冬が来る前に
「あ、やっぱりこっちにいた。ロベルトさーんお手紙でーす」
授業の最中にリタさんが手紙を持ってきた。秋祭りの出来事が脳裏にちらつくけれど二人が何事もなかったかのように接しているので私からは何も言わないでいる。本当は少し気になるのだけど。
差出人を見て師匠が思いっきり顔をしかめている。
「師匠に手紙なんて珍しいね。誰から?」
「お前に教える義理は無いな」
あれ、なんだかいつになく不機嫌だ。本当に誰からだろ?エルンストがキラーンと光るメガネをくいっと上げる。
「きっと昔の女からですよ」
「馬鹿、エルンストお前何言って」
「うわー焦ってる焦ってる。ねぇアリシア、あやしいよね」
ウィルが師匠にも聞こえるようにはっきりとした声で私に耳打ちをする。
「ほんとにそうなの?師匠の不潔!女たらし!すけこまし!」
「すけこましって何だ?」
テッドは初めて聞いた言葉のようで、私に聞いてきた。「えっとね、すけこましって言うのは…」とテッドに教えようとすると、師匠から制止が入った。
「おいアリシア、テッドに変な言葉教えるな」
「えー別にいいじゃないですかー」
「悪い言葉を幼気な子供に教えたりして、魔王になっても知らんぞ」
さーっっと血の気が引いた。悪い言葉を教えることまで魔王化の条件に入っているのかどうかわからないけれど、決して褒められた行為ではないことは確かだ。
「ぎゃー、テッドお願いだから今の忘れてっ」
「なあウィル、すけこましって何だ?」
「師匠みたいな人の事だよ」
「ウィル!お前はなんてことを言うんだ」
みんなでギャーギャー騒ぎ始めたので授業は中断してしまった。リタさんは立ち去ることをせず道場のヘリに座った。
「ここは賑やかでいいわねー」
リタさんは微笑みながらみんなの様子を見ている。微笑みながらもどかか寂しげだ。気になって声を掛けてみた 。
「リタさん、元気ないですね?」
「んー、お嫁に行くことが決まってね。親の決めた結婚なんだけど」
「…その顔だと、おめでとうございますとはとても言えませんね。相手が嫌な人なんですか?」
リタさんは首を振った。でもその後に言葉をつづけることをせずに、師匠の方を見ている。
「商売の調整とかあるから夏ごろまではここに来る予定なのよ」
「寂しくなりますね」
「うん。皆みたいに元気な子供が産めると良いなー。アリシアちゃんみたいにかわいい子が良いなー」
いつもの笑顔が張り付いている。心の中を全て打ち明けることをしないのは私が子供だから?ひた隠しにして折り合いをつけて覚悟を決めて。私もそうやって大人になって……前世で大人になっていった筈なのに。
聞いたところで子供である私が何もできないのも知っているのに、何かをしてあげたくて、気が付いたらリタさんに抱きついていた。
「リタさんは絶対に幸せにならなくちゃダメ。もし不幸になったら私がその原因をぶっ飛ばしに行ってしまうかもしれません」
―――魔王になってしまうかもしれないけれど。リタさんは、あはははと大きな声を上げて笑った。その声に陰りは、既に無い。
「そうね、アリシアちゃんに旦那様がぶっ飛ばされないように絶対に幸せになってやるわ」
リタさんがぎゅーっと私を抱きしめ返す。見た目より結構胸があるからちょっと苦しい。騒いでいたテッドたちはいつの間にかこっちを見ている。
「お前ら何やってんだ?」
「女の友情を確かめ合っているのよー」
「わけわからん。アリシア、授業始めるぞ」
師匠に言われてリタさんは私を解放した。「じゃあね」と言って笑いながら帰って行った。
広場では時折つむじ風が足元の枯葉を舞い上げていく季節になった。秋祭りの時のあれはきっと失恋だったんだろう。リタさんは別の人と結婚する道を選び、応援すると決めながらも何もできなかった私はため息をつくことしかできなかった。
「恋愛って難しいな……」
村の人にお使いを頼まれて、今、師匠の家にいてとてもおいしいホットココアを頂いている。考え事をしながら飲んでいたらポロリと言葉が口から出た。エルンストはベッドの方でお昼寝中。
「何だ、一丁前に恋の悩みか?」
「は?何言ってんの、違うよ」
「ほれ、誰にも言わないからお父さんに教えてみろ」
師匠がにやにやしながら聞いてきた。からかう気がたっぷりのその表情にイラッと来た。何がお父さんだ。恋愛相談なら師匠じゃなくて両想いになって結ばれたばば様に聞いている。
「お父さんだったらまだ早いとか、許さん相手の男は誰だって言うものだよ」
「んー前世もちだから精神年齢は早すぎることはないだろうし、相手はテッドかウィルだろう?……まさかエルンストか?だったらお父さんは許さないぞ」
前世もちの精神年齢ならショタコンじゃない限り師匠やエルンストを選ぶと思うけど。それにしても……まだ引っ張るか、お父さんネタ。だったら……
「私、大きくなったらお父さんと結婚するんだー」
師匠の動きがピタッと止まる。表情から探ろうと思ったが、照れているわけでも、からかったのを怒っているわけでも、笑っているわけでもない顔に私は段々と焦り始めた。どんな反応が返ってくるのか待っているが無反応状態が続き、私の方が根負けする。
「あの……師匠?冗談だからね?」
「エルンストっどけっ俺が寝るっ」
あららら、すねちゃった。と思ったら蒲団の中で肩を震わせて笑っているようだった。寝起きのエルンストは床に座り込んで何が何だかわからないと言う顔だ。
「えーと、メガネメガネ……ああアリシアいらっしゃい」
「おはようエルンスト」
普通に挨拶しただけなのに、なんだかもじもじし始めた。
「い、いいものですね。寝て起きたらおはようって言わるのは……ふが」
師匠が後ろから布団をかぶせて黙らせた。
「アリシア、そろそろ帰れ」
「はーい。ココア、ご馳走様でした」
「え、ちょっとっロベルト!せっかく買ってきた王室御用達の高級品が」
「アリシアなんだからいいじゃねえか」
王室御用達なんだ。弟たちも飲んでいるのかな?私はそんなことを考えながら師匠の家を後にした。
お父さんと結婚てそれどんなプリンセスメーカー……ってそういえばアリシアは王女だった。
すみません。ゲームの話です。




