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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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秋祭りと…

三話一挙更新にチャレンジ。その三。

 今年の秋祭りは、ばば様がコンテストに出場するため、お小遣い稼ぎは無しになった。特に買いたいものもないためエルンストも必要なくなった。私が呪いに懸かるのを期待している神殿のみなさん、お疲れ様です。

 祭りのお手伝いの方に回ることになった。と言っても連絡や呼び出しなどの頼みを聞くだけだけど。


「アリシアちゃんロベルト呼んで来てくれるか?もうすぐコンテストが始まるぞって」

「はーい」


お祭りの雰囲気で浮かれている私は、師匠を驚かそうとして忍び足で雑貨屋の階段を上がる。扉を開けようとしたら師匠とリタさんの声が聞こえてきた。リタさんが師匠の家にいるなんて珍しいな。


「リタ、王都でならいくらでも相手してやるがここでそういったことは出来ない」


 何をしているんだろう?なんだか少し剣呑な雰囲気だ。


「それってチハルさんがいるからですか?」

「むしろアリシアがいるからだ。娘みたいに思っているからな。この村でお前がそういうことをするなら俺は出ていく。……せっかく努力して手に入れた安らげる場所なのに邪魔をするな」


 師匠がそんなふうに思っていてくれるのがちょっとだけうれしい。魔王の事とかドラゴンの事とか厄介者と思われても仕方がないことなのに。村の人に受け入れられるように努力をしていたというのは、ばば様から聞いた事はある。でもリタさんは?安らげる場所のうちに入らないってことだよね。


「わかりました。商売の方は今まで通りでいいですよね?」

「ああ」

「……お邪魔しました」


 まずい、こっち来ると思って後ろへ下がったら、大きな音を立てて階段を転がり落ちてしまった。


「いたたたた……」

「アリシアちゃん!大丈夫?」

「うう、階段登り切ったと思ったらくらっと来て……」

「立ちくらみみたいなものかしらねー」


 平然とした態度をとっているがリタさんの目の端には涙が浮かんでいる。階段の上には師匠がいてこわばった顔をしてこちらを見下ろしている。少し間をおいてからこちらに駆け寄ってきた。……リタさんが何か頼みごとをして断られたのかな?


「アリシア、けがはないか」


 私はゆっくりと立ち上がって確認するがぶつけた時の痛みがあるだけでけがは無かった。


「大丈夫みたいだな」

「うん、あ、そうだ師匠。料理コンテスト始まるからそろそろ呼んで来てくれって言われたよ」

「もうそんな時間か。じゃあな、リタ。アリシア行くぞ」


 師匠はリタさんの方を見ることなく私の手を引っ張っていった。





「調理の制限時間は二時間!では、はじめ!」


 参加者は、ばば様と師匠と村のおばさん二人だ。勿論ばば様を応援する。テッドとウィルとエルンストと一緒に観覧席の方に座った。

 お題は今季村の中で取れた農作物を使った料理でお菓子でもいいらしい。審査員には村長やエルンストもいた。珍しいな、村長がこんなイベントに出てくるなんて。作っている間にも司会が実況をしていてとても賑やかだ。

 会場は収穫の終わった畑。魔石って本当に便利だね。水道やガスを引くこともしなくていいんだもの。考えてみれば去年の調理もそうだった。あの時は細かいところまで見ている余裕がなかったな。


「ばば様はリンゴのパウンドケーキ作ってるみたい。」

「いいな、俺も審査委員やりたかった」

「エルンストは…ばば様に票を入れそうだよね。父さんは結構食通だから厳しく審査すると思うよ」


作っている本人たちには悪いけど見ているだけなのははっきり言って暇だ。時折「ばば様頑張れー」と声援を送ってみるが手元が狂ったりしたら危ないのでそんなに出来ない。



「三、二、一、はいっ終了です。調理を止めてください」


 村のおばさん達はお芋の煮物と野菜の揚げ物、師匠はお芋で作ったお餅が入った汁物だった。……ばば様は本職だったのに本気出しすぎじゃない?

 審査員は祭りの実行委員も含めて五人ほど。試食をして、何やらメモを取って点数の集計をして……あの試食で切り分けた残り、食べたいなあ。


「それでは発表します!第一回料理コンテストっ、栄えある優勝者は……チハルさんっ。おめでとうございますぅぅぅ」


 どっとわくような拍手喝采。うんうん、やっぱりばば様のお菓子は絶品だよね。


「それでは審査用に分けた残りを皆さんで召し上がってください」


 やった―食べるぞーと思ったらみんな集まってきて、もたもたしてたらあっという間に無くなった。テッドは出だしが速くてパウンドケーキをいつの間にか手に持っている。ウィルも苦笑しながらその様子を見ていた。

 料理コンテストの会場が片付いて辺りが暗くなってくると、大きな薪が組まれて火がつけられた。いわゆるキャンプファイヤーだ。この時間になるとお酒が入っている人もちらほらいていつもとは違う村の一面が見えた。

 いつもなら帰っている時間だ。ばば様の帰り支度を待っていてこんなに遅くなってしまっている。一人でポツンと待っていると師匠が話しかけてきた。


「アリシア、さっきリタに話していたの、聞こえていたか?」


 話が聞こえていたの師匠にはやっぱりばれていたみたいだ。私は素直に答えた。隠し事は良くないもの。


「えっと、何か頼みごとを断ったのと私を娘みたいに思っているってのと、村に居る邪魔をするなって事?」

「盗み聞きは良くないぞ」

「聞こえちゃったんだもん。あれじゃリタさんを懐に入れることはないって言っているようなものでしょう?リタさんが可哀想だよ」

「お前はダークエルフについてどんな認識を持っているんだ?」


 いきなりなんでそんなこと聞かれるのか分からないけど、私はまじめに答えた。


「えーっと、怒りや憎しみで暴走したり、人の道を外れて悪いことをしたり?」

「それに加えて一般的には好色な種族として認識されている。体目当てで寄ってくるっ奴もいるってことだ」

「リタさんはそんなんじゃ……」

「あのな、お前の中身はどうだか知らないが外見は子供だ。子供にそんなところを見せるわけがないだろう。自分の見えているものだけがすべてだと思うな」


 理解できない事で怒られるのは理不尽だと思って、師匠に私が分かるところから聞いてみた。


「師匠、リタさんの頼みを断ったって話じゃないの?何が何だかわからないんだけど」

「は?あ、あぁその前の話は聞いていなかったのか」

「うん」


 師匠は両手で顔を覆っている。手を外して出てきたのはやっちまったって感じの情けない顔だった。


「すまん、今のは全部忘れてくれ」

「ん?分かった。けどリタさんが困っているなら私が……」

「いいから忘れろ」

「はあい。あっ、ばば様来た」


 すっかり真っ暗になってしまったばば様と一緒の帰り道。


「久々にコンテストに出場して、なつかしくてのう。何だか血がたぎるような感覚だった。有難う、アリシア」

「ばば様楽しかった?」

「ああ、もちろんじゃ」


 ニッコリ笑って、今年の秋祭りも無事に終わった。


本当はアップルパイを作ってもらいたかった。生地を作る時間が…。

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