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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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十歳

「もう十年も経ったのか……月日が経つのは早いのう。光陰矢のごとし、じゃ」


 テーブルの上には三人分のケーキと紅茶が用意されている。今日のケーキはちょっぴり大人のビターなチョコレートケーキ。

 リッカも同じ大きさのケーキを食べている。最初はフォークを使って行儀よく食べようと頑張っていたが、諦めて手づかみで食べ始めた。顔の周りをチョコレートでべったべたにしながらとっても満足そうだ。


「ご主人様は十歳になったのですかー前のご主人様は十歳でドラゴン化できましたよー」

「そうなんだ…最近の王族はめったにドラゴン化しないって聞いたような気がするけれど」

「やっぱり環境ではないですかー?絶滅するくらいの危機になればそうせざるを得ませんからー」


 リッカが怖いことを言う……と思ったけれど今の私の状況もそう変わらないかもしれない。

 混血が進んでいるこの世界では絶滅することもなさそうだ。降嫁した先で潜在的に能力が残っていきなり先祖返りとかありうるのだろうか。血が薄まっている状態では大丈夫そうだが。


「ばば様は私がドラゴンになったところ見てみたい?

「ロベルトに禁止されているのじゃろう?……見てみたい気もするが、それはアリシアが危険にさらされている状況だという事ならば、わしは見とうない」


 ばば様は優しい。私なら後先考えずにちょっとだけ見たいとか言いそうだ。

 

「うん、えへへ、ばば様ここまで育ててくれてありがとう。これからもよろしくね」


 自分の部屋の明かりをつけずにベッドに横になった。窓からは青白い月明かりが差し込んでいる。私はため息とともに心にためているものを吐き出した。


「私、ばば様に恩返ししなくちゃ」

「ご主人様が元気でいることが一番の恩返しだと思いますけど」


 独り言で言ったつもりだけどリッカは律儀に返してくれる。リッカの言っていることも分かるけれど……。

何か無いかとベッドの上でごろごろしたら、はっとひらめいた。


「初代国王に会ったみたいに、じじ様とばば様を会わせることってできないかな?」

「十一年間のばば様の気持ちの移り変わりを踏みにじることになりますねー」

「え?」

「人は悲しいことがあったとしても何かしら折り合いをつけて生きることが出来るものです。逃げるんじゃなくて、乗り越えるんですよ。そしてそれは他人が口を出してどうにかしていいものではないと思うんです。例えご主人様が前のご主人様に会わせてくれると言っても、私は遠慮します。夢枕とかならいいんですけど」


 月明かりに晒されながら窓辺に座って話す妖精の姿は、まるで一枚の絵のようだ。リッカの表情が少しだけ大人びて見える。


「大人だなあ、リッカは。私は前世の分も数えれば三十年は生きているのにそこまで考えが至らなかったよ」

「前世で、身近に無くなった方はいらっしゃらなかったのですか?」

「どうだろ?思い出せないんだよ。死に関することは。」


 私は自分の両手を天井に向けて見た。月明かりに晒された青白い手は、小さくて心もとない。


「この後、それが私にどんな影響を私に及ぼすのか、考えると少し怖いんだよね」


 もしも今、自分の身近な人が死んだら、私はそれに耐えきることが出来るだろうか。死を乗り越えることが出来なくて魔王になってしまうのではないか。

 不安で表情を暗くしていたのか、リッカがいきなり私の顔を目がけて上から降ってきた。


「ぶっ、ちょっと、何すんのリッカ」

「せっかくのお誕生日なのになんで暗いこと考えてんですかーもっと明るくー成るようにしか成らないですってー」


 リッカはくるくると回って、考えるようなポーズを取った。


「そーですねー女の子が育ててくれる人に出来る恩返しと言えばー結婚式で幸せそうなところを見せることですー」

「それは人それぞれじゃ」

「問答無用ー!ばば様~聞いて下さーい」

「ぎゃーちょっと待ってリッカ。やめてー」


 階下へ飛んでいったリッカを追いかけて、危うく階段を転げ落ちそうになった。


「そうじゃのう、アリシアの為にウェディングケーキが作れたら嬉しいのう」

「ば、ばば様まで……」

「まあ、さすがにあと何年かは待たないとならぬが……いっそ、婚約でもするか?」

「キャー素敵です~婚約パーティーですかー」


 ばば様とリッカの暴走は止まらない。こうして誕生日の夜は賑やかに更けていった。


「よーアリシア、おはよう。何だ眠そうだな」

「おはようテッド。うん、ちょっといろいろあってね……」


 リッカはまだ寝ていたのでおいてきた。昨夜あれだけはしゃいでいたから当分起きないだろう。テッドと一緒に道場へ向かうとウィルと師匠が来ていた。

 考えてみたら私女の子一人で稽古や授業に出てたんだよね……今更ながらよく平気だったな。


「あれ、エルンストは?」

「王都で捕まっているらしい。夏の終わりまでこれないそうだ」

「……僕の魔法の授業大丈夫なんでしょうか」


 ウィルがぼやいている。確かにあと半年で卒業するのに影響はないのだろうか。


「あのなあ、ウィル。エルンストが教えている魔法は高等学校で教えていることを飛び越えて実戦でまともに使えるレベルだ。光属性に関しても解毒や解呪なんかまであいつは教えているだろう?」


 私は光と闇の属性が扱えないし、大規模な魔法は扱えないのでほとんど初級者どまりだ。ウィルが羨ましい。テッドはもっと羨ましいだろうと思ってみるが、平然とした顔をしている。あれ?成長してないの私だけ?



「よし、今日はここまで。何か質問はあるか?」

「はいっ、師匠。エルンストがいないから師匠に聞くけど空を飛ぶ魔法ってないの?」

「あるにはある。が使える奴はほとんどいない。俺も使えないし、エルンストが使えるらしいが使っているのを見たことが無い。……どうしてそんなことを聞く?」

「翼を出さずに空を飛べるならと思って……いひゃいいひゃい」

「目立つことはするなって言ってるだろ。なんでお前は成長しないんだ」


 師匠に頬を引っ張られた。テッドとウィルも笑っている。


「私、成長してもいいのかな?」

「は?」

「……ううん、なんでもない」

 

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