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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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夏の夜の夢

 空を飛ぶ夢を見ている。

 遠足の時みたいにドラゴンの翼が生えて、なぜか寝間着で枕を持って飛んでいた。満月の光がとても美しく、夜の涼しさがとても気持ちいい。夢の中の私はずいぶんと飛び慣れていて、日頃村から出れないから夢の中で思い切り飛ぼうと、時々くるりと宙返りもした。

 枕を持っていないほうの手を広げて、頬にリアルな風まで感じて。夜だし、これだけ高い位置を飛んでいれば誰も見ていないだろう。

  眼下には街の明かりがぽつぽつ見えた。日本にいたころの夜景とは違って極々小さな光の粒だけど、どこか暖かくて懐かしい。

 反対に原種の森はの方角は真っ暗な闇が広がっていた。


 今なら王都にも行けるかもしれない。裸足だから降りることは出来ないけれどせめて上空から見るだけならと思い進路を変えた。

 王都には結界が張ってあるかもしれないのでまわりをぐるりと大きく回る。まるで空撮の映像を見ているような迫力があった。

 町の外側は高い壁と堀で覆われていて、中心部にかがり火や魔石の光によって照らし出されたお城が見えている。城壁に囲まれたいくつかの高い塔や大きな建物。あのどこかに私の両親と弟たちがいるんだね。

 城壁の外側から放射状に大きな道が伸びている。大通りに沿って大きな建物が、場所によっては密集した小さな建物が見えた。流石王都、こんな時間なのに他の町よりも明かりが多い。

 あくまで夢の中だ。私の想像にすぎない王都は夜の闇の中でも美しかった。今度は昼間の王都が見てみたい。

 満足したので王都を背に村の方へと引き返す。通行証を持っていないが、それまでに覚めるかどうにかするだろう。本音を言うとずっと飛んでいたい気もするのだが。




「こんばんは、良い夜ですね」


 見知らぬ男に声を懸けられた。勿論まだ飛んでいる途中である。私と同じような翼が生えていて、黒いマントと貴族の様な服を身に纏っている。私は寝間着を着たままだ。ちょっと恥ずかしい。

 月の光に晒されて正確な色合いが分かりづらいがおそらく金髪に金色の目。物腰はとても柔らかく、師匠やエルンストの見た目よりも少しだけ年上な感じだ。

 

「こんなところで同族に会えるとは思いませんでしたよ。とうの昔に私以外は絶滅したとばかり思っていましたから。」


 吸血鬼だろうか。……もしかして魔族だろうか。相手の種族が分からない以上、夢の中とは言え迂闊に返事ができない。どちらにしろ弱いとは決して思えない風体で、少しだけ怖くなった。

 私の正体を知ったらどんな行動に出るのか分からない。このまま村までついてきたらどうしよう。


「よろしければお名前をお聞かせ願えますか」


 だんまりを決め込んだ。持っていた枕を両手でぎゅっと抱きしめて恐怖を悟られないようにする。相手は黙秘の理由を自分の礼儀のせいだと思ったようだ。


「これは失礼私の名前は―――」

「得体の知れない殿方に教えると思って?」


 自分の意志とは関係なく口が動いていた。流石夢だ。普段は使わないような言葉使いがするりと出来る。

 教えたりしたら最後呪われてしまいそうだ。相手の名前を知ってしまったら何らかの縁が出来てしまうかもしれない。


「見た目は年若い御嬢さんなのにこれは手厳しい。つれないですね」


 ため息を吐きながらも苦笑している。機嫌を損ねることはなかったようだ。


「でもせっかく久しぶりに同胞に会えたのです。繋がりをここで断ち切ってしまうのは惜しい。どうかこれを受け取ってください」


 差し出されたのはペンダントらしきもの。受け取るものかと抵抗していたが彼の金色の瞳を見たとたんに手が勝手に動いた。その様子を見た彼は満足そうに微笑む。


「では、ごきげんよう」


 夢はそこで唐突に途切れた。



―――翌朝。

 枕をがっしりと抱えながら寝ていた。手にはなぜかペンダントが引っ掛かっている。暫く朦朧とした意識でそれを見ていたが、昨夜の夢を思い出し急速に意識が覚醒した。

 まずい。まずいまずいまずい。あの夢が本当なら魔族なり吸血鬼なりと関わりを持ってしまったことになる。


「アリシア、今日は休みじゃ」

「ごめんばば様、師匠の家にちょっと行ってくる」


 着替えをして朝食を猛スピードで食べ、身支度を整えて家を出た。外はすでに明るいがいつもの時間よりかなり早い。師匠の家の前に着くと近所迷惑にならない様にかなり控えめのノックをした


「師匠起きてる?アリシアだよ」

「なんだよこんな朝っぱらから」


 うわお。出てきた師匠は寝ぼけ眼で髪を降ろしていて上に引っ掛けているだけのパジャマから出ている腹筋がとてもセクシー。ごめんなさい混乱中です。少々お待ちください。

―――出てきた師匠の姿に私は一瞬たじろいだが、気を取り直して夢の事を報告した。


「変な夢を見たの。空を飛んでいたら魔族だか吸血鬼だかが声を懸けてきてこれを渡されたの」


 持っていたペンダントを見せる。


「ちょっと待ってろ」


 綴じた扉の向こうでエルンストを起こす声が聞こえる。がたがたと物音がしてしばらくしてから扉が開いた。出てきた師匠は髪を結んでちゃんと服を着ていた。


「朝飯は?」

「食べてきた」


 私は夢の話を詳しく放した。師匠たちは食べながらそれを聞いている。二人とも何だか不機嫌そうだ。もう少し遅く来ればよかったかな。


「あ、吸血鬼か魔族かっていうのは単なる私の印象なんだけど」

「一応かまれた跡が無いか首筋を見るぞ……大丈夫そうだな」


 師匠が私の首に手を掛け、髪の毛を持ち上げて確認する。ため息を吐かれてしまった。


「あれだけ注意したのに何で飛んでいるんだ?」

「夢の中だと思ったんだもん。実際に飛んでいたら通行証持ってないから戻ってこれない筈だよ」

「って事は実体ではなく魂だけ飛んでいたという事か……ゴーストの件もあって結界は強化していたはずなんだが」


 幽体離脱。それって死が近かったり弱っている人がする体験だよね。私、死ぬの?こんなに元気いっぱいなのに。


「エルンスト、これ、呪われていないよね?」

「大丈夫です。ですが、どこかで見た記憶が……」


 エルンストはどうにか思い出そうと、うんうんうなっている。ペンダントトップには青色の石の周りを金と銀の細工で炎の様に縁取って加工してある。あれ、銀は吸血鬼の弱点だったはずでは……?


「金髪金目で…自分以外は絶滅…?」


 師匠も何やら考えている。名前をちゃんと聞いておいた方が良かっただろうか。二人の記憶力に懸けるしかないのがもどかしい。


「すみません、思い出せません。」

「こっちも、なんか引っかかっている気がするんだが」

「王都に行くしかないですね。図書館で調べるか、それを持って接触してくるのを待つか」

「私も、い」

「だめだ。何度も言っているだろう」


 師匠に怒られてしまった。目じりが吊り上ってとても怖い顔をしている。


「私が行ってきますよ。ロベルト、アリシアをお願いします」

「ああ、わかった」

「エルンスト気を付けてね」


ようやく十万字突破です。

師匠はベッド、エルンストはソファで寝ています。BL要素は皆無です。

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