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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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図書館にて

 ここの学校は図書室…ではなくて図書館だ。石造りの三階建ての建物が丸ごと一棟使用されている。普通の本棚の他にも、建物の中央部分が吹き抜けになっていて三階部分まで本がずらーっと並んでいる場所がある。ああ、これぞファンタジーな図書館だ。重厚な石の扉の奥には持ち出し禁止の重要な書物。閲覧室はガラス張りになっていて外の花壇を見る事が出来る。冬場はとても暖かそうだ。


「すみませーん、あそこの上の本はどのようにして取ればいいのですか」


 三階吹き抜けの上まで続く本の取り方が分からず司書の先生に聞いてみると、丁寧に教えてくれた。吹き抜けの出入り口付近に目録の本が置いてあり、その本に書かれた読みたい本のタイトルを指でなぞると本が本棚から独りでに抜き出されて目録の横の箱に降りてきた。同じ場所に本を置くと、また宙に浮いてひとりでに戻っていく。しつこい様だけどこれぞファンタジーだ。


「貸し借りはあそこのカウンターでするからね」

「はい、ご丁寧にどうもありがとうございます」


 特に用事が無い時の放課後、私は魔王に付いて時間の許す限り片っ端から調べることにした。


 初代国王リンドルムがこの国を統一する前から魔王は存在が確認されている。その都度勇者に倒されてきた。だからこそ今この世界が存在できているわけだが……。今現在分かっていることは、

一、魔王は異世界から召喚されたものがなる。或いは魔王そのものが召喚される。

二、認定されて魔王になる場合もある。

三、この国だけではない。


「魔王になるのを防ぐ完璧な手段が有れば良いのだけれど…」

「この世界だともともと魔王だった人以外、魔王になりたくてなった人もいないようですね」


 リッカも同じように調べてくれている。本自体を開くことは出来ないが紙をめくることは出来るので、開いた状態で目を通していく。本のタイトルや、中身について軽くメモを取りながら過去の魔王に付いて調べていると先代魔王に付いて詳しく書かれているものがあった。

 名前はリリー・ランカスター。転移してきた年齢は十五歳。多少なりとも戦闘能力が有ったので冒険者として生計を立てる。職業は魔法剣士。二十歳前後には、冒険者たちの間でドラゴンスレイヤーとして有名になっており、パーティーは、戦士、弓使い、魔法使いで時折魔法拳士や僧侶が入れ替わりで入っていたという。とある場所で拾った魔剣を手にしたころから狂いはじめ、辺境の村や町を襲い、最終的にはアストラ遺跡に居を構えていたエルフの一族を虐殺して居座った。人間を殺してもモンスターを倒しただけだと言い張り、精神に変調を(きた)していたと思われる。


「頭がウィルスに侵されたかバグでも発生したんですかねー」


 私が読んでいたところを覗き込んだリッカが言う。情報系の妖精らしい言い方だ。私はドラゴンスレイヤーと言う所が気になった。もしかしてエルンストが彼女を貶めた張本人……いやいや、そんなことをしたんだったら師匠と仲良くするはずがない。馬鹿らしい、と思いながら机に頭を横にして伏せた。頬にあたる部分がひんやりとして気持ちいい。


「疲れちゃいましたかー」

「この所、立て続けにいろいろなことがあったからかしらね……」


 試験、寮、入学式、授業。決定的な何かがあったわけでは無いけれど、夜中にふと目が覚めてここ最近あった出来事を考えている時がある。出口のない迷路を生まれた時からずっと歩き続けている感じが、ここへ来て一層進みづらくなったように思えた。前世の人生ならば進学や就職など節目節目があって何とか生きていたけれど。まだ若いから睡眠不足で具合が悪くなるほどではないが、黙って一人でいると眠くなってくる時がある。リッカに断って少しだけ寝ることにした。眠ったらすっきりするかもしれない。



 くすくす…くすくす…。

 どこかで誰かが笑っている声がする。そのうち、楽しそうにおしゃべりする声がおぼろげに聞こえてきた。


「そっか、学校にいる間のアリシアは師匠もテッドもエルンストも見ていないって事なんだよね」

「そうなのですよー。一歩リードなのですー。そう言えばどうして手紙や連絡が来ないのかってご主人様心配していましたよー」

「うーん、止むに止まれぬ事情があったからね。もっと早く会いに来たかったんだけど…ああ、もう時間だ。アリシアに謝っといてくれる?」

「了解しましたー」


 声の主はリッカともう一人。もう一人は気配が遠ざかっていく。少し低くて聞きなれない男の人の声。目をゆっくり開いて頭を持ち上げる。眠ったせいか前よりも楽になった感じがする。


「リッカ、誰か傍にいたの?」

「ウィルが来てましたよー」


 その言葉を聞いて一気に覚醒した。図書館の中なので極力小さい声で話す。


「どうして起こしてくれなかったの?」

「そこまでされても起きなかったんですよーご主人様が」


 頭を指さされたので手をやるといつの間にか髪の毛が後ろで三つ編みに結われている。器用だなウィルは。暫く触って、ため息をついた。


「またすれ違いか……」

「燃え上がる恋心……?きゃー」


 リッカは頬に手を当ててはしゃぎながら辺りを飛び回った。当然のことながら司書の先生に静かにするように注意され、リッカはごめんなさいと項垂れた。


「違うわ、そんなのではないわよ。そういえばウィルってば声変わりしていたのね」

「聞こえていたんですかー」

「最後の方だけね」


 昔のしゃべり方が残っていたけれど、声が変わってしまって誰だかわからなかった。会うのが少しだけ怖い。ばば様も十二年一緒にいて、老いを感じはしたけれど別人になってしまうほどではなかったし、師匠とエルンストは例外だ。テッドは……テッドも変わってしまっているのだろうか。頭に雪を乗っけて降ってくる花を探していたテッドを思い出す。中身が変わらないでいてくれるといいな。テッドだって成長しているんだからそうもいかないだろうけれど。


 本を一冊借りて寮に持ち帰った。いろいろなもやもやが晴れないでいて、気持ちが悪い。村に居た頃はウィルやテッドのお蔭でこんな気分が晴れていたんだと気づく。村を離れたくないと、もっと駄々をこねれば良かっただろうか。ウィルもテッドも今現在は村を離れているのだからそもそも意味が無い。


「何の本を借りてきたんですかー」

「正しい魔王の殺し方」


 タイトルを聞いてリッカはぎょっとした。私の中の魔王の部分だけを殺せないかと思って借りてきたのだがそんなに驚くことだろうか。


「魔王を殺すには、まず…」

 

 魔王を殺すには、まずその魔王を知ることが必須である。魔王によっても光属性が効かないこともあり、その出自や、変化の過程を知ることこそが魔王攻略の第一歩と言えよう。

 魔王を殺せるのは勇者職にあるものだけではない。魔王軍の中でも下剋上が起こりうるからである。勇者が存在しないからと言って異世界から呼び寄せようとするのは非常に愚かしいことと断言する。バグやウィルスに対応できるプログラムを作り出すのはこの世界では……

 何、これ。急にコンピュータの事について書かれ始めている。あ、もしかして異世界の本が紛れ込んだのかな。


「ハズレかしら…ね。別の世界の事がかかれているみたい」


 パラパラと読まずにページをめくっていると、ドアをノックする音が響いた。私は本を机の上に置いて、ドアを開く。


「アリシア、そろそろご飯食べに行かない?」


 エリーゼと一緒に食堂へ向かった。本は明日にでも返却しよう。

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