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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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試験中

 一日目の筆記試験は教室で行われた。日本の一般的な小中高校の様に平坦な床に机といすが置いてある形ではなく、大学の様に階段状になっていて長い机と長い椅子、一番低いところに黒板と教壇があった。おそらく授業中は席が自由に選べるのだろう。 

 解答欄はすべて埋めることが出来た。余程点数が低くない限りは、落ちることは無いと聞いている。同じ教室の中で受けていたエリーゼも手応えがあったようだ。


「そういえば、エリーゼのお友達ってこの中にいるのかしら?確かお兄さんがいるっていう……」

「別の教室みたいね。入学したら紹介するわ」


 お昼も教室内で食べている。机といすが長いので、試験を受けている席を離れてエリーゼの隣に座った。他の皆も好きな場所で食べているから問題は無いはずだ。

 この問題の答えはどうだとか、自分はこのようにしたとか、あちこちで答え合わせが始まっている。お昼ぐらいはゆっくり食べようとしたが、おしゃべりの内容は自然と試験のことになる。


「明日は面接よね。今日の筆記よりもそちらの方が心配なのよ。エリーゼは?」

「私は、母に連れられていろいろな方とお話したりしているから、面接よりも今日の筆記の方が心配だわ」


 何事も経験すればそれは力になる。私の場合、今頼りになるものは面接対策と前世の経験かも知れない。

いつの間にか黙ってしまった私を、エリーゼは心配そうに見る。


「ほら、私、人見知りだから…」

「嘘おっしゃい。手紙だけのやり取りでほとんど初対面なのにあんなに嬉しそうに話しかけてきたのはどこのどなただったかしら?」


 ぐうの音も出ない。二人で顔を見合わせて笑ってしまった。


 午後の試験も全問解答。空欄にしておくのはもったいないと、自信の無い問題もきっちりと答えておいた。どうか合格しますように。



 ―――二日目、面接試験。


「アリシア様はこちらへどうぞ」


 面接は私だけ別室で行われるようだ

 五人いる試験官に履歴書のコピーが配られた。そのうちの一人、真ん中に座っている長く白いお髭のおじいさんが声を上げた。おそらく校長先生なのだろう。ニコニコ笑顔が何だか食わせ物だ。


「ええと、特技は調合と異種格闘?……ほう、エルフ語ですか」

『どなたに教わったのかお名前をうかがってもよろしいかしら?』


 水色の髪のエルフの女性がエルフ語で聞いてきた。美人…だけれども髪の色のせいか少し冷たい印象を受ける。


『ロベルトと言います。初期の段階の勉強もその方に教えていただきました』

『もしかしてダークエルフの?』

『ご存じなのですか?魔王討伐に加わったと聞いておりますが』


 こちらが聞いたのにそのエルフは黙り込んでしまう。……予想した通りになってしまった。周りの試験官には今の会話は理解できなかったようだ。言葉のやり取りが途切れ、間が空いた事にしびれを切らしたらしい一人がエルフに声を掛けた。


「ヒルデガルド先生?何か問題でも…」

「ダークエルフに教わったそうです。他の勉強も。この王女を入学させるのは危険すぎます。一体どんな危険思想を吹き込まれているのかわかりません」


 ここまで露骨にダークエルフへの差別を目の当たりにするとは思わなかった。でも、冷静に。冷静に。自分に言い聞かせ、なおかつ反撃の糸口を模索する。入学した後の事を考えると、下手にいろいろ隠すよりは私の置かれている状況を説明した方が良いだろう。 


「皆様は私に下された予言の事をご存知でしょうか?ロベルト師匠は先代魔王の堕ちていく様子や自分がダークエルフに堕ちて行った理由を私に教え、どうすれば魔王にならずにすむのかを親身になって考えて下さいました。この学校に入るのは、城の上層部で話し合われた結果、命じられたことです。他の生徒と同様の平等なご判断をお願いいたします」


 そう言って、私は優雅に見えるようにゆっくりと頭を下げた。これで受からなかったら、旅にでも出ようなんて考えながら。


「ふむ、確かにこの学校はいろいろな種族が集まることから差別などが無いように配慮されておる。……素朴な疑問だがエルフ語を教わったのはどのような経緯ですかな。アリシア王女?」


 平仮名も片仮名も漢字も知っていたから……というのが本当の所だが。


「魔王化を防ぐために、何かの役に立つかもしれないと。エルフは長寿の種族ですから何らかの記録が残されているのではないかと師匠と私で考えた上でのことです。ここの図書館は蔵書数も豊富だと聞いていますから」


 なるほどなるほど……と長いひげを撫でながら考えるおじいちゃん先生。他の試験官も納得してくれたようだ。只一人を除いては。


「自分では閲覧のできない場所の記録を彼女に読ませるため、と言った所かしら。ダークエルフの浅はかな考え方ですわね?」


 エルフはなおも食い下がる。この程度なら平気だが、周りの試験官は彼女の言い方にうんざりし始めているようだ。


「ヒルデガルド先生、教師にあるまじき発言は控えていただきたい。出て行ってください」


 堅物と言った感じのメガネの試験官がエルフの……ヒルデガルド先生に冷たく言い放った。そんなに目くじら立てるほどの事はまだ言われていないと思うけれど、試験官たちにとってはそうでもなかったらしい。

 ヒルデガルド先生は顔を真っ赤にしている。立ち上がるとこちらを睨みつけた。警備の為に部屋の外にいた人間が呼ばれ、エルフに近づく。


「このっ、ダークエルフの手先がっ」

「ヒルデガルド先生っ」


 周りの止める声も聞かずに私にむかって魔法で水の矢をいくつか放つ。咄嗟に反属性の炎の壁をぼうっと上がらせると、水の矢がじゅわっと音を立てて消えた。次の攻撃が来ないことを確認してすぐに炎を消す。私は無意識に立ち上がっていたので時間をおいて倒れた椅子の音にびっくりした。

 周りの若い試験官たちも手伝ってヒルデガルド先生は床に押さえつけられている。


「幾らなんでも王族に攻撃するなんて、何を考えているんですか」


 そうだ、私一応王女だった。……これだけ人の見ている場で攻撃した彼女がどうなるか、容易に想像できる。教師をクビになるだけで済むならまだしも……。


「あの、これも試験内容の一部なんでしょう?予言の王女が簡単に逆上してしまうようでは、私が試験官でも危険分子と認識して入学させるのを拒否しますもの」


 そう言ってにっこりお嬢様スマイル。私は気にしていないから、どうかこれで納めてほしいという思いは校長に届くだろうか。


「なんと、お優しい」

「王族に手を挙げたのにお許しになるとは」

「まるで聖女のようですな」


 ちょっと、最後の、いらないから。


「何が聖女ですかっ。今の見たでしょう?炎の向こう側に立つ姿がまるで魔王の様に邪悪で―――」


 ヒルデガルド先生が押さえつけられながらも叫ぶと、会議室の扉ががちゃっと開いた。私よりも魔王みたいな形相のエルンストが入ってくる。……助かったと言うよりも来てしまったという思いの方が強い。試験官の一人が誰何(すいか)を問うと、意外と冷静な声で答えた。


「宮廷魔術師副師団長のエルンストと申します。アリシア王女の付添として今日はここに来ておりました。殿下に魔法攻撃をしたのはそこの女性ですか?よりによって教師が手を上げるとは……」

「ご主人様、ご無事でしたか」


 リッカが私に寄ってくる。「大丈夫よ」と短く答え、事の成り行きを見守る。いきなりこの場でどうこうすることは無いと思うけれど、エルンストは何をするか分からないほど怒っている。


「待って、エルンスト。ヒルデガルド先生と言ったかしら?入学できたら、私が堕ちないように見張っていただけますか?」

「アリシア、何考えているんですか!」

「……私が受けた面接によって、人が一人処分された。そんな噂が広まったら今後の学校生活にどんな影響を及ぼすのかしら?言っておくけど善意なんかではないわ。自分の身を守るためよ」


 私は膝をついて彼女と目線を合わせ、肝心なことを聞いておく。きっちり整えられていた水色の髪が乱れていて苦痛にゆがんだ顔をしているので周りに少し手を緩めてもらった。


「一つお聞きします。あなたは神殿とは関係ありませんよね?」

「教師の背景には十二分に精査させております。特に神殿に関わりのある者は我が校にはいない筈です」


 答えたのは堅物試験官だった。それを聞いて安心する。


「堕ちるという事がこれほど許せない彼女なら、私が堕ちることも防いでくれるでしょう?逆に、学校生活において私が魔王になるようなことがあれば彼女の責任という事で、どうかしらエルンスト?」

「敵は彼女だけとは限らないのですよ」

「そうね、ならば本人に選ばせましょうか。ヒルデガルド先生、学校に残るのと学校を出て行く、どちらを選びますか?」


 残るならば今まで通り。残らなければ、おそらく今あった出来事を(つまび)らかにされて……。私、結構残酷なことをしているかもしれない。振り絞るような声で答える先生。


「……残る方を……選ばせて頂きます……」

「ええ、これからよろしくお願いいたします。面接は以上でよろしいかしら?」

「はい。ご迷惑をおかけいたしました。寛大なご判断、有り難く存じます」


 おじいさん先生が頭を下げると他の先生たちも慌てて下げた。エルンストたちと一緒に退出し、エリーゼに一声掛けてから学校を後にした。

 果たして、今日の出来事がどのように形を変えて私の身に降りかかってくるのか―――。



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