秋ですよ
三話一挙更新にチャレンジ。その二。
「アリシアちゃん、今度はこっちを手伝ってくれ」
「はーい」
今日の稽古はお休みしてみんなでいろいろな収穫を手伝っている。結構な力仕事だけど私が力持ちだと知った皆は遠慮なく声を懸けてくれるようになった。おかげでこのところ大忙しだ。
「俺、アリシアよりたくさん持つぞ」
「テッド、無理しないほうがいいって」
テッドとウィルが二人掛かりで持つ量を私が一人で軽々運んでいく。今運んでいるのはお芋。ジャガイモともサツマイモともサトイモとも違う『異世界のお芋』。勿論量があれば結構重い。
無理したテッドはごろごろとお芋を転がしてしまった。ウィルと私で拾うのを手伝う。
「剣も抜いたのに、勇者になったのに……」
「テッド、勇者に一番大事なことはなんだと思う?」
ウィルがテッドに聞いている。男の子だなあ。多分私が聞いたところでうまい具合にはいかないと思う。黙って聞いていようっと。テッドはしばらく考えると元気に答えた。
「強くなること!」
「違うよ。困っている人たちを助けられるかどうかだよ。そして今困っている人は?」
「村のみんな!そっか。遠回りしている気がしていたけど近回りだったんだな」
「近回りじゃなくて近道でしょ」
黙っていられなくてついつい突っ込みを入れてしまった。
「アリシアちゃんはどうしてそんなに力持ちなんだ?」
テッドとウィルはドラゴンの血が入っていることを知っているけれど村の人たちは知らない。何とかうまい誤魔化し方は無いかと考えていると一つひらめいた。
「んー、テッドをお姫様抱っこするためかな」
「うがー、なんでだよ」
テッドはじたばた暴れているが、村の人たちは大笑いしている。ひーひー言いながら肩をたたきあっている人もいた。
「こりゃあ、肝っ玉母ちゃんになるなアリシアちゃんは」
「テッドは力持ちの女の子は嫌いかい?」
「え、う、あ……」
「僕は好きだよ」
答えられなくて真っ赤になっているテッドに代わってウィルが答えた。おおーと村の人たちが盛り上がる。あ、やばい矛先がこっちに来るかも。村の人たちがちらちらとこちらを見ている。
「さあ、休憩終わり!続きは何をやればいいですか?」
「あ、ああ。次はリンゴの方に行ってくれ。ここは大分片付いたからな」
「はーい。ウィルー、テッドー、行くよー」
白地過ぎただろうか。後でウィルとテッドに謝っておこう。
リンゴの甘い香りがする。何度か収穫を手伝っているのでもうすっかり手馴れてしまった。
お駄賃代わりのリンゴにかぶりついている二人に謝った。
「ウィル、テッド。さっきはごめんね。からかわれるのが嫌で」
「僕は気にしていないよ。大丈夫」
「……おー」
テッドは一心不乱に食べているので返事が曖昧だ。それでも少し気が楽になった。
魔王化しなかったことを考えてみても、殺される未来を覆したとしても、たとえ「一応」が付く程度だとしても、私は王女だ。そう簡単に恋愛や結婚ができるとは思えない。
からかわれるのは嫌いだ。嫌でもそんな考えが浮かんでくるから。そんな思いを見透かしたのか、ウィルはぽつぽつと話し始めた。
「冬が来て、その後一年たったら王都の学校に行くことになっているんだ」
「うん」「知ってる」と私とテッドは答えた。寂しくなるね、と二人でしょんぼり肩を落とす。
「学校の中は貴族と平民がいて、平民にとっては成り上がるための場所でもあるんだ」
私は顔を上げた。ウィルは伝手を掴むだけだろうか。それとも下剋上でもするつもりだろうか。ウィルならできそうな気がする。学校を牛耳って貴族をうまいこと扱いそうだ。
「頑張るから、見ていて。アリシア」
「俺は学校行けないけど頑張って勇者になるからな。見ていろアリシア」
何だかくすぐったい。照れ隠しに次はどこへ行く?と聞いてみた。
「あ、師匠がいた。ししょーーーっ」
師匠を見つけたテッドが転がるように走っていく。師匠は村の人たちと何やら話していた。
「おう、お前ら。仕事はちゃんと終わったか?」
「ばっちりだよ。何か困りごと?」
「例によって秋祭りのイベントだ」
「ミスコンは?」
「だめだ。前にやったらその後とんでもないことになった」
村の女の人たちの仲がぎすぎすして刃傷沙汰にまでなったそうな。怖いわー。
「女装コンテストは?師匠とかノリノリでやりそうだなーなんて……」
「却下」
「あら良いじゃないアリシアちゃんの意見だし?」
師匠の怒りが最高潮だ。何だそんなにいやなのか。過去に何かあったのかな?おばさんたちは味方してくれたけどおじさんたちは反対派らしい。
「アリシアちゃん、一応収穫祭だから農作物をからめたイベントじゃないと……」
「あ、そうか」
ウィルもテッドも一緒になって考えている。私が経験したのは大食いと重量当てと鹿肉のつみれ汁の提供。学校の文化祭みたいなイベントではだめだね……てあれ?
「師匠の結婚式が大分前に候補に挙がってませんでしたか?」
私が言うより前にウィルが言った。思い出した師匠は苦い顔になっている。確かロリコン疑惑が懸ったのもその時だった。
「あれはごちそうを作ることが前提だったから……」
おじさんがしどろもどろになって言う。師匠を見ながら必死になって言い訳をしている。ごちそう、ごちそう、ごちそう……。あ、ひらめいた。
「料理コンテストは?」
「ああっ、それいいな!」
村の人達も口々に「うんうん」「なるほど」と賛同の意を示した。これならばば様も参加できるかもしれない。
「有難うアリシアちゃん。さてみんな準備に取り掛かるぞ!」
「おー」
集まっていた人たちは解散して私たちも帰ることになった。
「アリシアはすげえな。俺全然思いつかなかったよ」
「僕も」
言われてみてハッと気づいた。ミスコンや女装コンテストを知っている九歳児。違和感バリバリありまくりだ。本で読んだなんて言い訳は通用しない。どんな本読んでいるんだって言われかねないよね。
「……ばば様にいろいろ聞いているからね」
ばば様、ごめん。
テッドがアリシアをお姫様抱っこできる日は果たしてくるのだろうか。




