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私が魔王になる前に  作者: よしや
第二章
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城内探索

「こちらに部屋を用意してございます。侍女が中に居りますので何なりとお申し付けください」


 案内されたのは、父様に会った部屋のある建物を出て、北のはずれにある大きな館だった。外から見ると四階建て、緑の屋根のシンプルな形をしたお屋敷の四階の一室。ここで寝泊りをして決定を待つことになるのか。「それでは失礼いたします」と言って案内してくれた人は出て行った。

 部屋の中は広々としていて、華美ではないものの高そうな材質のカーテンや調度品が置かれている。天井には小さめのシャンデリアがあり、天蓋付ではないものの大きなベッドがあった。ちょっとした高級ホテルのようだ。よく掃除されている。


「誰もいないみたいですけど……」


 隅々までチェックしていたリッカが言った。部屋の中にはいくつか扉があったがいずれもバスルームや洗面所へ続く扉で、侍女の控室と言った部屋は見当たらなかった。ティーセットやお茶菓子も用意されていないことから、誰かが来た形跡もない。


「手違いがあってまだ来ていないのかもね。もう少し待ってみようか」

「はーい」


 暇なのでバルコニーに出てみた。城は何度も増改築を繰り返したのか、様々な形の建物がいろいろな高さの渡り廊下で繋がって、入り組んだ構造になっている。敵の侵入を防ぐためだろうか。それらのどれともつながっていないこの建物は、何のために作られたのかな。客室専用の建物にしては人が少ないし、他の建物と離れすぎている。


 部屋に戻り入ってきた扉をそっと開けてみる。難なく開いたことを少し意外に思ったが、そのまま押して首だけ出して周囲を確認する。

 高い天井と磨かれた床が左右どちらにも長く続いている。窓があるにはあるものの魔石を節約されているのか、日が沈みかけても明かりがつかず薄暗くなっている。もうじき冬だと言うのに温度調整もされていないようで、少し肌寒い。私は慌てて部屋に戻った。


「普通は扉の前に護衛の騎士とかいるものだよね?」

「そうですよねー」


 いると言っていたはずの侍女がいない。護衛の騎士もいない。これで王女扱いされていると思う方がおかしい。明らかに厄介者扱いされている現状は、むしろ私の反骨精神に火をつけた。

 さてと、どうしようかな。一、脱走する。二、大きい声で歌ってみる。三、魔法で花火を打ち上げる。四、ドラゴンになってみる……のは狭いから無理か。五、その辺の誰かを捕まえて事情を聞き出してみる。

 ……取り敢えずは五番が一番無難かな。


「リッカ、周囲に人の気配ってある?」

「んーと、この北側の館は……あ、今、最後の人が出て行きました。私たち以外誰もいません。鍵までかけられました」

「は?こんなに広いのに誰もいないの?って言うか鍵って……」


 慌てて一階の入ってきた大きな扉の前まで走っていく。ドアノブに両手を掛けて押したり引いたりしてみるが、びくともしない。内側から開くための鍵も見つからない。閉じ込められてしまった。父様の指示に依るものでないことを願うばかりだ。

 グーとお腹が鳴った。緊張で朝はろくに食べられなかったし、お昼も食べていない。もうじき夕ご飯の時間だと思うんだけどこの様子ではありつけないかもしれない。


「お腹すいたなー」


 そう言うとリッカが明らかにあせり始めた。きっと遠足の時の私を思い出しているんだろう。おどおどと挙動不審になっているリッカを見て私はぷっと噴出した。


「大丈夫だよ、リッカ。これくらいで腹を立てたりはしないから。厨房の方へ行ってみようか?」

「はーい、何かあるかもしれませんよねー」


 お城の厨房って初めてだな。いやまあ、お城自体がほとんど初めてなんだけれども。一階の隅の方に厨房があった。他とは違った冷たい石の床が室温を一層低くしている。


「暗いね……」

「明かりになりますよー」


 そう言ってリッカは自ら光始める。流石妖精だ。明かりを頼りに食材を探すが何一つ置いていない。水は蛇口から出るが、コンロの火は出ない。……軟禁するにしてもここまでやるか。飢えに依る魔王化を狙う?回りくどいやり方は神殿もそうだったけれど、神殿の手が及ばないと思っていた城の内部でこんな風にされるとは思ってもみなかった。

 諦めて厨房を出て、途中で窓が開くか確認しながら案内された部屋に戻ってくる。一階部分ならそのまま外に出られると思ったからだ。が、開くのは四階のこの部屋のバルコニーに通じる部分のみ。飛び降りることはしたくないので空を飛んでいくしかないのだが……。


「リッカだけで助けを呼ぶにしても、私が翼を出して飛んでいくにしても、明るくなってからの方が良いよね」

「私は大丈夫ですけど、ご主人様を一人にするのは師匠から禁止されていますし……」

「花火でも上げてみるか。エルンストが気付いてくれるかもしれないし」

「そうですね。景気よくパーッといっちゃいましょう」


 最初は控えめに、運動会の朝に上がるような音だけの花火だったが、次第に楽しくなってきて最後には花火大会の目玉になるような大きな花火を打ち上げていた。辺りが色とりどりの光で照らしだされる。


「たーまやー」


 自分で打ち上げながらこの掛け声はおかしいかもしれない。普通は観客が上げるものだ。リッカは意味が分からないらしく、首を傾げている。下には兵士が五、六人ほど集まっていて、扉を開けようとしていた。こちらを見て開けて下さいと叫んでいるようだが、出来るものならそうしている。私は兵士達が上がってくるまで部屋で待っていた。


「ご自分が何をしておられるのか分かっているのかっ」


 部屋の扉が勢いよく開けられ、第一声がこれだった。助けに来たわけじゃなく文句を言いに来たのか。声を発した人物は私が何者か知っているらしく、不法侵入者扱いされることはなかった。


「……大人しくドラゴンに変身していればよかったかしら?侍女もつけられず、食事も出されず、外から鍵までかけられて静かに朝まで待っていろと?」


 屈強な騎士が怯む。こんな子供相手にそんなに怯えなくてもいいのに。……脅すつもりはないのにお腹減っているから自分でも気づかぬうちに乱暴になっているかもしれない。私は城に来てからつけていた王女としての仮面を外し、村に居た頃の言動に戻した。


「おにーさん、お腹が空いたんだけどなんか食べるものあるかな?」

「……兵舎の厨房なら夜間の見張りのための食事を用意していますが……」

「流石に王女に出す食事では……」

「お昼も食べていないんだよ。何でもいいから連れてって?」


 にっこり笑って脅す……じゃなかったお願いすると二人の兵士が私に付いて後は見回りに戻って行った。案内された先は広めの食堂だった。何人かの兵士がこの遅い時間に食事をとっていて、王に謁見した時の服のままの私が入るとひどく浮いていた。「こちらでお待ちください」と椅子を引かれ、別の兵士がトレイに食事を乗せて持ってくる。少し硬くなったパンとまかないの様なごちゃごちゃした料理。お腹が空いていた私にとってはご馳走だ。


「しかし、どうやってあの館に入ったのですか?外から鍵がかけられていたようですが」

「案内されたんだよ。私の身の振り方が決まるまであの部屋で寝泊まりするようにって」

「確かあそこは出るって噂が……」

「馬鹿、止めろ」


 食事をしていた手が止まる。そんな所に案内されたのか、私は。そんなやり取りをしていると酔った私服の兵士が二人、食堂に入ってきた。 


「全く俺も彼女も災難だよな。禁忌の王女付きじゃあ、出世も見込めねえし。とんだ貧乏くじ引かされちまった。」

「でも北の館に王女放り込んで仕事サボってデートしてたんだろう?王女様様じゃねーか」


 酔っ払いってどうしてこんなに声が大きいんだろうね。聞こえなかったふりもできない。飲んでいた木のコップを持つ手に少し力が入る。周りにいた兵士が気遣わしげに私の顔を覗き込んだ。リッカが泣きそうな顔で私を見上げてくる。


「ご主人様ぁ」

「泣かないで、リッカ。お父様の指示や、神殿の嫌がらせでなくて本当に良かった」


 そう言ってにっこり笑って見せる。もとより覚悟の上だ。ここで泣いてしまったらせっかく食事を用意してくれた兵達に迷惑がかかる。口調を元に戻して、王女の仮面をかぶって、俯かずに前を向いて。


「館に戻るわ。親切にしてくださってどうもありがとう」

「お送りします。城の者が不作法で……その……なんてお詫びを言ったらよいのか……」

「気にしないで頂戴。不作法はお互い様です。ふふっ、花火をあげる王女なんて普通どこにもいないでしょう?」


 兵士たちが笑った。辛気臭いのは嫌だ。みんな笑顔でいられるならばそっちの方がよっぽどいい。


 部屋に戻ってクローゼットを開けたが、着替えも準備されていなかった。シャワーを浴びる気力も残っていなかった私は石鹸で顔だけ洗い、タオルを使ってリッカの寝床を作り、服を脱いでスリップとパンツの状態で布団に潜り込む。


「ごめんね、リッカ。巻き込んで……」

「いいえ、今日はお疲れ様でした。お休みなさい」

「うん、お休み……」


 疲れ切った心と体が眠りにつくのに時間はかからなかった。


北の館周辺の警備をする兵士にはアリシアの存在を知らされていた模様。

スリップって言い方が古い気もするんですが……。時代設定をごちゃまぜにしたら細かい描写が出来なくてかえって自分の首を絞めている気がする。こういう場合は……

『読者のご想像にお任せします』

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