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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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食堂にて

 ここの学校の食堂は学費の中にお代が含まれていて、その範囲内で食事ができるシステムになっている。ここでも学生証を使うがお財布を持ち歩かなくていいのはとても便利だ。昼時にはほぼ学生全員がこの食堂に集まることになる。中にはサンドイッチなど外へ持ち出し可能な物もあって教室や屋上で食べることも可能だ。

 校舎の五、六階が使われていて広々とした空間になっている。人気のあるのは窓際の席。


「アリシアーこっちこっち」


 座席を確保して大きな声でピョコピョコ跳ねるコルネリア。エリーゼも一緒にトレーを持って待っている。私はから揚げ定食、コルネリアはオムライス、エリーゼは日替わりランチ。リッカに分けて上げやすいものを選んでいるだけであって、断じて私が肉食なわけでは無い、と思う。


「リッカちゃん、これ食べる?」


 エリーゼがきゅうりを一切れリッカに上げる。小さな手で斜め切りにされたきゅうりを掴み、ポリポリと食べている。上げたエリーゼはにこにこ笑顔でその様子を見ている。きっとペットに餌を上げている感覚なのだろう。その様子を見ていたコルネリアが聞いてきた。


「さっきお肉も食べていたね。リッカは雑食なのか?」

「何でも食べますよーお肉もーお魚もー野菜もーむ…」

「リッカ、食事中」


 虫もと言いかけるリッカを止める。危ない危ない。楽しい食事風景が惨劇になるところだった。その後も食事とおしゃべりは続き、皆食べ終わってお茶を飲みながらほっと一息ついたころ、おそらく上級生であろう少年と少女が私たちのいる席に近づいてきた。


「君が、アリシア・グランツだな」


 騒動の予感がして、違いますと答えたかった。横柄な態度の少年とおどおどと少年の後ろに隠れている少女。頷くこともせずに、視線だけで続きを促すと少年は少したじろいだ。それでもこちらをキッと睨んで話始める。


「王女アリシア、君との婚約は破棄させてもらう」


 コルネリアがお茶を吹きだして咽ている。その背中をさするエリーゼ。今までの喧騒が嘘のように、辺りはしん…と静まり返り、興味津々の視線に晒されて何だか居た堪れない気分になる。思わず俯こうとしたら視線の先ににやけたリッカがいた。絶対面白がっているよこの子。逃げ出したい気分は無くなり、冷静に状況を把握しようと顔を上げた。……あれ、……私、婚約なんかしてたかしら……?その前にこの人、誰?


「あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」

「誰がお前なんかに名乗るものか。名乗ったが最後、呪われてしまうのだろう?」


 名乗らなければ確認すらできないのに変なことを言う人だ。頭の中を疑問符でいっぱいにして頬に手を当てて首を傾げていると、咽ていた状態から復活したコルネリアが助け舟を出してくれた。


「もしかして、いい子にしないとアリシアと結婚させるよ、的に親から言われたんじゃないですか?」

「なぜそれを知っている?」

「何それ、コルネリア」

「一時期流行してたんだよ。小さい子が早く寝なかったり、悪いことをしたりすると良い子にしないとアリシアと結婚させるよって」


 私はなまはげか山姥か。いい子にしてナイトサンタクロース来ないよは聞いた事あるけれど、それにしても私と結婚させるよって、受け取り方によっては逆たまになるのに悪い方向にしか言われないのは何故だろう。


「私は初めて聞いたわ」

「エリーゼの所は男兄弟がいないからね。うちは兄様がいるから何度か聞いた」


 そして今は立派に育って王子付の騎士をやっております、と。なるほど、使いどころを間違えなければしっかり育つのか。人の為になるならそれも吝かではない…が使いどころを間違えられた人が目の前にいる。

 馬鹿だ。馬鹿がいる。親の冗談を真に受けて王族に喧嘩売っているなんて、言った親御さんは夢にも思わないだろうなあ。サンタクロースを今でも信じる様な純粋な子に育ってしまったんだね。


「私と婚約破棄してそちらの御嬢さんとお付き合いなさるのですね。そのお話しお受けいたしますわ。どうぞお幸せに」


 私は椅子から立ち上がることもせずにお茶を飲んだ。適当にあしらわれているのが理解できたのか、少年は捨て台詞を吐いて去って行った。


「これで終わりと思うな。第二、第三の婚約者がいずれお前のもとを訪れるだろう」


 ちょっと待って、それどこの魔王。っていうかまだ来るの?嫌すぎる。春になると変な人が湧くって言うけれど本当の事だったんだなあ。この事態の収束の仕方が気に入らなかったのかリッカはため息をついた。

 周りもがやがやと普段通りに戻っている。



 ―――次の日。


「王女アリシア、君との婚約は破棄させてもらう」

「はい、喜んで」


 昨日とは別の人が来た。本当に来たよ二番目の刺客…じゃなかった婚約者。まだ食べている最中に来るなんて躾がなっていなのではなかろうか。私はにっこり笑顔で即座に答えてそのまま日替わりランチの小松菜とお揚げの煮びたしを食べた。後ろにいる女の子は昨日と同じ子だと気づいた。昨日の人とはおつきあいしなかったのだろうか。


「ねえ、後ろにいた子昨日と同じ子だったよね」

「あら、コルネリアも気付いたの?アリシアは?」

「気付いたよ。何かに巻き込まれていたなら助けてあげたいよね」


 そう言ったら二人にお人よし過ぎると言われた。婚約破棄に付き物の、私がその子をいじめた等と言ういちゃもんをつけられていない。あの子の存在意義がなんなのか、それが知りたいと思う。結婚だとか婚約だとかに対してどこか他人事の感覚を持っている私に、こんなことをして何になるのかそれが不思議で仕方ない。明日も来たら後ろの子に声を掛けてみよう。



 ―――また、次の日。


「王女アリシア、君との婚約は破棄させてもらう」


 同じシチュエーションに同じ文言。芸が無い、出直してきなさいと言いたいのをぐっと堪えて、私は後ろにいた子に声を掛ける。今日もおどおどびくびくしているその子は立っているだけで何もしない。エリーゼとコルネリアと周囲の人達はもう慣れたのか、やり取りを気にせず食事をしている。


「そこの後ろに居るあなた、お名前は何というのかしら?昨日も一昨日も居たわね。私に何か御用?」


 びくっと震えて後ろに引っ込む姿はまるで小動物のようだ。ウェーブのかかった銀髪に紫がかったブルーアイ。私もこんな色の目だったら人生全く違っていただろう。嫉妬…では無いな、羨望だ。自分の持っていない、どうあがいても手の届かないものを持っている彼女。助けたからと言ってそれが自分のものになるわけでは無いのに、手を差し伸べたいと思ってしまうのは、きっと私が馬鹿だからなんだろう。


「な、失礼だぞ僕が話しかけているのに」

「失礼なのはそちらでしょう?毎回毎回食事中に話しかけてきて、礼儀がなっていないではないですか」


 まるで悪役令嬢そのものな言い方に自分でも吹き出しそうになる。考えてみれば男の方は違っているのだから、この言い方はおかしいのだが。女の子の方はしずしずと前に出てきた。よく見るとだぼっとした明らかに体のサイズに会っていない男物の制服を着ている。なぜ?


「えっと、僕の名前はヴェイグと言います。その……ごめんなさい!」


 僕っ娘か…と思ったら名前まで男性名だった。少しハスキーな声でいきなり私に謝り、勢いよく頭を下げた。謝られるようなことはこの子にはまだされてはいない。まるで私が苛めているみたいで嫌だったので顔を上げるように言った。


「み…魅了の魔眼を…目当ての人に使おうとしたら変な男ばかり引っかかって…貴女にご迷惑をかけるつもりはなかったんです。どういうわけかみんな同じ行動に出て僕にも訳が分からなくて」

「魔眼で小さい頃のトラウマを解決したいと言う欲望が引き出されてこのような行動になったんですかねー」


 リッカが推論を述べる。なるほど……私はそこまで恐れられていたという事に思い当たって愕然とした。エリオットは納得したようで頷いている。


「何にせよ、魔眼なんて使わない方が良いわよ」

「ええ、目的はもう果たせましたから。では、僕はこれで」


 目的って何?と聞く間もなくエリオットがもう一人を連れて去るのを見送り、時計を見ると昼食をとる時間がかなり減っていた。急いで食べ終わるとリッカが爆弾発言を落とす。


「ご主人様ーさっきの人、ヴェイグって男性ですよーずっと勘違いしていたみたいですけどー」

「え?」

「私たちは気付いていたのよ。コルネリアが、同性愛者かも知れないから見守っていた方が良いって」

「対処の仕方が分からないから騒ぎ立てない方が良いと思った」


 あまり口を挟んでこないなと思ったら、こちらは別の事でひやひやしていたみたいだ。これで終わりだと良いのだけれど…。

ちょっとやってみたかった、婚約破棄。パンチが足りない…?

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