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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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ただいま

「じゃあね、エリーゼ。先に帰るわ」

「ええ、また明日。リッカちゃんも、またね」


 入学してから一週間、やっと今日は家に帰る日だ。課題が出されている物や必要なものをバッグに詰めて、エリーゼに一声かけた。エリーゼも週末は家に帰るそうで一人にしてしまう事は無くて少し安心した。寮母さんにも一声かけて建物から出ると、馬車を呼んでないことに気付く。昨日エルンストに頼んでおけばよかったと今更後悔しても遅い。

 仕方なく歩いて帰ろうとする。細かい道は覚えていないのだがリッカもいるし、道すがら人に聞けば大丈夫だろう。裏門を出ると一台の馬車が近づいてきて止まった。もしや、誘拐かと危険を感じて身構えたが、よくよく見れば御者も馬車も見覚えがある。扉が開き、ひょいとダークエルフの男が顔を出した。


「お嬢さん、乗ってかない?」

「師匠、何やっているのかしら?」

「何って、アリシアをナンパしているんだが?」


 しばらく睨めっこをしていたが、私の方が負けて吹き出してしまった。家でじっとしていられないほど私の帰りが楽しみだったのか。何だか師匠が可愛く思えてきた。


「あはは、師匠、ナンパって、似合いすぎ」

「うるせーな、せっかく迎えに来てやったのに乗せてやんねーぞ」

「いえいえ、是非とも乗せていただきますわ」


 師匠が差し出した手を取って馬車に乗り込む。リッカも入ったのを確認してから扉を閉めると、ガタンゴトンと馬車が動き出した。


「ちょうど私が寮から出るときだったからよかったけれど、すれ違ったらどうするつもりだったの」

「……早い時間からずっと待っていたからな。一人で出歩くなって何度も言っているのにそのまま帰ってくるつもりだったんだろ?」


 ……巻き込まれてしまった御者に後でお礼を言っておかねば。


「ただいま帰りました。エルンスト、マーサにセバスチャンも」

「お帰りなさいませ」


 エルンストは昨日会ったばかりだ。他のみんなも元気そうで安心した…って一週間しかたっていないのだけれど。自分の部屋に荷物を置いて、一息つくと学校生活がまるで夢を見ていたみたいに思える。気を抜いてぐでーっとしていたら、リッカに、せっかく家に帰ってきたのだから家でしかできないことをしろと怒られた。追い出されるようにして私は師匠とエルンストがいる部屋へ行った。

 学校での出来事を細かく報告する。寮の悪霊退治、入学式の白紙の挨拶、授業の先生の交代、食堂での出来事、など。思い返してみれば一週間しかないのに報告することが多すぎる。


「魔眼…ですか。聞いたことはありますが大抵は魔族などが使うもののはず…」


 食堂であった件がエルンストには引っかかったようだ。私も目的は果たしたと言われたのがどうも気になっていたからエルンストに相談しようと思っていたのだけれど、魔族かもしれないと言われて少し不安になった。


「リッカ、どうだった?」

「むー面白かったので能力の方までは鑑定してませんでしたー。あ、でもでもご主人様前に一度あの人と会ったことが有りますよ」


 面目ないとしょぼくれながらも意外な情報を教えてくれた。誰か聞いても「さて、誰でしょー?」と教えてくれない。次に会ったときは少し気を付けた方が良いかもしれない。目的は果たした……目的、私に会う事だろうか。だとしたら。


「リッカ、私状態異常に懸かっていないよね?」

「あー魅了とかですか?えっとーえ……っと魅了される方じゃなくてする方の数値が増えてます。成長しましたね、ご主人様」

「何それ」


 リッカにはステータス画面なるものが見えているらしい。魅力と言う項目の数値が増えているとか…可愛くなったとか美人になったとかという事?自分で毎日鏡を見ている分には分からないけれど、それでも少しは嬉しい。


「前々から思っていたんですけど、ご主人様は器用さが低いのに命中率が高いんですよ。普通は連動しているはずなのに不思議ですねー」


 不器用なのは気のせいではなかった。現実を突き付けられてしまった。


「面白いな、リッカ。俺のも見てくれ」

「えー本当にいいんですかー?ごにょごにょ…な事とかむにゃむにゃなことまで見えてしまうのであまり見ないようにしているのですけれどー」

「やっぱやめとく」


 リッカが師匠の傍で耳打ちしていたのでなんて言っているのか分からなかった。何か秘密でもあるのだろうか。隠しておきたいことならば聞かない方が良いだろう。私は話題を変えた。


「他には、えーっとリッカがウィルに会ったのよね?」

「リッカがって、お前は会わなかったのか?」

「図書室で少し眠ってしまったらその間に来ていたみたい。ね、リッカ」

「はーい。元気そうでしたよー」


 このまま卒業まで会えなかったりして。いつか教室に突撃してみようか。あの真っ黒い笑みで追い返されそうだけど。


「そう言えばテッドの噂を聞いたんだが結構頑張っているみたいだぞ。冒険者ギルドでもあちこちに顔が売れてきているらしい。手紙は来ていないのか?」

「ここの所は来ていないの。そういうことならきっと忙しいのね」


 冒険者姿のテッドを想像する。最後に会ったのがテッドが十一歳で今は十三か十四てところだから背とかぐんぐん伸びていそうだな。声変わりはしただろうか。近くにいるはずのウィルでさえなかなか会えないから、テッドが会いに来ない限りは難しいだろう。

 他に何か報告しておくことは無いかと考えると……あった。私にとって一番大切な、友達とのお出かけだ。


「それから週末にここへ戻ってから友達と出かけたりしたいんだけど…」


 師匠とエルンストは二人で顔を見合わせた。やっぱり難しいのかな。師匠が王都観光に連れ出してくれたこともあったから平気だと思ったけれど、子供だけで出歩くのはダメかもしれないな。護衛が付いてきてもいいのだけれど、私だけではないのは大変なのだろうか。


「友達とはエリーゼ嬢の事ですか?」

「ええ、それとコルネリアも」

「金竜家には影ながら守るのが付いているからな。商売なんかしていると客に威圧感を与えるとかで目立つ護衛はつけていないらしい。コルネリアってエリーゼの婚約者の妹か?」


 私は頷いた。影ながら守る……忍者みたいなものだろうか。エリーゼが呼ぶと何もないところからしゅっと降りてきたり?……ちょっとだけ見てみたい。


「そうですね……アレク殿下やユリウス殿下の様に王族付きの騎士を連れて行くならばいいですよ」


 私にそんな騎士はいない。はっきりだめだと言われた方がマシな、遠回りな言い方が心をえぐる。


「わかったわ。諦める。無理を言ってごめんなさい」

「ああ、そういう意味ではなくてそのうちきちんとロベルトや私を任命する場を設けて、騎士にしてからという事ですよ」

「この前、飯屋の前でからまれただろ?護衛中という事になればああいうのが無くなるはずなんだ。騎士用の鎧を付けていると迂闊に庶民が声を掛けて来なくなる」


 騎士ってそんなに簡単に慣れるものかと聞くと、師匠には前の魔王討伐に参加した実績があるし、エルンストは紫竜家の当主なので難しいことではないという事だった。学校があるから護衛は週末に出かけるときだけだし、仕事にも支障はないそうだ。エルンストはともかく師匠は何の仕事をしているかと聞いたら冒険者ギルドで情報収集がてら稼いでいるらしい。無職ではないのね。


「神殿の方は良いの?時々お呼びがかかっていたのでしょう?」

「…これはまだ公表されていないから他所で口にするなよ。枢機卿が床に臥せっているらしいからな。もう特に行く必要はないんだ」


 手紙も来ていないみたいだし、師匠の表情が暗くなることもあまり見かけない。私の知らないところでも事態が進行していく。流石に私を魔王にしようとしたり、命を狙ったりする相手の事を心配する気にはなれないが、私にとっていい方向に進めばいいと願うのは即ち枢機卿の死を願う事になってしまう。

 嫌だ。胸の底に渦巻く黒い感情を垣間見てしまったようで、見たくないものに蓋をしようと私は話題を変えた。


「そうなると、黒地に赤が入った鎧の騎士か……。なんか魔王軍っぽい感じがするのは気のせいかしら?」

「あーそこはまあ、カッコいいからいいやって事で悪い方に考えるのは止めろ」

「そ、そーですよーほらほらご主人様ーこんな感じ?」


 そう言いながらリッカがクルリと回って鎧姿になる。黒地に赤を組み合わせた軽装備だけど凝ったデザインの鎧は、リッカを勇ましく見せる。


「おお、リッカ強そうに見えるぞ」

「えへへへへー」


 ―――師匠が騎士になるという事は、名前で呼ばなくてはならないのかしら。私はそんなことを考えながら師匠とリッカのやり取りを見ていた。




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