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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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授業―魔法編

この世界における魔法習得の第一歩は、自分がどのような系統の魔法を扱えるかと探るところから始める。今日の先生はリッカのお気に入りのクレイグ先生。場所は魔法棟の一室で、壁面や扉などいろいろな所に建物を強化する魔方陣がかかれている。

 先生はお手本を見せる。エルンストの最初の授業と同じ、水の球を出して見せた。


「黒板に書いてある呪文の一番から五番まで試して、反応があったものが自分の魔法のタイプです。もし反応が無かったら報告してください。それでは各自、始め」


 私は無詠唱タイプだとわかっているのであっさりと課題を……ダメだ、目立たない様にしなくてはならないのだった。

 この場合どのようにして試せばいいのかしら。うっかり呪文を唱えてしまうとスコール状態になってしまうので誤魔化すことが出来ない。脳裏にトラウマが蘇る。もし暴走させてしまったらものすごい非難を受けそうだ。

 皆が口々に呪文を試している中、考え込んでいた私は目立ってしまっていたようで、先生に声を掛けられてしまった。要領が悪い……両手出して適当にごにょごにょ言っていればよかった。


「アリシアさん、どうしました?」

「えっと、その私、無詠唱タイプでして……」

「ああ、失念しておりました。保護者の方から聞いていますよ。確認の為にそのまま魔法を使ってみてください」


 言われたまま水の球を出して見せると、先生は私の手元を見ながら合格ですと言った。割と裕福な家の子らは事前に教育を受けていたようで、私以外にも合格をもらう子がちらほらと出始める。エリーゼとコルネリアも同じようなタイミングで課題を終えていた。


「では、合格したみなさんには別の課題を出しましょう。少し難しい課題ですので時間をかけて取り組んでください」


 出されたのは何かを召喚して契約する事。精霊でも使い魔でも異世界からの召喚はできないがこの世界で存在するものなら良いらしい。ただし、そう言ったものが契約されない状態でいることは少なくなっているそうだ。宮廷魔術師、或いは銀竜家でほとんどを扱っていて、最近は授業で課題を出しても成功することは皆無に等しいとのこと。

 リッカは雪の中で拾っただけなので、初めて使う魔法だ。エルンストにも教わっていないので、難しい魔法なのだろう。


「呼びかけて答えが有ったらこちらへ来るように伝えるイメージです。今回無理でしたら次は魔法陣の補助を付けます」

「ご主人様ーイケメン、イケメンを是非ともお願いしまーす」


 出た、面食い妖精リッカ。……と言うとまるで妖怪みたいだ。

 成功率の低い魔法なので授業何回分かを使って課題を成功させるように言われた。精霊か……言われてすぐに思い浮かぶのは森のばば様の家を守っていた虎だ。契約をしたいと言っていたし、無理やり呼び出すことにはならないだろう。魔力を少しだけ引き出して目蓋を閉じ、精神を集中させて虎に呼びかけてみる。


 虎さん虎さん、聞こえますか?

 む?そなたか。聞こえているぞ。

 今、魔法の授業で精霊の呼び出しに挑戦しています。こちらへ来てもらえるかしら?

 承知した。


 目を開くと放出した魔力の密度が濃くなっていくのが分かる。と、同時に周囲が暗くなり霧に包まれていく。


「アリシアさん!何を呼び出そうとしているのですかっ」

「え?知り合いの精霊ですけど……ってうわわわ」


 霧が私の周りで渦を巻きはじめ、空気の流れが出来て風が起き、悲鳴が上がる。風が治まると霧が徐々に虎の形を作り出していく。同時に魔力も吸い取られながら輪郭がはっきりとしてきた。


「あ、有り得ない。未だにこんなに力の強い精霊が野放しになっていたなんて……」

「え?そんなに強いんですか?」


 最初のころはネコみたいとか思っていたし義理堅くてかっこいい虎さんだなあなんて思っていたらそんなにすごいのか。森に居た頃よりもくっきりとした輪郭の―――あれ、霧ではなくて実態がある。手を伸ばして恐る恐る頭を撫でるととすり寄ってきた。うん、しっかりと手触りがあって綺麗な毛並みだ。


「待ちわびたぞ。さあ、そなたの名前を教え、我に名前を付けてくれ」


 名前を付けて契約を結ぶのはリッカと同じみたいだ……っとその前に―――


「契約内容の確認をしてもいい?」

「そなたを守る。魔力は今実体化できるほどに頂いたからもらうものは何もない。強いて言うなら六花のように粋な名前を付けてくれ」


 前払いでもう済ませてしまったから何もいらないよって事だった。無欲だ。


「私の名前はアリシアよ。あなたの名前は……」


 虎は目を輝かせ、鼻息を荒くしている。何と言うか、めちゃくちゃ期待されているのが嫌でもわかる。白い虎だからシロなどと付けようとしてたなんてとても言えない。


「一つ聞いてもいい?あなたは四神の白虎と関係ある?」

「無関係だ。と言いたいところだが近いものではある。東に川、北に山、南に海、西の森に転移の道は開けていて、我は森にいたからな。神格は無いまでも聖獣と呼べるほどに条件がそろってしまっている」


 四神の白虎とは中国の伝説や五行説などで西方を守護する神獣だ。神のいないはずのこの世界で神が生まれてしまうなんてあり得るのだろうか。

 白い虎 虎……白……虎白……琥珀?


「コハク。王へんに虎と王へんに白で琥珀は、どうかな?」


 じっと虎を見つめ、反応を探る。実体化すると瞳は薄い水色なのか。鼻がひくひくしているのは気に入らなかったからだろうか。やがて眼を細めて笑った顔のようになった。


「気に入った。我が主、今日から琥珀と名乗ろう」


 良かった、気に入ってもらえた。ふと周りの視線を感じて辺りを見回すと……クラスメート達は白い目で見てきた。またやってしまった。あれほど目立つのは止めようと思っていたはずが、言い逃れできないほどに目立ってしまっている。時間をかけて取り組む課題を初回で終えてしまったので先生に謝ろうとしたら、先生の方から話しかけてきた。


「アリシアさんは魔力は大丈夫なのですか?」

「え?えっと私、限界が分からなくて……リッカ、私大丈夫かしら?」

「イケメンじゃなかったーもふもふだったー」


 リッカは私の話を聞かずにがっくりと地面に膝をついていた。リッカが答えなかったので私は先生に特に異変は無いですと答える。授業を中断させてしまってどうもすみませんと頭を下げた。


「人型をお望みか。ならばこれでどうだ?」


 私が先生に謝っている間にもリッカとコハクのやり取りは続いている。そうして現れたのは着流しの美丈夫。所々に黒が混じった白い髪を後ろでゆるく結んでいて、着物の上に袖を通さずに羽織をひっかけている。リッカはきゃーっと嬌声を上げてコハクの肩ににびたっと張り付いた。


「私はなれって言っていないのだけれど……猫の大きさになれる?」

「承知した」


 柄は虎だけれど小さな猫になったコハクを私は抱き上げた。可愛い!と声を上げてコルネリアとエリーゼがよってくる。


「アリシア、撫でてもいい?」

「どうぞ、どうぞ」


 他の女の子たちも羨ましそうに見ているので「触ってみる?」と聞くと近寄ってきた。コハクは迷惑そうな顔をしながらも吠えたり噛みついたりすることはなく、されるがままになっている。みんな楽しそうにはしゃいでいたが先生の咳ばらいが聞こえて課題に戻って行った。

 一応召喚できたという事で琥珀を先生に見せに行く。合格をもらえたのは良かったが、「次の課題を考えなければ……」と言う先生のつぶやきを聞いてしまった。何度も何度も心の中で謝る。


 聖獣と契約で来たって事は魔王になることから遠ざかったと考えていいのだろうか?

最初の遠足で適当に考えた地形がここでこんな事になるとは思いませんでした。

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