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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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もふもふ

「ただいま帰りましたー」


 窓口にいる寮母さんに挨拶をする。リッカは飛んでいるからいいが、コハクは足を拭かなければならない。猫状態のコハクを抱えて部屋まで連れて行こうとすると寮母さんに呼び止められた。


「男子禁制ですよ、アリシアさん」

「ええ?猫…と言うか精霊もダメなのですか?」

「ええ、男子禁制です」


 寮母さんはにっこり笑って言う。長年勤めているらしく、肝っ玉が据わっていて些細な出来事ではびくともしなさそうな感じ。寮に侵入する不審者を撃退したこともあるそうだ。一本筋が通っていて物腰が柔らかいが間違ったことは許さない。


「皆さんが連れている魔法生物のなかにはオスはいないのですか?

「あなたの連れている生き物は魔法棟で人型になったと聞いています。何か間違いがあってはいけないでしょう?」


 加えて情報網も半端ではなく、このように今日授業であった出来事も把握しているほどだ。飽く迄精霊なので人型が本来の姿ではないと訴えてみてもダメだった。どうしたものか……リッカは入れてコハクは入れない……あ、そうだ。


「女の子の姿になれるかしら?コハク」

「断固として拒否する。いくら主の命令でもそれはできない。男子禁制と言うなら建物の前で番をする。それならば構わないか?」

「ええ、構いませんよ」


 おお、男らしい。コハクは勇ましく……猫の姿で尻尾をふりふり自ら玄関を歩いて扉から出て行った。私は手紙が来ていないかポストを確認し、少しだけ後ろ髪をひかれながらその場を後にする。後でご飯持って行ってあげよう。コハクはいったい何を食べるのかな?そんなことを考えながら階段を上ろうとすると、帰ってきたばかりの寮生の大きな声が聞こえてきた。


「寮母さーん寮の前で猫拾ったんですけど、飼ってもいいですかー?」


 急いで戻るとそこには女の子に抱えられたコハクが情けない顔でこちらを見ていた。


「あるじぃ……」

「わ、しゃべった!?」

「ごめんなさい、この子私が契約している精霊なの。寮母さん、何とかなりませんか?」


 寮母さんは考え込んでいる。また同じことが起きないとも限らないしこの姿だと野良とまちがえられて追い出されてしまう可能性もある。虎の姿でいようものなら危険視されて退治されてしまうだろう。


「本当の姿はどちらですか?」

「うむ、こちらだ」


 そう言ってコハクは腕から降りて、しゅるしゅると虎の姿になる。猫は可愛くとも虎の姿は恐ろしいようで、騒ぎを聞きつけ集まり始めていた女の子たちは後ずさった。なかには「もふもふー」と言って触ろうとする強者もいたが、触られる前にまた猫の姿に戻る。

 ちやほやされるコハクに焼きもちを焼いたのか、リッカがコハクの上に乗った。猫の上に乗る妖精なんて最強の可愛さだと思う。これには寮母さんもまいったようで顔が緩んでしまっている。こちらの視線に気づいて誤魔化すように早口でまくしたてた。


「寮内では猫の姿で過ごすこと、決して虎や人の姿には、ならない事。それと、出来るだけ部屋の中で過ごすこと。破ったらアリシアさんも出て行ってもらいますからね」

「コハク、約束できる?」

「うむ、承知した。寮母殿、寛大なお心遣い感謝する」


 そう言ってコハクはぺこりと頭を下げ、リッカが転がり落ちた。




「と言うわけでコハクが寮に入るときに一悶着あったのよ」

「それは大変だったわね、コハクちゃん」

「…ちゃん…?」


 夕食の後にエリーゼが部屋に遊びに来た。コハクちゃんと呼ばれて、目を白黒させているコハクを見て、エリーゼは笑い、抱き上げて慣れた手つきで撫でている。コハクは基本的にものを食べないそうだ。元々が精霊なので空気中の魔力などを取りいれたりするのが食事らしい。虎サイズの食事量だったら毎日とんでもないことになりそうだから少し安心した。


「コハクはどんなことが出来るの?」

「気、と言う概念をご存知か?主。地中の金属が力を持つことがあるだろう。ああいったものを扱っている。陰の気や陽の気を……分かりづらいか?」


 前世の記憶が有る私は何となく分かるのだが、リッカとエリーゼはさっぱりらしい。二人とも首を傾げている。


「気を扱うのが得意なら肉弾戦や気による治療が出来るという事でしょう?」

「大雑把に言うとそうだ。魔法のようにすぐに直すのではなく体調を整え、生き物が本来持っている自然治癒能力を高めたりする。何だ、主は知っていたのか」

「何となくだけどね」


 エリーゼの手を離れこちらに来ると、コハクは私の膝の上に座った。透き通るような水色の瞳で真っ直ぐこちらを見つめてくる。


「次は、主の番だ。私は主を守りたいと願ったが、しばらくそれ拒んだのには理由があるのだろう?」


 私は自分の身の上話をする。エリーゼがいるので転生の事は話さずに予言の事、ドラゴンの事、村で起こった出来事などを掻い摘んで話した。


「ここから先はエリーゼには話していないのよね。……あのね魔王にならないように頑張って頑張って、でもどうしても駄目だった時には、魔王になる前に私を殺すように師匠に頼んであるの」


 エリーゼが「そんな……」と手に口を当てる。少し俯いたコハクを撫でながら私は話を続けた。


「私を守るのが目的のコハクと師匠が戦うことになったら嫌だなって。頼んだ時にウィルとテッドって言う二人の男の子がいて、テッドは殺すのではなくて倒して私を止めるって言っていたけれど、ウィルは」


ウィルは私を殺すことに関して何か言っていたかしらと思い出そうとするが、思い出せない。言葉と手が止まった私をコハクが見上げた。ここで考えても仕方ないと頭を振って話を元に戻す。


「もしも私がおかしくなったら、師匠に伝えてほしいの。これは、エリーゼもお願いね。前の魔王は自分が狂ってしまっていることすらわからなかったみたいだから、その時は自分の意志で行動できるようにしてほしい。コハクの願いとは矛盾してしまうかもしれないわね」


 だから時間をかけて考えようと思ったのだけれど結局答えは出なかった。答えが出ないのに契約してしまったのは別の理由がある。


「コハクと契約することは魔王化を防ぐ一つの手段だとも思ったの。コハクを見るたびに森の事を思い出して、ばば様の事も思い出して……歯止めになるかなって、契約したのよ。ごめんね、後からこんな話聞かせて」


 皆黙り込んで何だかしんみりしてしまった。立ち止まって確認することは大切なのだけれど気が重くなる。コハクはしばらく黙りこんでいたが、やがて口を開いた。


「守る、と言うのは物理的にだけではない。心理的にも、憂いを取り除いて主が生きることが出来るように傍にいよう。…千春が信頼していたロベルトと戦うのは我も心苦しい。介錯を頼んだ相手を襲うようなことはしない。約束する」


 介錯と来たか……。なるほど、言い得て妙だ。腹は切らないけれど。

 私は理解してもらったことに嬉しくなって、コハクを撫で繰り回した。途中からエリーゼも参加してもふもふを一緒に堪能する。


「主、手加減してくれ……」

「可愛いのが悪い、諦めなさい」


 最後は息も絶え絶えになったコハクがいた。

 

気を扱うので人型は中華服の方が良いかもしれない。でも気質はサムライなので着物のイメージで。着流し設定もおかしいでしょうか。

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