契約
しまっていた綺麗なハンカチを縫い合わせ綿を詰めてリッカの布団を作った。……正確には作ろうとしたら訳の分からないものが出来上がったのでばば様に作ってもらった。おかしいな、女子力ないのかな、私。料理は普通に作れていると思うんだけどな。
その布団で寝ているリッカ。寝相が悪いのか掛布団を剥いでいて寒そうだ。掛けなおす時、服の材質はなんだろうと気になったのでスカートの端を触ってみる。はっと目を覚ましたリッカは、そのまま胡乱な目で私を見た。
「ご主人様……まさか私の下着を覗こうとして……?」
「ちっ違うよリッカ。服の素材が見たかっただけだし、着替えとか用意しなくていいのかなって。」
「良かった―ご主人様は女の人なのにそういうご趣味の持ち主かと思いましたーちなみに前のご主人様は見ようとしてましたーさいてーですよねー」
うわー何やってたのご先祖様―――子孫に赤っ恥かかせないでよと叫びたくなった。
「さわってもいい?」
「どうぞ―でも着替えは用意しなくていいですよー無理しないでくださーい」
布団製作の一部始終をリッカには見られている。気を使わせてしまったみたいで私は落ち込んだ。
「あ、えっとーご主人様が不器用すぎるとかそういうのでは無くてですねー私は情報の妖精なので着替えが必要ないのですよーちょっと待っててくださいねー」
リッカがクルリと回ると服が緑色から黄色に変化していた。服の形も少し変わっていて決めポーズまでつけている。
「え、何これすごいっ!魔法で変身?」
「普通の物質とは違うんですよー花の妖精が草花の服を纏っていたりしますよねーわたしは情報をまとっているのですよー」
なるほどーそうなんですかー。……やばい、気を抜くとリッカの口調が移りそうだ。
「今日はお休みの日だからね。村の中を一緒に歩こうか」
「はーい是非ともお供させて下さーい」
「ばば様、お昼は村で食べてくるよ」
「わかった。気を付けるんじゃぞ」
冬ももうじき終わりそうだが、雪はやむことなく降り続いている。知らない人が虫と間違えて捕まえてしまわない様に、村の中を歩き回って会った人たちにリッカの紹介をしていった。みんな笑顔で話しかけてくれる。
「この村には悪い人がいなさそうですねーご主人様への信頼も感じられますよーたくさん努力されたのですねー」
「そういうのまでわかるんだ?」
リッカはこくんと頷いた。自分のためにしていた『一日一善』が信頼に繋がっていたのは素直にうれしい……のと偽善ではないかとの葛藤もあって、少しだけ複雑だ。深く考えると泥沼にはまりそうなので楽観的に考えることにする。
真っ白な雪で覆われた田んぼを歩いている。周りに人はいないのを見計らって私は話を切り出した。明るいリッカにこんな話はしたくなかったけれど、大事な話だ。
「リッカ、私はね、魔王になって皆を傷つけるくらいなら死んでしまいたいと願っているんだよ。師匠にもそういうお願いをした。でも、それまではならないための努力を続けなければならない。そういう約束だから」
リッカは神妙そうな顔をして聞いている。
「ならないための努力をしてきて、大切なものが増えて、壊されたら魔王になってしまうかもしれないものまで増えた。村の外には悪い人たちもいて、私を殺そうとする人までいる。リッカには前のご主人様よりも辛い別れをさせてしまうかもしれないよ?」
いつもは騒がしいリッカが何も言えずに寂しそうな顔をしている。
落ち込ませてしまったかな?でも、私と一緒にいるならば覚悟は決めてもらわないといけない。
「良く考えずに契約してしまってごめん。もしもリッカが嫌だったら契約解除してもいいよ。解除ってできる?」
「これだけ周りに紹介しておいて解除ってひどくないですか?」
「たとえ解除することになっても、リッカがこの世界に慣れるまでは私が面倒を見るつもりだからね」
考え込みながら、契約の事について話すリッカ。いつもの語尾を伸ばす口調ではなくてとてもまじめに話している。
「単なる情報の上でのことなので上書きされるか消去すればできますが」
「……契約の事だよね?リッカが消えるわけじゃないよね?」
「当たり前じゃないですか―何怖いこと言っているんですかー」
プンプン怒りながら飛び回るリッカを見て苦笑しながらなんとかなだめようとする。
「お腹すいたね、リッカ。ご飯食べに行こうか」
昼食をとるためにくりから亭に入ると、いつの間にかばば様が来ていた。テッドとウィルとエルンストと師匠までいる。店の中は暖かくて賑やかだった。
「ばば様、皆も来てたんだ」
「アリシアこっちじゃ。」
「おーう、アリシアー、元気かー?」
「ロベルト、さっきから飲み過ぎですよ。」
「まったくだぞ、しかも弟子のいる前で昼間っから…ウィル、大丈夫か?」
「酒臭い……のんべえ師匠、今なら倒せるかな…」
それから私は皆の輪の中に入って、ご飯を食べて、たくさんおしゃべりをして、いっぱい笑った。今まで生きてきた中で一番笑ったかもしれない。
「暖かいですね、ご主人様。覚悟を決めました。私も精いっぱいご助力させていただきます。」
「うん、ありがとう。これからもよろしくね」
この時期になると降ってくる白い花の説明をばば様とリッカにした。みんなで見上げた空は雪雲で覆われている。
「よっと、はいチハル。セイイチロウじゃなくてごめんな?」
みんなよりも背の高い師匠が手を伸ばして落ちてきた花を採った。そのままばば様へと渡す。ばば様は「相変わらず、キザじゃのう」と言ってその花を笑顔で受け取った。
「キャー素敵ですわ―女性が年をとってもちゃんとレディーとして扱えるのはかなり器が広いですわーテッドもウィルもあのような所は見習った方が良いですよー」
テッドもウィルも真剣に頷いている。
「リッカ、茶化すな。照れるだろうが」
「皆の見ている前でやる方が悪いと思いますけど」
と、エルンストが言ったけど、二人きりの時にやったらもっとキザに見えるんだろうな。ばば様は手の中の白い花を見ていたが、しばらくして顔を上げる。
「そろそろ帰るとするか、アリシア行くぞ」
「うん、じゃあね、みんな」
「おう、また明日な」
契約内容はしっかりと確認しましょう。




