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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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お手伝い

「アリシア、おかえり」

「ただいま、ウィル。なんか久しぶりな気がするよ」


 エルンストの屋敷に戻った。たった二日の事なのに長い間帰ってなかったみたいだ。玄関で出迎えたウィルの顔を見てほっとするが、ばば様の姿が見えない。


「ばば様は?」

「少し具合が悪いらしくて寝てるよ」

「え、大丈夫なの?」

「うん、一応医者も呼んだけど疲れが出ているだけだって」


 生活ががらりと変わって、国王である父様にも会って、緊張してしまったのだろうか。自分の部屋へ戻ってから、具合を見るためとお城での報告をしようと思ってばば様の部屋のドアをノックした。


「ばば様、大丈夫?」

「ああ、アリシアお帰り。城へのお泊りはどうじゃった?」

「うん、楽しかったよ。建物一つ丸々貸切だった。花火も上がったんだよ」


 嘘は、ついていない。笑顔で答えて、扱いのひどさを隠した。心配はかけたくない、その一心で。「そうか、良かった」と返すばば様は確かになんだか疲れた顔をしている。


「それでね、今後の事なんだけど、二年後に高等学校へ入ることになったの。それまではこの屋敷で準備するようにって」

「ふむ、そうか、それではわしもここで御厄介になるかのう」

「うん、いきなり一人は寂しいからいてくれると助かる。それと、村に居た時みたいにこのお屋敷でお手伝いと、何か金策をしようかなと思うんだけど」

「あまり気にしすぎるのも相手の負担になるからのう。セバスチャンあたりに相談してみるといい」


 黙って頷いた。余計なことをして迷惑になってしまうかもしれないんだ。「早速聞いてくるね」と言ってばば様を寝かせ、部屋を出た。

 森の家へ戻った方が元気になるだろうか。でもそれだと一人にさせることになってしまう。本人の希望を叶え、ここで御厄介になるのが一番いいだろう。


「ばば様、元気になられると良いですねー結構なお年だから無理させない様にしないとー」

「え、リッカ、ばば様の齢知っているの?」

「秘密ですー」


 ばば様に口止めされているらしい。話しながら歩いていると丁度玄関ホールでセバスチャンを捕まえた。考えていたことを簡単に説明する。


「お手伝いですか?アリシア様にそのような事させるわけにはいきません」

「うーん、村ではいろいろ手伝いしていたんだけど……それじゃあ何か金策をしたいんだけど、せめて生活費を渡したいなと思って」

「何かもめごとですか?」


 セバスチャンと私が話しているとエルンストが二階から話しかけてきた。今いる玄関ホールは吹き抜けになっていて、二階の通路が見えている状態だ。


「お世話になりっぱなしなのは悪いから、皆のお手伝いをしようかと思って」

「ちょっと待っててくださいっ」


 エルンストは自分の部屋に戻って何かを持って一階まで下りて来た。


「ぜひ、これを着て下さいっっ」


 そういって取り出したのはサイズは小さめ、子供用のメイド服。なんでそんなものがここにあるのか疑問だ。


「テレーゼに言って作らせてもらいました。オーダーメイドのメイド服です」

「余分なお金があるとこういった無駄遣いをされるので、今の財政状況でも十分なんですよ」

「……なるほど」


 セバスチャンの言い分ももっともだ。お金があったらあった分だけ、玄関ホールの置物みたいなものを際限なく買ってしまいそう。このお屋敷の人たちはエルンストと長い付き合いなんだろう。マーサにしてもセバスチャンにしても扱いの仕方を心得ている、と言った感じだ。苦労しているんだろうなとも思う。―――金策に関しては何かする方が迷惑そうだ。


「どうか、お気になさらずに。それよりも高等学校に入るまでの間、学ばなくてはいけないことがたくさんありますよ」

「え?座学も魔法も今まで通りではダメですか?」

「お茶会など、貴族のやり取りや作法なども覚えていただきます。貴女を王族としてみるものがほとんどでしょうから、ある程度のレベルは身に着けていないと」


 私は考え込んだ。うまくすれば使用人の立場からもお茶会が見えるかもしれない。エルンストの「おーい」とか「無視しないでくださいよーう」といった声が聞こえる。ああ、でもそれはちょっと大変か。下手に使われる側の立場の目線になってしまうと、使う側は何もできなくなってしまうかもしれない。


「この前のマナーの先生は外していただけますか?その、ちょっと気に障ることを言われたので」


 そばにいたリッカも一緒にうんうんと頷いている。


「承知いたしました。ではそのように致しましょう」


 私はエルンストに向き直った。目を輝かせて待っている。私はながーいため息をついた。


「これを着ろっていうことはお手伝いの許可が下りたって事よね、セバスチャン?ほんの少しでもいいから何か私にできることないかな?」

「……わかりました。明日からマーサに付いて下さい」




「ご主人様ー無理しなくてもいいと思いますけどー」

「ううん、メイド服を着るくらいでお礼になるなら頑張って着るよ」


 ただの制服だと思って着れば大丈夫。ここでいろいろお手伝いするから、そのための制服。いかがわしい物じゃないんだから、うん。エルンストから受け取ったメイド服を試着してみる。

 

「結構普通のデザインだよね、リッカ」

「スカート丈もひざ下までありますし、マーサさんが着ているものと少し似ていますね」

「動きやすいよ。エプロンもフリル控えめだし」


 くるりと回ったり腕を回したりして動き辛くないか見る。汚れても直ぐに洗えそうな素材で、黒い服に白いエプロンと言う定番のメイド服なんだけど、エプロン取ったら普通にワンピースとして着れそうだ。

 エルンストに見せる前にウィルに見つかった。「かわいいね」と言う言葉に少し照れる。


「本当?」

「うん、連れて帰りたくなるくらい」


 帰る、と言う言葉が引っ掛かる。ここ数日別行動をしている間に何かあったのかな?


「ウィル、帰っちゃうの?」

「村じゃなくて王都の親せきの家にね、入学まで住むことになった。母さんの実家が貴族なんだよ」


 貴族のお嬢様がどうやって村長と結婚したんだろう?……いや、それよりも。


「ここを出て行くって事だよね。いつから?」

「今週中には。もしかしたら養子になるかもしれないって話も出ている」

「それは……なんていうか大変だね。私も寂しいなんて言っていられないよ」


 と、口では言ったもののおそらく私の顔はしょんぼりしているんだろう。ウィルは師匠みたいに頭をぽんぽんと軽くたたいた。師匠が私を子ども扱いするのはわかるが、ウィルにされるのはなんだか複雑だ。


「せめて入学まではアリシアの傍にいるつもりだったんだけど、護衛失格だな」

「まだまだ子供だもの、ウィルも私も。もしも親戚の家で嫌な目にあったら逃げてきてもいいよ」

「そうならないようにうまく立ち回るよ。二年後にはアリシアの先輩になるからね。恥ずかしくない様に頑張らなくちゃ」

「あはは、その時にはよろしくお願いします。先輩?」


 本人の望む望まないに関わらず周囲はどんどん変わっていく。村を出てまだそんなに経っていないのに、懐かしいと思ってしまうくらいに。


エルンストの家の人たちは、割と長命の種族です。家族はいません。

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