出立の日
夏も終わり、秋も深まって、収穫の時期も過ぎたころ。傍らにある荷物は数日分の着替えが入っている。長期になるようだったら王都で買い足していこうと、ばば様と話し合った結果だ。
「ううむ……王都で状況がどのようになるか分からぬからのう。旅行に行くつもりで準備したんじゃが……」
「こんなに見送りに来てもらえるとは思わなかったね」
門の前には村の人全員がそろっているんじゃないかってぐらい大勢の人が来ていた。襲撃で破壊された門周辺の家々は、粗方建て直されている。結界が壊されたので近隣の村の人も応援に来てくれて、村はあっという間に元の姿を取り戻した。勿論私もたくさん手伝った。
―――あれから敵は来ていないことが少し不気味ではあるが、来ない方が良いに決まっている。
「寂しくなるねぇ」
「向こうに行っても元気でな」
村の人の中には大泣きする人もいる。取り敢えず国王に会って、現状維持だと言われたら戻ってくるつもりなのに、そんなことは言えなくなってしまった。元気でねと言って手を握ってくるおばさん。達者でなと言って肩を叩いてくるおじさん。ばば様はからくり亭のおかみさんと話し込んでいる。
人だかりが割れて、テッドを支えながらウィルが来た。師匠とエルンストも後からついてくる。テッドは、ゆっくりならば歩けるまでに回復した。けがの後遺症というよりも私の血によって一気に回復したことによる副作用が影響している。時間がかかるみたいで、まだ激しい運動はできないけれど、日常生活に支障はないようだ。
「二人とも見送りに来てくれたんだ、ありがとう」
「ああ、違うよアリシア。僕は、こっち側」
そう言ってウィルは私の横に立った。意味が分からない。怪訝に思いながらウィルの顔を見上げる。
「春には向こうの学校に入学だし、その前に王都に慣れておこうかと思ってね。師匠が残るから護衛も必要だよね?」
ウィルはそういってにっこり笑った。私もつられてにっこり笑ってありがとうと言っておく。そっか、師匠は残る方を選んだのか。今まで頼りにしていた人がいなくなるのはとても不安だ。
「どうせすぐ会えるんだから、そんな顔するな」
久々に、本当に久々に頭をぽんぽんと叩かれたものだから、なんだか今生の別れみたいで涙がじわりと滲んできた。それを見たウィルが師匠の手をはねのける。
「師匠、アリシア泣かさないでよ。せっかく笑顔になったのに」
「ウィル、泣いているわけじゃないよ。大丈夫だから」
ちょっと過保護なくらいのウィル。同じく過保護な師匠は深ーいため息をついた。心配の二文字が顔に出ている。
「いいか、絶対に一人になるなよ。最悪、皆と離れることになったとしてもリッカとだけは絶対はぐれるな。リッカ、ウィル、アリシアをよろしく頼むぞ」
「任されましたー」
「言われなくても」
くどくどと注意が来るかと思ったのに意外とあっさりしている。でも、私そんなに信用無いのか。誘拐も経験済みだしなあ。
最後はテッド。おぼつかない足取りだけど、それでもしっかりと自分で歩いている。
「アリシア、助けてくれてありがとう。あの時、一人で突っ走らないで時間を稼ぐなりしてちゃんと援護を待っていればよかったんだよな。全部俺が倒さなきゃって焦っていた」
頭をポリポリ掻きつつ、あさっての方を向きながら自分の行動を振りかえっている。反省して前を向くことが出来るのはテッドの長所だ。やがて真っ直ぐこちらを見て話し始めた。
「俺、もっと成長しなくちゃ。約束守るためにも。戻ってくるか分からないなら、時々でいいから手紙を送ってほしい。ちゃんと返事も書くから」
「うん、絶対書く。テッド」
「ん?」
「元気でね」
私は右手を差し出した。テッドは驚いた顔をするがすぐににーっと笑って「アリシアもな」と握手をした。
「ばば様も、お元気で」
「ひょっ、あのいたずらっ子だったテッドがわしの心配するまでに成長したか…わしも年をとるわけじゃのう」
村の人たちがみんな笑った。真っ赤になったテッドを師匠がからかっている。
王都までの馬車はエルンストが手配した。リタさんが乗せてくれた馬車とは違って貴族が乗りそうな御者付の馬車だ。四人で乗り込み窓から顔を出して後ろを見る。
馬車が進み始めると村の人たちが大声で「元気でねー」「さよーならー」と手を振った。私も負けじと森の木々に村のみんなが隠されるまで手を振り続けた。
お城でどんな扱いを受けるか分からない。神殿が私を魔王にしようとしてくるかもしれない。それでも前に進もうと思えるのは今まで私に関わってきた人たちのお蔭だ。
覚悟は、できている。
―――いざ、王都へ!
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