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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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久しぶり

「本当にもう大丈夫なんですかー?無理しないでくださいよー」

「大丈夫よ。いつもよりもすっきりしているくらいだもの」


 熱もすっかり下がり、マーサが持って来た朝食もしっかり食べた。暫く浴びられなかったシャワーで汗を流しメイド服に着替えてエルンストを起こしに行く。あれだけ重たかった体が今日はとても軽い。元気ついでに髪型をツインテールにしてみた。ちょっぴり鼻歌も歌っちゃおう。


「エルンスト、起きて下さい。朝ですよ」

「今日はなんだかご機嫌ですねーご主人様ー」

「勉強も習い事もしばらく休んでしまったからかしらね、今日から頑張らなくてはいけないから何だか気合が入っているのよ。……ほらとっとと起きなさいエルンスト」


頭まで潜っている布団の塊をゆさゆさと揺らして起こそうとしていると、視界の端、ソファーの上で何かがむっくりと起き上がるのが見えた。他に誰かいるなんて気づかなかった。慌ててそちらに目をやると、伸ばした手でメガネを取ってかけ、「おはようございます、アリシア。具合はもういいんですか?」と聞いてくるエルンストがいた。……エルンストがそこにいるという事は私の起こそうとしていたこれは……誰……?

 恐る恐る布団をめくってみると、この世のすべてを滅ぼしそうなほど不機嫌そうな顔をした師匠と目があった。


「きゃあぁぁぁー」


 悲鳴を上げて二、三歩後ずさりをする。あ、今の悲鳴お嬢様っぽくなかった?言葉遣いが変わったところを師匠に見せるのは初めてだ。少し気合を入れよう。


「何が『きゃあぁぁー』だ。お前の悲鳴は『ぎゃあぁぁー』だろうが」

「ひどいですよ、師匠。毎日マナーのお稽古頑張っているのに。……リッカ、笑ってないで気づいていたら教えて頂戴。お蔭ではしたない悲鳴を上げることになってしまったわ」

「ちょっぴりラブ要素を含んだ感動の再会が見られると思ったのに、残念ご主人様ですー」

「マナーのお稽古って悲鳴の上げ方まで学んでいるんですか」


 エルンストが頓珍漢なことを聞いてきた。まだ寝ぼけているのだろうか。今朝はすっきり目覚めることが出来たのに朝からとても騒がしくて、少し疲れてしまった。

 寝起きの師匠を見るのはこれで何度目だろうか。もう流石に慣れた……と思う。リッカが心拍数まで測れる妖精だったらまずいかもしれないけれど。不自然ではない様に笑顔を顔に張り付け、改めてベッドの上の師匠に向き直り、再会の挨拶をした。


「えっと、師匠、お久しぶりです。いつこちらに来られたのでしょうか?」


 師匠は片眉を上げて怪訝そうな顔をしていたが、「昨日だ」と短く答えた。準備が間に合わなくてこの部屋に泊まったらしい。熱に浮かされていたので全く気が付かなかった。館の主を差し置いてベッドで寝ているところがとても……師匠らしい。


「まあ、熱を出して寝込んでいたので全く気が付きませんでした。知っていたらお出迎え致しましたのに」

「お前、いい加減そのお嬢様ぶった言葉やめろ。すごく胡散臭い。昨日は普通に話していただろうが」


 一年間の努力を一蹴されてしまった。少し……いや、かなりショックだ。頑張って努力してきたことが認められないのは悔しい……って昨日?師匠は私にお構いなしにベッドから降りて、くわーっと欠伸をしながら伸びをした。


「昨日は一日中寝ていましたけれど?」

「……じゃあ、あれは寝言か……」

「え、なんて言っていたのですか?」


 思い返してみても全く覚えがない。時折目を覚ましたが部屋に誰もいなかった。ましてや師匠と会話をしていた記憶なんて無い。師匠はにたぁーっと笑って私を見ている。


「まさかあんなこと言われるなんてな……ま、誰にも言わないから安心しろ」

「誰にも言えないことを私が言ったのですか?」


 うわぁ、私はどんな恥ずかしいことを言ったのか気になるが、何を言ったのか覚えていないので照れることもできなく、もやっとした感じのままだ。知りたいような知りたくないような……。


「それよりお前、いつもそんな格好してエルンスト起こしてんのか」

「メイド服ですか?起こす時だけですけど……流石に一年も来ているときつくなってきたかしら?」

「太ったんじゃないのか?ちゃんと鍛錬はしているのか?」

「成長しただけです。そんなデリカシーの無いことを言わないでください」


 忙しくて鍛錬の方がおろそかになっていたのは内緒だ。この貴族街で村でやっていたような稽古をするのも気が引けた。簡単な演武なら自分の部屋でもできるかもしれないがそれすらやってなかった。誤魔化すように話題を変える。


「ばば様は、師匠が来ていることはもう知っているのですか」

「いや、今から挨拶しに行く。着替えるからとっとと外へ出ろ」


 部屋を追い出された。私も一緒にばば様の部屋へ行こうと少し待っているとエルンストと師匠が出てきた。後をついて行こうとすると師匠に止められる。


「アリシアは来るな。リッカ、お前は来い」

「はいはーい」


 エルンストは分かるけど、なぜにリッカ?私は?

 ずっとばば様の部屋の外で待っていたがなかなか出てこないので、マーサにエルンストが起きたことを告げ、自分の部屋に戻って服を着替えた。リッカが言っていたようにもう少し感動の再会になるかと思ったのに少しだけ拍子抜けだ。

 今日も勉強やお稽古事が詰まっているので、準備をし始めた。気持ちを切り替えて集中しなくては。




「村のみんなは元気ですか?」


 ダイニングルームに皆がそろった夕食時、気になっていたことを師匠に聞いた。


「ああ、結界が無くなっていろんな奴が村に来るようになって森の外側へ村を広げようかって話になっている。そっちに移り住むのもいるけど、村が無くなることは無いから安心しろ」

「あ、それテッドの手紙に少しだけ書いてありました。テッドは元気ですか?」

「冒険者になって村を出たぞ。勉強の方も終えたからな。村の規模がでかくなって他にも教師のできる奴が来たし、戦える奴も増えた。だから俺がこっちに来たわけだ」


 師匠の言葉に息を飲んだ。という事は―――


「師匠、ずっとここに居られるって事ですか?」

「ああ、何だ、嫌なのか?」


 私は首を思い切り横に振った。素直に嬉しい。


「師匠が傍にいれば王都観光もできるよね、エルンスト?」

「……はあ、出来れば私が案内したかったのですが、結局一年経ってしまいましたね。申し訳ない」

「ほとんど外に出なかったのか?来年の春には寮に入るから簡単に出られなくなるんだろ?」


 そう、寮に入っても自宅に帰ることは簡単に出来るらしいのだが、それ以外は中々許可が下りないらしい。ウィルがいた時に一緒に外に出られれば良かったのだが、あっという間に親戚の家に移ってしまったので観光はできなかった。


「ばば様も一緒に行く?少しは外に出ないと体なまっちゃうよ?」

「わしはいい、二人で行っといで。どうしてもじじ様を思い出してしまうからのう」

「わかった。何かお土産買って来るね」


 楽しみにしておるとばば様は言って、食事を終えた。明らかに食事の量が減っているから、食べるものではない方が良いだろう。何か、傍に置いておくだけで心が華やぐ物が良いかもしれない。


気合を入れすぎると却って台無しになったりしますよね。

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