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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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入学式

 枕元のランプシェードの下には遠足で取った皆の写真と、ばば様の写真が置いてある。今日は入学式。朝食を済ませて制服に袖を通すと何だか精神も引き締められる。黒い生地に金の縁取りで金色のボタンが二列、前に付いていて、袖口にも金のボタン、襟元にはドラゴンの紋章と赤い石。なんだか軍服みたい。下は赤のチェックスカート。

 かわいいよりもパッと見た印象はかっこいいで、そのまま戦闘に入っても違和感なさそうだ。

 国内にある別の高等学校だともっとこう、キラキラで、フリフリの魔法少女っぽい制服らしい。ここの生徒で本当に良かったと心底思う。支度を終えて、写真のばば様に挨拶をして部屋を出た。


 ……あれ、私の制服、皆と違う?エリーゼたちは白のブレザーに緑のチェックのベストとスカート、胸にはエンブレムといわゆる普通の学生服だ。一人だけ何だかコスプレしているみたい。


「エリーゼ、私だけ制服違うようだけど?」

「ええ、王族専用のデザインよ。他に知らしめて無礼を働くことの無いように、ですって。いざと言う時には生徒を率いて戦うって意味合いも込められているらしいの」

「かえって目立って危険なのでは……」

「他の国であればそうなのでしょうけれど」

「ドラゴンだからね……」


 そういう事ならば仕方がないと気を取り直して登校する。と言っても敷地内なので移動するだけなのだが。

 学校の正門を入ると前庭が有り、白い時計塔付きの大きな建物が本館としてある。授業が行われるのは大抵ここで、運動場のある中庭をぐるりと囲む形になっている。左側にレンガ造りの魔法塔、右側に石造りの図書館、左奥に女子寮、中央が講堂、右側に男子寮。前庭の隅の方に木造の建物がある。古い校舎の一部らしい。

 入学式の前に一度教室に入るように指示されている。私とエリーゼとコルネリアは一緒のクラスで、三年生でコース分けがされるまでは変わることは無い。担任の先生はヒルデガルド先生だった。……私と言う厄介者を押し付けられたのでは無ければいいけれど。二、三、連絡事項を伝えた後に講堂へ移動するように言われた。


 「新入生入場」の声と共に講堂に入ると一人だけ制服が違うせいで注目を浴びた。

 何あの制服。王族なんだってよ。そんなに目立ちたいのかしら。いい気になってんじゃない?―――ひそひそ、ひそひそ。ちょっとこれは、メンタル削られるなあ。


「ああ、いたいた、あなたがアリシア様ですね?」

「ええ、そうですが」


 席に着く前にいきなり様付けで呼ばれて驚いた。呼んだのは上級生で腕に生徒会の腕章をつけている。


「今すぐ舞台袖へ行ってください」

「わかりました」


 何が何だかわからないけれどリッカと一緒に上級生について行く。呼ぶタイミングと言い、段取りがきっちりしていないんじゃないかと思った。

 舞台袖には数人の生徒と一人の先生。中年のおじさん先生は「おお、来たか」と私を見る。ステージ上では校長先生が挨拶を始めている。私新入生だから入学式に出る方なのに……。


「じゃ、よろしく」

「何がですか」

「新入生代表挨拶」


 ……は?え、うそ。私何にも聞いていない。思わず固まったままおじさん先生の顔を凝視していると、生徒の方から折りたたまれた紙を渡された。校長先生の話が終わりこちらへ戻ろうとしている間にも生徒の説明は続く。


「心配しなくてもここに書いていることを読み上げてくだされば結構ですよ。王女なのだからそれくらいはできるでしょう?あ、妖精はここで待っていてください」


 そういって舞台袖からトンッと押し出された。少しよろめくが、ステージ上から全員の視線が集中しているのを感じ、逃げ出したい気持ちを抑えて体勢を立て直し中央にある台へと向かった。

 震える手で折りたたまれた紙を広げると、そこには文字など一切書かれていなかった。つまり白紙。あ、もしかしてあぶり出しとか?嫌がらせにしてもここまでやるかしら、普通。

 とりあえずはこの場を切り抜けることを考えよう。私は紙を折りたたみ、壇上から周りを見渡して一度深呼吸をした。みんな、じゃがいも。声がかすれることの無いように。しっかり前を向いて。でも笑顔を忘れないように。


「春の麗らかなるこの良き日、私たちは晴れてリンドルム高等学校の生徒となりました。たくさんの輝かしい未来を夢見てここに集うことが出来たこと、大変うれしく存じます……」


 ゆっくりと、でもはっきりとした声はマイクで増幅されて講堂の中へ響き渡る。自分が何を話しているのかほとんど理解していない。まるで何かに操られるかのように、私の口はすらすらと言葉を紡ぎ続けている。

 有り得ない。前世でもこんな、壇上に上がってスピーチするなんて経験はなかった。……血のなせる業…か…。はたまた魔王の……。


「最後に、先生方、先輩方、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。新入生代表、アリシア・グランツ」


 あははは、新入生代表の挨拶で魔王になったらどうしよう?そんなんでなったら見ものだよ。おかしい、おかしい、おかしい。緊張が解けていくと次第に自分の異様さが怖くなっていく。


 舞台袖に引っ込むと出迎えたリッカを素通りする。入れ替わりに生徒会長らしい人がステージに出た。紙を渡して来た生徒は「お疲れ様でした」と一言。


「これ、あなた達の仕業かしら?」


 念のために白紙を見せると真顔になり首を振って、「私は指示されただけです」と答え、周りの生徒もそれに倣って頷く。躍起になって犯人捜しをするつもりはない。ただ、誰が敵か把握しておきたいと思っただけだ。犯人がいたとしてもこの場で言うわけないか。


「おい、何をもめている。王女さんはとっとと退場だ」


 席に戻る途中、リヒャルダ先生の方を見てみるが式に集中していてこちらを見もしなかった。

 ―――根拠もないのに誰かを疑うのってものすごく嫌だ。式はそれ以降何事もなく終わり、新入生は全員教室へ戻った。


 ホームルームが始まるまでには時間があるようだ。


「アリシア、顔が真っ青よ、大丈夫?」

「覚悟はしていたんだけどね、初っ端からこんな洗礼受けるとは思ってもみなかったわ。これを読めって言われたの」

「読めって、これ、白紙じゃないの」


 流石に一人で抱え込むほど私は強くなんかないのでエリーゼに愚痴を言った。傍で聞いていたコルネリアも覗き込む。


「何かの手違いってことじゃないね。何か目立つようなことした?」

「制服でしょう、試験もごたごたあったし、幽霊退治を手伝ったことぐらいしか……」

「「十分だと思うけど」」


 エリーゼとコルネリアの声が重なって、私は机の上に突っ伏した。誰が何の目的でそんなことをしたのか分からないのが一番怖い。


「誰か知り合いとかいる?例えばその人への恨みがこちらに来ているとか」

「ウィルならさっきステージ上に居ましたよー」


 がばッと起き上がりリッカを見て、思わず鷲掴みにする。ぐえーとうめいたので慌てて放した。


「本当に?」

「やっぱり気づかなかったんですかー。あれだけ成長したら分からないですよねー。気づいて近寄って行ったら黙っているように言われましたー」

「元気そうだった?」

「はーい、それはもう。イケメン街道まっしぐらでしたー」


 何だ、それ……そうか、ウィルがいるんだった。少しだけ元気が出る。ひょっこり会うかもしれないからその時に恥ずかしくない様にしなくては。私は姿勢を正してきっちり座りなおした。


「なんにせよ、私は立派な挨拶だと思ったわ

「咄嗟にあんな風にスピーチするなんて私じゃできないよ」

「ご主人様ーとても立派でしたー」

「有難う、みんな」


 前を向く覚悟が出来たものの、心の中に少しだけ引っかかることが。やっぱり何の準備もなくスピーチが出来るような訓練は受けていない筈なんだよね。私の中に何か別のものがいる……とか?怖い考えを振り払うために私はおしゃべりに混じった。




制服、エリーゼにはボレロを着てほしかった。

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