで猫の様に近くの木へと飛び移る。
しなやかな身体を生かして、枝にしがみ付きクルッと一回転するかの様に、目的の木の枝に座り込む。
目的の人物『達』は、どうやら朝の鍛錬の最中の様だ、
上半身に何も纏う事無く、剣を水平に構え、何度も何度も振り下ろす。
そして、その鍛え上げられた体を屈めつつ横から振り抜き、雑草がその剣圧で出来た風に舞う。
時には下から切り上げ、その勢いそのままに空中へと飛び立つ。そのまま身体を回転させると。大きな音を立てて大地へと斬り下ろす。
思わずいつ見ても、凄いとしか言いようがない剣さばきに、木の上から拍手を送る。
「起きたか、アーキッド、遅かったな」
彼なら気配で気がついていただろうな、それほどまでに手練れなのだ。自分と違って。
「昨夜は、眠れなかったのか?」
全身から熱を発して居るのが分かる様な湯気が上がり、男はアーシャが座する木の下のベンチに歩みを進めてくる。光る汗さえも、美しさにしてしまう様な美形だ。全く羨ましい。
その男の容姿は、黄金の様な輝く因子を放ち、男の動きに合わせて流れる長髪
今は訓練中だが、依頼の際には、白を強調した金の装飾のついた鎧に胸から肩にかけて身を包み、肘から拳、膝から足にも同じ白の鎧が装備されている。
瞳の色は、青、非常に整った顔立ちをしていて、身長185cm、体重78キロ
鎧で包まれていない所から鍛え抜かれた肉体が、服の上からでも分かる程である
「おはよー!!、ケビン、そんで!ナタリアちゃんも!」
ケビンと呼ばれた男は、ベンチに座っていた金髪の女性が持っていた本をそっとベンチに置くと、金髪の女性…ナタリアからタオルと水を受け取り。疲れを癒して居る。側から見てもいつもお似合いだと思う二人の姿だ。
ナタリア・Q・コルボジーア
その容姿は、絶世の美女と言って差し支えなく、金の巻き髪に少しつり目がちな蒼の瞳がいかにもお嬢様な印象を与えるが、
アーシャの元気に大きく肩で腕を振って来る挨拶に、優しく目を細め、中指に銀の指輪のついた手で控えめに振り返しつつ、おはよう…と挨拶を返してくれた。
女性らしい起伏の富んだ体つきを胸元の開いた白のワンピースにも似た服装で身を包み、その上に緑の大きめなフード付きのマント首から小さな青水晶のついたネックレス
ケビンの容姿と似通って居るが、兄弟と言う訳では無く2人は「許嫁」であり、
「王族」と「騎士」の関係であり、アーシャの幼い頃からの友人である。もしかしたら、かなり先祖を辿れば何処かに縁があるのかもしれないが、…とそれぐらいだ。
「改めまして、おはようございます?アーシャ。そして小さな召喚獣さん達。中々起きて来ないから、また体調を崩したのでわないか?心配しておりましたのよ?」
アーシャの肩や太ももにしがみ付く彼等にも丁寧に挨拶をする彼女。その小さな手を頬に当てながら、眉をひそめるナタリア
「……あはは、ごっめ~ん…昨日はちょっと眠れなくてさぁ」
再びアーシャは枝を鉄棒か何かに見立てるかの様に、身体を回転させて二人の前に降り立った。そして両手を頭の後ろで組み、申し訳無そうに微笑む
「そうでしたの…今日は学園中期の健康診断では有りませんでした?、久しぶりに皆と顔を合わせますものね…」
あ、ヤバイと思った。
「うっ…うん」
「ギルドの教官や先生方も、学園にはいらっしゃいますし、緊張して眠れないのもわかりますわ」
「私の貴族院の方では日程は異なりますし、ケビン様もマルクドも、この前終わった所ですも
の」
「そ…そうだよねっ!!」
ナタリアの言葉で思い出した。
そんな会話をしてる中、ケビンは何かを察したらしく、まゆを潜めて視線をアーシャの後ろに向ける。
ナタリアもケビンにならって視線を向けると、あっという声を上げて両手で口元を隠した。
「やーっと!起きよったか!?、このメモン頭はっ!!?」
ガン!と鈍い音が聞こえた気がした。先程起きた時に頭部に再び痛みが走る。
「いっ!!」
「っ〜〜〜!!」
声にならない悲鳴を上げて、思わず蹲る。
「折角起こしに行ったのに、いつまで経っても降りてけえへんと思ったら!こんな所で油売っとたんかいな!早よ学園に行かんかい!」
「はーい…」
涙目でタンコブを摩りつつ、アーシャは駆け出すと宿屋の横を通り過ぎて目的地まで向かっていった。
その姿が見えなくなった所で、ケビンが二人に視線を向けると、彼らは頷く。
それが合図だったかの様に、ケビンはアーシャの後を追った。
「マルクド…少しやり過ぎでは有りませんか…?彼が可哀想です。」
ナタリアが抗議の声をマルクドに向ける。
「ええんや、甘やかし過ぎてもアカン…これぐらいが丁度ええねん」
「…ですが」
尚も言い募ろうとするナタリア。
「だから、ええんやて、アイツだってそこまで気にしてへんよ…多分」
「分かりました…所で…」
ナタリアは何処から取り出したのか、紫の花の絵が添えられた扇子を広げると口元を隠し…その優しげな瞳の雰囲気が変わる。
「探し物は見つかりましたか?マルクド・Q・コルボイ」
こんにちは、こんばんは、おはようございます。サルタナです。
初めましての方、もしかしたら別な私の作品から読んできてくださった方々いるかもしれませんが。
こちらの作品を手にして頂きありがとうございます。
どうやら敵キャラに転生してしまった様ですの未来編と言った今回の作品ですので、そちらも読んで頂けtらと思います。
初めは、こんな感じですが…、良かったら…、見て行って下さいますと嬉しいです。
では、また次回。