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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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朝が来た

「アリシア、起きてますか?」


 扉をノックする音と共にエルンストの声が聞こえてくる。カーテンの隙間からは朝の光が差し込んでいるが、まだ眠り足りず頭はすっきりしない。ここ、どこだっけ?寝ぼけ眼でベッドから這い出して扉を開けると、エルンストと一人の兵士がいた。昨夜、兵舎へ連れて行ってくれたうちの一人だ。


「ああ、アリシア、おは……」


 エルンストはなぜか隣にいた兵士の視界を片手でふさぐ。兵士の手には広めのトレーに乗せられたサンドイッチとティーセットがあった。昨夜の件から、気を利かせて朝ごはんを持ってきてくれたようだ。


「少し待っていますから、服を着てください」


 そういうと慌てて扉を閉めた。服……?下へ視線を降ろして自分の体を見ると、昨日服を脱いで寝た時の、つまりスリップ姿の状態だった。やってしまった。羞恥で泣きたくなるのをこらえながら服を着てリッカを起こす。ロングのキャミソールを着ている感じだから下着って感覚が無かったよ。

 扉をそーっとあけてエルンストを睨みつける。


「責任とって嫁にもらうので安心してください」

「そういう事じゃないっ」

「お二人はそういう仲だったんですか……あ、もしかして自分は邪魔してしまいましたか?」

「違うっっっ、変な噂とか立てないでよ、頼むから」


 兵士からトレーを受け取ったエルンストがテーブルで準備する。兵士はそのまま扉の前に立った。外側でなくて内側に立つのは、来訪があったときに応対するためらしい。本来なら侍女や従者がいる場所で、護衛は外側に立つ。


「昨晩の事情は彼らから聞きました。ここはもともと幽閉生活を送るための建物なので外から鍵を掛けるんですよ。今朝、陛下にお会いしたら実際には王の私室に近い部屋を用意するように指示したそうで『アリシアは昼前に帰ったと聞いてがっかりした、食事も一緒に取ろうと思ったのに……』と嘆いてましたよ。」


 父様がそこまで私の事を気にしてくれるなんて思ってもみなかった。ちょぴり親馬鹿?もう少し成長していたらそうでもなかったのかな。サンドイッチを食べながらエルンストに夕べの花火に気付かなかったのか聞いていみた。


「花火の件、私はてっきりあなたの歓迎パーティーが開かれているのかと思いましたよ。花火については報告は上がっていないとの事です。その時間には南向きの部屋にいたので気づかなかったらしいですよ。私の家に帰ってきていないことを告げ、案内した者に問いただしてここに来ました」

「やはり父様の指示ではなかったのね。単なる侍女と兵士のサボりかと思ったけれど、帰ったと報告がされたという事は案内した人が裏で糸を引いていたのかしら?」

「反王女派……今まで城にいなかった人に対していきなりアンチが出てくるとは思えませんが……」


 神殿の者でなく、城内の者からも敵意を向けられることはあまり考えていなかったけれど、せっかく追い出した王女が戻ってくることが都合の悪い者でもいるのだろうか?


「城の侍女たちが使えないのならテレーゼを呼んで側仕えでも雇いますか。私の家の者では城内に入るには支障がありますし、彼女の人脈なら相応しい者を選ぶことが出来るでしょう。こうしたいと希望を言わない限りこの先ずっとここで生活する可能性もありますよ」

「取り敢えずは村から持って来た着替えで十分だし、材料さえあれば食事だって自分で作れるわ。ああ……でも材料の調達やごみを捨てる場所が分からないわね……城務めの経験者が欲しい……ご迷惑ではないかしら?」

「彼女にとっても利点はたくさんあるのですよ。例えばもしも貴女が晩餐会などに出席するときには彼女の所でドレスを頼むでしょう?宣伝にもなりますし王女と繋がりがあると言う暗黙の了解にもなりますね」

「本当に私にそんな価値があるとは思えないんだけど。昨日の件だって……」

「近衛兵や王女付きの侍女になる道を自ら閉ざしてしまった馬鹿な者たちの事などお忘れください。どうしても気になるなら衆目の前で処刑することだってできるのですよ」


 扉の所で立っている兵士の顔が青ざめる。同僚の処刑の話をそんなに簡単にされたら誰だって慄くよ。エルンストに「そんな事望んでいない」と、私は首を振った。


「エルンストは私に魔王になってほしいの?私はならないように努力しているのに台無しにするつもりなの?」

「貴女が望まないなら私は何もしませんよ。でもそれだけのことを彼らはしているんです」


 非常にわかりにくいがエルンストは相当怒っているらしい。にっこり笑いながら怒る人だ。ついでにリッカも怒っているがこっちは非常にわかりやすい。


「何もお咎めなしと言うのは確かに腹が立ちますねー処刑でなくとも追放なり減給なり処分を下した方が良いと思いますけどー」

「私にそんな権限ないよ。それを言うなら私の下着姿を見たエルンストとそちらの兵士にも処分を……あなた、お名前はなんて?」


 今の会話の流れから言うと、処分を下すために名前を聞いたみたいだ。答えるわけがないよね。兵士は首を振って「見てません見てません」と答えた。


「エルンスト、彼の階級を上げることはエルンストの権限で出来る?」

「できますが……何ならアリシア付の兵士にしましょうか?」

「私なんかに付いたらご褒美ではなくて罰になってしまうでしょう?弟のどちらかについた方が……」


 エルンストとリッカにとてつもなく巨大なため息をつかれてしまった。


「な・ん・で・貴女はそうやってご自分を低く見ているんですか?そこの兵士に聞いてみてください。自分と弟のどちらに付きたいか」


 話は聞こえているはずだからそのまま聞いてみた。


「私に付くのは嫌でしょう?弟に付いた方が将来出世する可能性があるものね?」

「あんなやんちゃ坊主どもに付くくらいならかわいい女の子を守りたいです」


 ―――あれ?そういう趣旨の話だったかな?……かわいい女の子?首を傾げて兵士を見やると兵士は慌てていた。


「間違えました。出世するなら確かに王子に付くべきでしょうが、自分のような家柄もない一般兵には近衛になんて普通はなれません。こうしてあなたとお話しすることも実際には奇跡に近い事なんです」

「本音が先に出ちゃいましたねー別の意味で危険じゃないですかー?」

「自分は幼女趣味ではありません。ご安心ください」


 何だかちっとも安心じゃないや。リッカやエルンストがじとーっと兵士を睨んでいる。


「師匠並みに強くないと護衛にならないのだけど」

「勘弁してくださいよ、そんなの一般兵の中にいるわけないじゃないですか。例えば先ほどの食事。自分なら毒見をすることが出来ますが」

「リッカがいるから必要ないわねー」

「ですねー」


 ああ、こんなところにまで気を着けなくてはならないのか、と心底うんざりした。周りは敵だらけ。何気ない会話でも一言一句注意してしなければ足元をすくわれる。城で生活するとしたら相当の覚悟がいるな。


「とにかく決定を待つ間の食事と着替えだけ何とかしたいだけよ。昼間のうちに戻れないようだったらエルンストが持ってきてくれればいいわ」

「はあ、分かりました」

「それからそこの兵士」

「はい、なんでしょう?」

「城の中にはあとどれくらい神殿の手の者がいるのかしら?」


 兵士が息を飲んだ。エルンストもリッカも兵士を睨んだままだ。


「どうしてわかったんですか?」

「私の師匠が誰だかわかっている一般兵がそこらにいるわけないでしょう?」


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