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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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その後

「で?どうやって敵を倒したんだ?」


 襲撃があった翌々日。ただいま師匠とエルンストに取り調べを受けている真っ最中。場所は師匠の家。リッカもいる。昨日は師匠たちもごたごたしていたので、私は捕まらなかった。


「どうしても言わなきゃダメ?」

「どうしてもだ。さあ、吐け。隠すと為にならないぞ」


 本当に取調べみたいだ。私は両手を頬に当てもじもじしながら答えた。敵の遺体も残ってはおらず、物理が効かなさそうな相手に取った行動を師匠たちは知りたかったみたいだ。


「……食べちゃった♡きゃっ」

「えーと、要約しますとねー、呪いを掛けられそうになってーそれを防ぐためにドラゴン化してー周りに被害が出ないように考えた結果、ぱくりと」

「普通にそういえばいいじゃねえか」

「だってちょっと恥ずかしい。お行儀悪いかなって」


 師匠はものすごく疲れた顔をしている。「ぶりっ子すんな、気持ち悪い」と言われた。ひどい。人には言えないことを勇気を振り絞って正直に話したのにこの扱い……。

 エルンストはそんなやり取りもお構いなしだ。……二人とも『食べた』ことに関しては何も言ってこない。魔王になるような忌まわしい行動だと思うんだけど。


「ドラゴンになるのも、元に戻るのも、自分の意志で出来たという事ですか?」

「うん、テッドがあんなだったけど以外と冷静だったし、むしろテッドが頑張ったから私も頑張らないとって。リッカが初代国王が私と同じ年で出来たって言っていたから大丈夫だと思っていたし……」


 リッカもうんうんと頷いている。エルンストがいつものようにはしゃぎだすかと思ったのに、やけに静かに考え事をしている。


「国王に報告した方が良いかもしれませんね」

「あ、えっと、ばば様とも相談したんだけど、私がここにいる限り何度も襲撃を受けるかもしれないから、この村を出ようかって話になっているよ。とりあえずは一度王都に行って国王に会って、今後について相談しようかなって」


 それを聞いて師匠も考え始めた。


「アリシアの預け先だったチハルも謁見することになるだろうな。二人を王都に連れて行くとして、エルンストの屋敷で準備か。村の再建も手伝いたいし、テッドとウィルの教育もあるし……」

「いつごろ出て行く予定ですか」

「秋の収穫が終わった頃を考えているよ。私のせいで村がこんなことになったのに全然手伝いもしないで出て行くことなんて出来ないよ」


 私が答えると二人ともあごに手を当てて似たような姿勢で考え始めた。仲良しさんだなあ。仲間外れが嫌なので私も真似をした。それを見たリッカも慌てて同じポーズをとる。


「取り敢えず時期はそれでいいとして、その後の事はおいおいい考えていくとするか……ってお前ら何やってんだ?」

「師匠とエルンストのまねー」

「まねー」


 リッカが続けて答えた。人が真面目に考えてるときに……と師匠がぼやく。


「ダメだよ師匠、こんな時こそ笑顔だよ。話は終わりだよね?テッドのお見舞い行って来るね」

「……無理すんなよ」






「ウィル、テッドの具合はどう?」

「まだ目を覚まさないよ」


 村長は資材の調達で商人たちと出かけているらしい。優秀な使用人たちも出払っていて、今この屋敷ににいるのはウィルとテッドの家族だけだ。客用の寝室にテッドは寝かされていた。


「テッド、アリシアがお見舞いに来てくれたよ」


 ウィルが呼びかけるが、テッドからの答えは無い。私はベッドの横の椅子に座ってテッドの手を握ってみた。ピクリと反応があったのでこん睡状態ではないみたいだ。……温かい。リッカがテッドの頬をぺちぺち叩いている。


「テッド、アリシアだよ。リッカもいるよ。……テッド、がんばったね。襲撃の時、早く行ってあげられなくてごめんね?」


 寝ているテッドの前では笑顔でいるつもりだったのに、まばたきをした瞬間に涙がポロリと、握っているテッドの手の上に落ちた。


「私がこの村に来なければ良かったのかな?」


 村長にも言われた言葉。ばば様から離れて、もっともっと人里離れた山の洞窟なんかで一人で生きていくことだってできたはずだ。

 私がぽそりと呟くとウィルが激高した。


「そんなこと言うなよ!それを言うならテッドはこんなに頑張ったのに、何もできなかった僕の方がいなければ良かった。結局、あの敵を倒したのもテッドを救ったのもアリシアじゃないか!僕は…何も…」

「ウィルがいなかったら誰がテッドの治療をしたの?私の血じゃ死人を蘇らせることは出来ないよ!あの時ウィルが治癒魔法をかけ続けなかったら、絶対間に合わなかった!」


 売り言葉に買い言葉で二人ともため込んでいたものが一気に噴き出したみたい。こんなふうにケンカしに来たんじゃないのに。テッドに笑顔でお見舞いするつもりで来たのに。

 本当に珍しいことで、リッカはびっくりして二人のやり取りを見ている。

 ―――テッドと一緒に。


「……テッド?起きたの」


 顔を少しだけ傾けてこちらを見ている。ウィルが近づくと、テッドの目がゆっくりとまばたきを始めた。懸命に口を動かしている。


「け……んか……す……る……な」


 ほとんど声になっていなかったけれど、テッドの言葉は私たちに届いた。慌てて二人で駆け寄って手を握るとテッドは弱々しいながらも笑顔をくれた。


「良かった……テッド、テッドぉ」

「わ、私アレンさんたち呼んできますー」

「テッド、おはよう。……起きるの遅いよ。残った敵はアリシアが倒したよ」


 テッドの家族が部屋に入ってきて次々に話しかけている。私は邪魔をしないようにそっと外に出てウィルに帰ることを告げ、家を後にした。

 帰りがけに師匠の家によって、テッドの目が覚めたことを報告する。


「エルンスト、後でテッドの家に行って様子を見てあげて」

「わかりました。……貴女は大丈夫ですか?」

「ここの所まともに眠れてなかったからね。これでようやく……」


 あれ、変だな?頭を動かしていないのに視界がグルグル回る気がするよ。気を失うことこそしなかったが、そのままバランスを崩して座り込んでしまった。


「おいっ、大丈夫か?」

「師匠、なんか気持ち悪い」

「寝不足でしょう。ここで少し休んでいきますか?」

「家、帰る」


 そう言って立ち上がろうとするが、体に力が入らない。師匠に有無を言わさず抱えられてベッドに降ろされた。清潔にしているようで、臭いは全くしない。


「俺とエルンストは外に出てくるからリッカは傍にいてやれ」

「はーい了解でーす」


 扉が閉まる音を聞くころには既に目蓋が閉じていた。



ハートマークが不快な方、ごめんなさい。

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