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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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博物館

「おはよーアリシアちゃん。テッド君にウィル君も。ロベルトさん、出がけに申し訳ないけれどお手紙来ています」


 今回の遠足もリタさんにお世話になる。夏の終わりには行商人を引退してお嫁に行ってしまうから、リタさんの馬車に乗せてもらうの確実に今回が最後だ。

 手紙を受け取った師匠は馬車に揺られながら読んで、浮かない顔でそのまましまいこんだ。また、同じ女の人からだろうか。それとも……神殿からだろうか。詮索したところで答えが返ってくる気がしない。

 リッカはリタさんとお話ししている。馬車の中、ウィルとテッドはいつも通りにおしゃべりして師匠とエルンストはガイドブックを覗き込んでいる。 馬車に揺られて一時間ほどの、原種の森の際にあるリゾート地のような街で、大小さまざまな美術館や博物館などが点在しているらしい。リゾート地にある博物館と聞いて事前にリタさんから購入した履きなれないスカートでお洒落をしているのに、誰も何も言わない。自意識過剰なんじゃないかと恥ずかしくなった。


 王都から直通の飛空船の発着場があるらしい。前に遠足で乗った遊覧飛空船よりもかなり割高で、施設や船体は最新鋭の物だそうだ。きっと金持ちや貴族が乗るんだろう。石畳の道が続く街並みもどこか高級感を漂わせている。

博物館の前は馬車が混むので手前で下された。帰りは町の入り口で待ち合わせ。開館時刻に合わせて村を出たが、既に混んでいた。制服を着た十代後半くらいの子たちであふれかえっている。


「あーこりゃ王都の学生とかち合ったかな。アリシア、気をつけろ」

「すみません、事前に調べておかなくて…迷子にならないように気を付けてくださいね」


 エルンストが言った途端、ウィルが私の左手を、テッドが右手を取った。私も成長しているとは思うが、学年が上の二人のほうが背が高いので連行される宇宙人みたいになった。リッカは私の首元に張り付いている。


「アリシアが一番迷子になりそうだもんな」

「おめかしして浮ついた気分だもんね、ふらふらどこか行きそうだよ」


 うう、そんなに信用無いのか。リッカの分まで入場料を取られながら入口を通過した。学生たちはまだ入ってこないらしい。エントランス部分で説明を受けている。


「まだ皆入ってこないみたいだし、ゆっくり見たいから手、放してもいい?」

「私が張り付いてますから大丈夫ですよー」


 二人は私が言っても放さなかったのにリッカの言う事は聞いた。師匠とエルンストは後からついてきている。


 始めに創世の木が描かれた一枚があった。エントランスからも見えるほどの、壁一面を使って展示されている巨大な絵。手前には街並みと水平線があって奥に遠近法を無視したような巨大な木が描かれている。木は背景の空に溶け込むような青で表現されて神秘的な感じがした。表現は悪いが前世の映像や写真で見た原爆のきのこ雲を思いだした。


「この木、飛空船から見た時よりだいぶ大きいよね。あの時は海の上から見たのにかなり小さかったと思うんだけど……」

「うん、確かに。宗教的な意味合いを込めて誇張されてるだけじゃないのかな」

「それにしてもでかいな。これ、手前に懸かれているの城だろ?王都から見た風景ってことなのかな」


 テッドが指をさしているところには他の建物よりも少しだけ高い城があった。師匠とエルンストはそれに答えることなく見ている。考えるのも勉強のうちって事だろうか。


 リッカがふらーっと次の展示物へ吸い寄せられるように飛んでいき、一枚の絵の前から動かなくなった。初代国王の肖像画だ。夏の夜に見た夢はこの人だったと確信する。意志の強そうな金色の瞳、長い金髪、実際に動く本人を見た私にとっては少し硬い表情のようにも感じられた。

 周囲には愛用していた剣や、使用していた机や、私が持っているペンダントのレプリカが展示されている。


「大丈夫?リッカ」

「私の知らないところでご立派になられて……できればその様子を間近で拝見したかったのですが……国王になるような人にお仕え出来たこと、リッカは誇りに思います」


 声を震わせるリッカに、私までもらい泣きしてしまった。二人で顔を合わせて笑い泣きをする。


「さあ、次へ行きましょーか、ご主人様」


 私にとって一番身近な転移者のばば様はじじ様と一緒だったからそんな事今まで思わなかったけれど、リッカみたいな別れを経験する人だって大勢いたんだろう。元の世界に帰れる方法が見つからなくて、絶望して、それでもこの世界で生きていこうと決めた人たちとその子孫で成り立っている歪な世界。他の世界で生きていた人たちを強制的に引き離してしまう創世の木を、私は神のように崇めることなんて出来ない。

 自分の中に、魔王の片鱗を見た気がした。過去の魔王たちはこんなやるせない気持ちに押しつぶされてしまったのだろうか。それでも、今の私は世界を滅ぼそうなんて気は全く起きないのだけれど。


 不作による内乱、帝国との対戦、 歴史の節目に使われていた品々や絵画などを順路通りに見ていった。

 最後のコーナーは技術の革新に関する事柄だった。魔石技術の改革によって現代化が進み生活がより豊かになったと説明が書かれている。


「じじ様の名前と肖像画が載ってる!」

「おー、本当だセイイチロウだ……ちょっと美化されていないか?」


 師匠はじじ様の若いころの肖像画にケチをつけた。ばば様に見せてもらった写真通りに見えるけれど、実際に動く本人を見た人とは印象が違うのかな。


「これがじじ様か……初めて見た」

「確かに師匠負けているね」

「あれ、テッドとウィルに写真見せたことなかったっけ?」


 二人とも首を振った。私や両親から話を聞いてはいたものの、写真を見たことが無かったし、ウィルがじじ様に会ったとしてもまだ赤ちゃんの頃だから、実際に自分の村に住んでいた人間とは思えなかったそうだ。


「ばば様もつれてくれば良かった。」

「そうですねーでも私みたいにばば様も泣いてしまうのではないですかー?」

「うーん、その後も落ち込んでいそうだね」


 最後のじじ様のコーナーを後にして、博物館を出た。日は真上から少し傾いていて、私はとてもお腹が空いている。私はとてもお腹が空いている。大事な事なので二回言いました。


「よっし、じゃあ飯食いに行くか。ちゃんとついてこいよ」

「はーい」


 師匠の割とどこにいても目立つ銀髪を、視界の端に入れながら歩いた。


遠足第二話です。

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