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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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私が魔王になる前に

 村へ行った次の日は、雨が窓を叩く音で目が覚めた。森を歩くこともできないこんな日は、家でじっとしているに限る。起き上がりはしたけれど、体が怠い。朝ごはんを食べに来ない私を心配して、ばば様が寝室を覗きに来た。


「大丈夫かい?」

「うん。少し怠いみたい。今日は一日中横になってるね」


 半分ほど開けた扉から顔を出したばば様。何か言いたそうにしていたから「どうしたの?」とこちらから聞くと、


「すまんかったのお。生まれた時から言葉がわかるとは知らんかったから、先祖のことは言わんでおこうと思って―――」

「大丈夫。大丈夫だよ、ばば様。黙っていてくれて有難う。知っていたらとっくに絶望していたかもしれないもの」

「アリシア……」


 部屋に入ってきて私を抱きしめた。あったかくてじんわり涙がにじむ。ばば様も目が赤いから、きっと眠れなかったんだろう。


「……少し考え事をしたいの。しばらく一人にしてくれる?」


 ばば様は頷いて部屋を出て行った。


 これからの事を考えるために情報を整理してみよう。頭の中で情報の断片を羅列してみる。

 ベッドに仰向けになって天井を見る。天井。じじ様と村の人たちで作った家。二階建て。そんなに広くない。外観はログハウスで、中身は現代日本風。カーテンや雑貨はば様の趣味。私の寝室は二階。ばば様が困らないように丈夫な作りをしている。

 ―――じじ様の愛にあふれているね。

 薬を作って売ったり、お菓子を作ってお店においてもらっている。そうして得たわずかなお金で森の中で手に入らないものを買っている。

 ばば様の孫でない事は、確か五歳の誕生日に教えてくれた。些細なことからそんな話の流れになった。元々知っていた私は驚かなかった。ばば様は話すの迷っただろうけど。

 創世の木。異世界からいろいろな物を召喚する。生き物は子孫を作ってきたけど、進化があるかはわからい。

 ―――前世でも思ったけど創世の神話って誰が言い始めるんだろう?その場に立ち会わないとわからないよね?神様から聞いたとしてもその神様が生まれた瞬間はなぜ本人が知っているの?

 脱線した。思考を切り替える。


 横になったままくるりと向きを変える。前世。日本生まれ日本育ち。外国に行ったことはない。趣味はファンタジー小説を読むこと。乙女ゲームよりRPGが好き。インドア派。XX年生まれ。家族は父、母、弟、XX。学生の時にXXXがあって、引っ越しをしてそこで就職。死因は不明。享年XX歳。多分二十代。

 ―――やっぱり所々記憶が抜けている。


 向きを変えて反対側に体を向ける。魔王。大概は異世界から来たものがなる。世界を滅ぼそうとするもの。種族は問わず。最初から魔王であったものもいる。私の場合は記憶が異世界。

 ―――ふと思考を止めた。あれ、私の記憶がある意味って何だ?


 昨日出した結論は、記憶が異世界のものだから魔王になる可能性があるということ。

 でも記憶が無くなったら魔王にならなくてすむとは、到底思えない。


 記憶が有るか無いかの違いはあるものの、転生ってのは誰でもするものだ。

 大抵の記憶持ちはその世界に何らかの影響をもたらす。ここは転移者の功績で様々な技術の水準が高い世界だ。私のなけなしの知識なんか全く必要無いだろう。


 世界にとって関係なくても私にとって必要かどうかはわからない。でも失ってしまったら元には戻らないだろう。

 結局、考えても答えは見つけられなかった。お腹が空いたので下に降りると、丁度ロベルトが来た。雨は止んでいない。


「あ~その、なんだ。昨日の話の件なんだが……」と話を切り出した。

「参考になるかわからないが、俺がエルフからダークエルフになった時の話をしようと思って来たんだが。 具合悪そうだな」


 私の顔を覗き込んで、また今度にする、と言った。

 

「アリシア、毎日じゃなくてもいいから道場に来い。体を動かせば悪い考えも吹き飛ぶからな。強くなるの が嫌にしても、背負い投げする魔王とか想像出来ないだろう」


 確かに。自然と笑みがこぼれてくる。


「はい。よろしくお願いします。師匠」


 ばば様は静かに微笑んでいた。



 ―――父様と母様は、国を滅ぼすかもしれない私を殺さずにいてくれた。

   ばば様は、いつ魔王になるかもしれない私を育ててくれた。

   師匠は、私を心配してくれた。会ったばかりなのに。雨が降っているのに。

   静かな夜、私は一つの決心をした。



 雨が上がった次の日、早速道場に行った。


「おー。アリシア、来たか。道着が準備できてないから今日は見学な」


「その前に、師匠、お願いがあります」


 息を整え、私は畳の上に正座して、膝の前に両手を着いた。いわゆる土下座の恰好をする。


「会ったばかりの人にこんな事頼むのはどうかって思うんですが」


 顔を上げて、はっきりとした声で。


「師匠は魔王討伐に参加するくらい強いから。ばば様には絶対に頼めないから」


 この世界は優しいから。傷つけたくないから。


「魔王にならないための努力はできる限りします。でもどうしても駄目だったらそのときは」


 これは絶望じゃない。一つの希望。


「私が魔王になる前に殺してください」

やっとスタート地点に立てた感じです。

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