海へ行きたい
三話一挙更新にチャレンジ。その一。
「ばば様、師匠って色が黒いから海が似合いそうだよね」
「サーフィンとかやっていそうじゃの。派手なサーフボードもって……チャラチャラした格好して」
「海の家でアルバイトとかして料理作っていそう」
「やきそばとか、かき氷とか……ああ、縁日のテキ屋とかも似合いそうじゃの」
二人で日本の夏を懐かしみながら師匠をネタに話をする。日本語の普及したこの国ではあるが、日本文化が浸透している感じはほとんどない。夏祭り、海水浴、キャンプ……。前世で親に連れられて行った経験はある。大人になってからは無いけれど。
考えてみれば師匠に教わっているので夏休みなんてものが無い。他の村の学校なんかはどうなっているんだろう?
「ばば様、この世界で海水浴って行ったことある?」
「ないのう。そもそもそう言った文化があるかどうか……この年で泳ぐことはせんが、行けるものなら行ってみたいのう」
「明日、師匠に聞いてくるよ」
「おはよーテッド、ウィル。今日もまだ暑いね」
「おはようアリシア、そっか?大分涼しくなったと思うけどな」
「うん、もうじき夏も終わりって感じだね」
魔法の授業以外は滞りなく進んでいる。秋祭りの前に呪いのアイテムの見分け方をエルンストに教わりたかったけれど間に合うかな。
夢の出来事についてはエルンスト待ちだ。話をしてから十日ほどがたった。待っている間にも稽古や授業はあるわけで、もどかしい気持ちで過ごしていた。
「そういえばウィルとテッドは泳げるの?」
「僕は一応泳げるよ。川で泳いだこともあるし」
「俺も岩の上から飛び込んだりすんの、楽しーよな」
剣術道場の近くに川があるそうで二人はその道場の子らと一緒に遊んだりするそうだ。いいな。水着で入るのかと聞いたらきょとんとした顔をされた。どうやら服を着たまま入るのが普通らしい。
「アリシアは泳げるのか?」
「うーーんどうだろ?泳いだことないからわからないよ」
前世でのプールの授業は…十メートル泳げた……泳げた部類に入らないよね……。この世界で泳ぐ必要があるとは思えないし、気を取り直して師匠に聞いてみる。
「この世界に海水浴って文化はあるのかなって、今朝ばば様と話をしていたんだけど」
「金持ちや貴族がプライベートビーチでするもんだ。漁師が泳ぐことはあるが一般庶民が泳ぐだけの場所なんてほとんどないぞ。海はタチの悪いモンスターがわんさかいるからな。結界を張らなくてはならないし」
「そうなんだ」
青い海と白い砂浜は金持ちやお貴族様のもの。名ばかり王族ではだめだって事だね。ばば様を連れて行ってあげたかったなと落胆していると、ウィルが慰めてくれた。
「アリシア、泳ぎたいなら今度川へ連れて行ってあげるよ」
「別に泳ぎたいわけじゃないよ。泳げるかどうかわからないし」
「今年はもう時期的に無理だから、来年あたり泳ぎの稽古もしておいた方が良いかもな。アリシアの金槌を治すためにも」
「泳げるかもしれないよっ」
師匠もテッドもウィルも笑っている。みんなひどい。アリシアの体なら泳げるかもしれないのに。泳げなかったとしてもまだ若いから練習すれば何とかなるかもしれないのに。
「絶対、人魚張りの泳ぎを見せてやるんだから!」
「おーおー、せいぜい頑張れー」
「もし泳げなくても俺が助けてやるからな」
「そうそう、安心して水死体になると良いよ」
「ウィルそれもう死んでいるから。助からないから」
――家に帰ってばば様に報告した。ばば様をがっかりさせてしまうのが悲しい。
「ばば様ごめんね。お金持ちか貴族のプライベートビーチでないとモンスターが出るから泳げないんだって」
「昔日本にいたころにじじさまと一緒に行ったから、懐かしかっただけじゃ。アリシア、気にするな」
うう、ばば様が海で泳ぐのは年齢的に無理だとしても、せめて足を浸す程度だけでも……そうだ、エルンストなら本人が持ってなかったとしても伝手で何とかなるかもしれない。
その日からエルンストが戻ってくるのを待ちわびて、一週間後。稽古が終わった後に師匠からエルンストが帰ってきたことを告げられた。
「すみません。夏祭りの仕事に駆り出されてしまいまして、帰るのが遅くなりました」
「そうだったの。お疲れ様。お帰りなさい」
「アリシア……」
何やら感動して打ち震えている。なんか怖かったので師匠の後ろに隠れた。
「エルンストさっさと報告しろ」
「ロベルト、嫉妬はみっともないですよ……いえ、なんでもないです」
ここからでは見えないけれど師匠はきっと凍てつくような目でエルンストを睨んでいるに違いない。
エルンストは深呼吸してためらいながらも口を開いた。
「単刀直入に言います。貴女が会った人はこの国の初代国王です」
「……は?」
「思い出した。確か金髪金目で、元いた世界に自分以外に人化できるドラゴンがいなくなったとか」
エルンストの報告を聞いて師匠も思い出したようで、ポンと手のひらを打った。初代国王―――様々な種族をまとめ上げて国家を築いた、私のご先祖様。
「え、じゃ本当に同じ種族ってこと?どうしよう失礼な態度取っちゃったよ」
「名前は教えなくて正解だったかもしれません。歴史が変わってしまうかもしれませんからね。過去から未来に情報や物が移動するのはともかく逆となると矛盾が生じてしまいますから」
吸血鬼でも魔族でもなかった。まさかご先祖様だったとは。そういえば翼の色も鈍い金色だった気がする。でもそうなるとどうして私が会えたのか、大きな謎だ。
「えっと、もう亡くなっているんだよね?」
「ええ。葬儀もしっかりと行われた記録がありました。このペンダントは初代国王が所持していたとされるもので失われたはずの物なんです。国宝級ですよ」
「……まさか幽霊が夢を見せていたとか?」
ゴーストさん第二弾来襲か。師匠も顔をしかめる。結界を強化すると言っていたから、そんなに易々と入られたら困るだろう。
「結界内に入られた形跡も、アリシアが結界を出た形跡がなかったことから考えてもアリシアが時間をさかのぼったとしか思えません」
「私そんな事できないよ。」
「この村は存在しましたか?」
気づいたら空の上だったし、途中で切れて村までたどり着くことはなかったな。
「ううん、夢には出てこなかった」
やっぱり、とエルンストは頷く。この国が出来たばかりのころは村はまだなかったらしい。私が考え込んでいると、次は師匠が質問した
「時間を越えて物を持ってくることなんて出来るのか?」
「失われたアイテムを時間をさかのぼって取得した例なら知ってますよ」
「もし私がそんなことが出来るとして、気を付けることって何なのかな」
「無事に戻ってきてくださいとしか言いようがありません。誰も助けに行けないでしょうから」
師匠もエルンストも使えない時空魔法。魔王に近づいてはいないのだろうか。こんな私がこのペンダントをもらったという事は、魔王化を防ぐのか助長するものか。
「これ、私が持っていていいのかな」
「むしろ初代国王から渡されたなら貴女が持っていないと意味のないものです」
こんな貴重なものを私なんかが持っていていいのだろうか。お城の宝物庫に預けたりしなくていいのかな。傷をつけたくないからお出かけするときだけ身に着けよう。
「あ、そうだ。エルンストってプライベートビーチって持ってる?」
「もってません」
「伝手もない?」
「ええ」
「以上、師匠お邪魔しました」
「ああ気を付けて帰れよ」
師匠の家を出ようとすると「え、ねぎらいの言葉とかは……」「最初にかけてもらっただろ」と扉を閉める時に聞こえてきた。
仕方ない。海は諦めよう。
初代国王にナンパされたアリシア(九歳)




