初めての授業
「さあ、授業始めるぞー」
「「「お願いします」」」
うわ、懐かしいなこの感覚。畳の上に低い長机、生徒は正座……授業風景はまるで寺子屋だ。
昨日訊いた説明だと、この国の学校制度は六歳から十二歳までの初等教育、十二歳から十八歳までの高等教育に分けられるそうだ。十二歳までが義務教育。中高一貫って感じかな。……と言ってもここは隠れ里。師匠の采配でどうにでもなるのでは、と思ったら行商人を通じて外部から学年ごとの教科書をしっかり取り入れているらしい。大人になって外へ出ても支障が無いようにとのことだ。昔、外の学校で教えていたこともあったらしい。
学年は日本と同じ春から始まる。テッドは一年生、ウィルは二年生。私は夏生まれの六歳だからまだ一年生にもなってない。
「アリシアは文字の勉強からだ。ウィルが一昨年使ってたもので取り敢えず勉強なー」
「はいっ」
そっか。前世の幼稚園でもひらがなくらいは書けてたもんね。テッドが使っていたものは落書きだらけで読めないらしい。二年前に使い終わった物をまだ持っているなんて、ウィルは物持ちが良いね。
「ウィル、有難う」
「どういたしまして」
ウィルの使っていた教科書はブックカバーがつけられている。きっと大切に使っていたんだろうな。
家にある本は全部ばば様の物だから日本語の本しか置いていない。この世界ではどんな文字が使われているのか、全く分からない状態だ。
わくわくわくわく。ファンタジーの世界だからルーン文字?それともアルファベットを変形させたのとか?もしかして象形文字っぽいのだったりして。
「ウィルとテッドは書き取り始めとけ。アリシアは一番後ろの表を開け」
後ろに折りたたまれ綴じこんである表を開くとそこには――――――
「アリシア、右上からあ、い、う、え、おって読むんだ」
師匠の声がやけにやさしく響く。……見慣れたひらがなを指さして。
私は愕然とした。頑張りすぎだよ日本人。世界観台無しだよ。話し言葉が日本語なのは助かったけどさ。
知らず知らずのうちに涙がでていたみたい。師匠はぎょっとした顔で
「ど、どうしたアリシア。俺なんか悪いことしたか?」
「師匠私全部読めるし書けもします。漢字も書けますよ」
奥付には漢字も書いてあったから。見えてしまったから。
「師匠がアリシア泣かしてる?」
「ばば様に言いつけようか。」
「やめろ。……アリシア、エルフ語でも覚えるか?教科書はさすがに流通してはいないだろうが……」
「おぼえるおぼえますよろこんでっっ」
やったー。ファンタジー来たよっっ。
休憩時間―――
「そう言えば、魔王にならないためにそのイメージとは反対の事をしようと思うんだけど、この世界の魔王ってどんなイメージかな?」
実際には見たことがない二人に訊いてみた。見たことある師匠だと一般的な意見にはならないからね。
「牙があるっ」
「角がある?」
二人は考えながら一生懸命に答えてくれる。化け物タイプだったらそうかもね。
「髪の毛が長くて……」
「黒くて長いマントで……」
人型の魔王だったらそんな感じ。うんうんと頷きながら続きを促した。
「必殺技がある」
「二段階変身?」
どこで覚えたのそんなこと?必殺技はむしろ勇者のイメージでしょ。二段階変身ってゲームの知識じゃないの?この世界にあるのかな?
「女の魔王だったらどんなかな?」
「そりゃぁボンキュッボンなダイナマイトバディで胸元開いてスリット入ったドレス着てて妖艶で長くて腰まである髪に……」
大人が勝手に話に入ってきた。なおも話は続いている。私は師匠を睨んだ後、子供二人に話しかけた。
「ばば様に言いつけようか?」
「そーだなー」
「それがいいと思うよ。」
「だから、やめてくれっっ」
師匠の叫びが道場に響いた。
クールでかっこいい師匠はどこかへ飛んでった。




