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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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お受験です

 高等学校の入学試験があるのは冬の始め。一昨年にはウィルが受けたはずだ。この屋敷を出て行ってから何の音沙汰もないので入学できたのかどうかも分からない。お祝いくらいはしてあげたかったのだが……。


「ウィルなら首席で合格していましたよ。あれ、言ってませんでしたか?」


 エルンストに連絡が来ていないことを話したら衝撃の事実を聞かされた。聞いていないと恨めし気に言ったら、「連絡は取り合っているものだとばかり……」と若干引き気味に言っていた。


「一切手紙とか来ないのよ、何かあったのかしら。……私が知り合いだと困るのかも知れないわね。忌まわしい予言の王女だものね」


 自分で言っておいてずどーんと落ち込んだ。私が入学すれば校内で会うこともできるかもしれない。でも、声を掛けるなオーラとか出されたらどうしよう。


「ウィルはそんな奴じゃないだろう。何か理由があったのかもしれないし、学校に行ったら本人捕まえて聞いてみりゃいーじゃねーか」


 師匠が尤もなことを言う。今ここで何を考えても解決はしないものね。自分の事に集中しよう。


 エルンストによると、座学と面接の試験があるらしい。魔法は無いのかと聞いたら、本来魔法は高等学校に入ってから教わるものだという事だ。私の場合は身の危険が迫っていたし、ウィルもそのために付き合わせられたようなもので特に規制があるわけではないらしい。

 過去の問題集を何回か解いてみたがどの科目も問題なさそうだ。地球で得た知識はもちろん、この世界で得る知識も嬉々として受け入れていたので、勉強が苦痛になることはあまりなかった。問題なのは―――


「面接の時にどこまで聞かれるかしらね。数人ごとの集団面接だと周りを気にして受け答えをしなければならないし……」

「そうですねえ。もし志望動機を訊かれたら?」

「貴校の自由と平等に重きを置いた教育精神に深く感銘を受け、学びたいと思いました、というとこらかしら」


 必殺、『嘘は言っていない』こういう時は単純な答えをどれだけ難しい言い回しでデコレーション出来るのかにかかってくる。ちなみに今の言い方、元をよく考えると「誰でも入れてくれるって聞いたから入りたいんだよ」になる。

 エルンストと勉強を教えてくれている先生たちは頷いて、受け答えについては問題なしと考えたようだ。


「流石に魔王云々について深く突っ込まれることは無いと思いますが、覚悟した方が良いのは試験官の中にエルフがいる可能性があることです」


 そう言って師匠の方を見る。ダークエルフが受験をすることはまずないらしい。そんなに若くして堕ちるという事は少ないし、堕ちるという事はいうなれば不良になるようなものだ。ちなみにダークエルフの子供がダークエルフで生まれる可能性はこの世界ではほとんど無いらしい。


「何言われても平然としていろよアリシア。俺は何言われても平気だからな」

「ロベルトの事は伏せておいた方が良いかもしれません。万が一質問によって答えざるを得なかった時もひどく貶されて逆上してしまう事のないようにしてください」

「試験官全員がエルフという事は無いでしょうし、エルフの暴走を誰も止めないようならばそんな学校に入るのは嫌だわ」


 私はそう答えた。実際、そんな針のむしろ状態で学校生活を送るのは嫌だ。自分の事なら平気だが自分の恩人の事でねちねちと嫌味を言われ続け、平等を掲げておきながら差別的な発言を見過ごすような学校に居続けるなんて出来ない。そんな状態なら旅にでも出よう。


「もう一つ心配があるの。試験中の移動は一人で行動することが多いでしょう?城に行った時みたいにならないかしら?」


 当然だがリッカは試験に連れて行けない。妖精がびゅびゅん飛び回っているなんてカンニングをしているようなもの。不正が疑われるようなまねを自ら望んでするのも嫌だ。


「面接をする際、王族という事を考慮して別室に連れて行かれる可能性はありますが……ふむ、保護者の控室からリッカに見てもらい、問題が有ったり長時間一人で動かないようならば助けに行く、というのはどうでしょう」

「エルンストが保護者として来てくれるの?」

「王が来るよりましでしょう?」

「そうね、ありがとう。安心して試験に臨めるわ」


 ……あの父様ならこっそり来そうな気がするのは、私だけだろうか。



 そんな感じで試験の対策を皆で話し合ったのは秋の終わり。日付は過ぎていき、今日は試験当日だ。

 行く前に、ばば様の写真に手を合わせた。何事もなく無事に試験を終えられますように。私頑張るから見守っていてね、ばば様。


「筆記用具は持ったか?受験票は忘れてないよな?弁当は?いざとなったらドラゴンに変身してでも逃げろよ」

「師匠、なんだかお母さんみたいよ。最後のは何?」


 師匠が何の心配をしているのか分からなくなってきた。試験を受けに行くだけなのにドラゴンに変身するようなことがあってはたまらない……でも一応気を付けておこう。


 学校周辺が込み合うとの理由で馬車の横づけは禁じられているので、近くまで行って馬車を下りた。帰りは徒歩だ。

 煉瓦の建物、白い建物、木造の建物、石造りの建物。統一感が無いなあと言うのが第一印象で、その後すぐに迷わなくても済むかもしれないと思った。時計塔のある一番大きな白い建物に入ると、案内に従ってすぐにエルンストたちと別れる。

 生徒たちがたくさん集まっている中、私はエリーゼを探す。今着ている服を作ってもらた時に事前に決めておいたのだ。服が目印になってお互いすぐに見つかった。


「よかったわ、すぐに見つかって」 


 エリーゼがほっと胸をなでおろす。見知らぬ人たちの中にいるのはどれだけ齢を重ねても不安になるものだ。

 辺りを見回すといろいろな種族がいるが、ほとんどが人間で時折エルフや獣人を見かける程度だ。人の遺伝子は中でも優性で、たとえばアレンさんとテッドのように、代を重ねるごとに潜在的に他種族の遺伝子を持つものの、外見的にはほとんど人間の姿をしているものが増えていくらしい。


 学校に通っていた子供はそのまま制服を、そうでない子供は落ち着いた色合いのブレザーにズボンあるいはスカートと言ったスタイルの子が多い。服の見本市みたいで楽しいと思ったが、これはとても裕福な子とそうでない子の差なのだと気づいた。中には裕福でも学校に行く子供もいるかもしれないが、ちゃっかりこちら側にいる私は少しだけ申し訳なく思う。

 私とエリーゼは深い緑色がベースの制服の様な形。よくよく見ると細かいところが違うのだがパッと見はお揃いに見える。


「ごめんなさい。母は多分あなたを利用しているわ。分かる人には分かる、王族とのつながりを宣伝しているようなものね」

「いいえ。お揃いみたいでとても嬉しいわ。利用すると言うならお互い様よ。少なくともエリーゼの家は味方だって事になるし、禁忌の王女は孤立していないという事になるわね」

「あなたって本当に……前向きね」


 呆れ顔だったエリーゼは、こちらがニコニコ顔を貫き通すと、つられて笑顔になっていく。うん、かわいい。緊張も解けたみたいだ。


「さあ、行きましょうか。いざ、出陣、なんてね」

「緊張のかけらもないわね。でも、不思議。私も力が湧いてくるわ」


 エリーゼと二人で受付へ向かった。


ブクマ&評価有難うございます。嬉しくて脳内でアリシアが小躍りしております。

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