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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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授業―調合編

 調合の初めての授業は回復薬―――ポーションを作ること。ばば様と一緒に初めて作ったのがこれだった。けがなんてほとんどしなかったので実際に使ったことは一度も無い。勿論試しに誰かに使ったことも無いので自分の作ったものがどれだけ効果が出るかなんて知る由もない。

 私の他にも魔法生物を連れている人がいて、作るものに影響が出ないように回収され、教卓の横の檻の中に入っている。皆契約しているので大人しい。


「く、屈辱ですーご主人様ー」

「ごめんねリッカ。少しの間待っていてね」


 妖精はリッカ一人。後のはもこもこふわふわな生き物たちだ。食べられたりじゃれつかれたりしないか少し心配。

 黒板に書きだされた手順を先生が説明し実習に入る。何度か作ったことのある私はろくに聞かずにいた。器具を持つ久々の感覚は森の家に居た頃の日々を彷彿とさせ、途中で習う事を止めてしまった調合を少し残念に思った。


「まずは、スァグの実をすりつぶして……」


 乳鉢に入れて乳棒ですり潰す。ばば様の優しい顔、優しい声を思い出しながらごりごりと。涙ではなく笑顔になってしまうのは、少し早すぎるだろうか。ばば様の命日は私の誕生日だ。まだあれから一年も経っていない。知識や経験の中にばば様を見つけて喜んでしまっている自分がいる。


「ユハヴェク油を混ぜ込んで……」


 そう言えば霧の虎は元気でやっているだろうか。そろそろ答えを出して迎えに行ってあげないと可哀想だ。リッカサイズなら連れて歩けるけれど、虎は……どうしたものかな。その辺も話し合って決めるしかないか。あれ?契約することは私の中で決まっているみたいだ。


「瓶に移し替えて……」


 漏斗を使って流し込むと綺麗で透き通るような薄く青い色の液体が注がれていく。蓋をして、名前のラベルを張って、完了っと。目線の高さまで持ち上げてみると、かすかに光が揺らめいている。治癒魔法が使えないのにこうして回復薬を作ることは出来る。鑑定の魔法が使えないけれど、リッカに出会えた。弱点を補うようにして私のもとにいろいろな物や人が集まってくるような気がする。


「なんかアリシアのポーションって色が違わない?」

「ええ、とっても綺麗」


 コルネリアとエリーゼの手元を見ると瓶の中の液体は少し濁った色だった。他の生徒のものを盗み見ても私のように青くて綺麗なポーションを作っている者はいない。出来上がったものから順に先生へと提出していく。作り直した方が良いだろうか。黒板をもう一度見直すと、ばば様に教わった細かいところが抜けているだけで、作り方そのものが違うわけでは無いようだ。


「何か言われそうだから一番最後に並ぶよ」


 と言ったら、二人も頷いて付き合ってくれた。提出した者はどんどん教室から出て行く。回収したポーションは効果の程度を調べて成績に加算されていくらしい。

 列に並びエリーゼ、コルネリアに続いて瓶を差し出すと、案の定がしっと腕を掴まれた。


「なんでこんなに質の高いものが出来るのですか?変な材料はいれてませんよね。魔力の違いですか?魔法を込めたりしませんでしたか?」

「魔法の使えない方に教わったのでそれは無いです。私は回復魔法の類は使えませんから魔法を込めるのもできません。スァグの実をつぶす時に右に三十六回、左二十七回、回して……」

「ちょっと待ってください。そのような方法が確立されているのですか。あ、もしかして宮廷魔術師や銀竜家に伝わる秘術ですか!」


 ばば様から受け継いだ知識にエルンストの研究成果が加わって、私の知識がとんでもないものになっていることを初めて知った。興奮している先生に解説しながらもう一度作ろうとすると、エリーゼが待ったをかける。


「アリシア、そのレシピ迂闊に漏らしてしまっていい物なの?」

「え、ええと、―――保護者に許可をとってからでもいいですか?」

「そんな、ここまで教えておいて……」


 悲壮な顔をする先生。問答の最中に授業終了のチャイムが鳴り響く。最後に回ってよかった。


「では、これで」

「次の授業が有りますから」

「ごきげんよう」


 リッカを檻から出して急いで実験室を後にする。後ろで先生が喚いているが、三人プラス一匹は廊下を猛ダッシュ。角を曲がったところでゆっくりと歩き始めた。


「三人とも息ぴったりですねー」


 最初に口を開いたのはリッカ。檻の中ではもこもこを堪能していたみたいで服の端々に毛が少しついていた。コルネリアは鍛えているらしく平気そうだったが、エリーゼは少しだけ息が上がってしまっている。


「なるほど、アリシアはこうやってトラブルに巻き込まれていくのか。大体わかってきた」

「うう、何にも悪いことはしていないのに、ごめんね二人とも」

「ふふ、大丈夫よ。これくらい、どうってことは無いわ」


 二人とも笑顔だ。だからこそ本当に申し訳ないと思う。お小遣いから何かおごるとかした方が良いかな?でも私の方が貧乏みたいだし…ま、二人が困っていたら全力で助けてあげればいいか。



 後日―――


「今日お呼び立てしたのは他でもないアリシア様の事なのですが……」

「ええ、何か問題でも?」


 数人の先生たちは顔を見合わせてため息をつく。私とエルンストが呼び出されたのは授業の終わった放課後の会議室。保護者呼び出しを聞いた師匠は大爆笑だったらしい。「王女が保護者呼び出しって、アリシアはいったい何やらかしたんだ。有り得ねー」とエルンスト談。多少目立ってはいるけれども退学、停学処分の対象になるようなことは、まだしていない筈だ。


「先日、授業で作った頂いたポーションが大変質の良い物でした。同じ材料で作ったにもかかわらず、他の生徒どころか教師が作ったものをはるかに超えた出来だったのですが……」

「他では、座学でも何度か教師が答えられないレベルの質問をしてきまして……」

「それは、そうでしょうね。彼女が受けてきた教育はおそらくこの国の最高峰のものですから」

「ええっ?」


 知らなかった。師匠もばば様もエルンストも、エルンストが手配してくれていた先生たちも、みんなすごい人だったのか。


「それで、この学校で学び続けても才能が無駄になると考えまして、飛び級か、或いは帝国の方への留学を……」

「この学校への入学は国王、元老院、七竜家の決定によるものです。学ばせるのは勉強だけではないのだとお考えください。今後の彼女の可能性として、どこかに幽閉されることも考えられます。もしかしたら今しか自由は無いのかもしれません」

「あの、先生方。私出来るだけ目立たない様にしますからどうかこの学校においてください。お願いします」


 私がそう言うとその場にいる全員がそろってため息を吐いた。次いで、呆れた顔と言うよりは可哀想なものを見るような眼で私を見る。


「既に十二分に目立ってます。ですが今まで通りを望むならばそのように致しましょう」

「素行が悪いわけでもないので問題ないでしょう」


 先生たちが口々に大丈夫だと言った。私はそれを聞いてほっとする。飛び級ならば学校を早く出てしまう事になるし、留学だと皆と離ればなれになってしまう。


「ではそのようにお願いいたします」


 エルンストが深々と頭を下げたので私も慌てて頭を下げた。退出しエルンストを門まで見送る途中、少し気になったことを聞いてみた。


「ウィルも途中まで同じ教育を受けているのよね?」

「あの子は要領が良いですから、周りに合わせるなど造作もないことでしょう。良い成績は取っているみたいですが」


 遠回りに要領が悪いと言われた。うう、自分がそんな教育を受けていたことさえ気づかなかったんだよ。ついでに入学式の事も聞いてみたらそれも教育のうちに入っていると言われた。気づかぬうちにハイスペックに改造されている気分だ。


「明日は紫竜の日だから家に帰ってくるのでしょう?」

「ええ、このまま帰りたいけれど外出許可をもらっていないから、明日になると思うわ」

「ロベルトも待ってますから絶対に帰ってきてくださいね」


 帰る家があって、迎えてくれる人がいて、大切なものがどんどん増えて、自分が魔王になるなんて予言された事すら時々忘れそうになってしまう。できればどうかこのままの状態が続きますように。

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