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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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王都のお話

暑いのでいつもは降ろしている髪の毛を二つに結わえた。

暑いのでいつもはズボンをはいているがスカートをはいた。

暑いので外に出るときは帽子をかぶるようにばば様に言われた。

暑いので水と風の魔法を使って涼を取ることを覚えた。


 熱中症で倒れている人がいないか時折見回りをするようになった。室内の空調は魔石を使っているので快適なのだが、外はどうしようもない。師匠は結構頑丈なので、畑仕事を手伝うことが多くなったようだ。私も手伝おうとしたが村の人たちに止められた。自分たちがきついのに子供に手伝わせるわけにはいかないと言って。

 

 私は用もないのに外を歩き回っている。畑には所々背の高いひまわりが咲いていた。


「アリシア、どうしました?」 

「んー、よくわからない。熱中症の人が倒れていないか見回りしていたはずなんだけど、自分でもなんで歩いているのか段々分からなくなってきた」


 途中でエルンストに声を懸けられた。相変わらず暑苦しい格好だ。「取り敢えずどこか涼しいところへ行きましょう」と手を引かれながら師匠の家に入る。椅子に座らされ、おでこに手を当てられる。暑苦しい格好をしているのになぜか冷たい手が気持ちいい。魔法でも使っているんだろうか。


「どこか具合が悪いのですか?」


 首を振ってそれに答える。

 この世界はあまりにも前世と似通っているため、無意識に前世と同じものを求めて探し回ってしまっている。お金を払えばすぐに食べられる食べ物や飲み物。テレビやゲームや漫画や音楽などの娯楽。ショッピングでたくさんの商品を見たり、映画を見に行ったり。図書館でも近くにあれば気を紛らわせることが出来るのかもしれないけれど、この村にはそれもないし。

 命の危険があるのに、魔王になる危険があるのに、我ながらどんだけ気を抜いているんだって思う。


「なんでもない。私の心の問題だから」

「何か悩みでもあるのですか」

「んーと、多分……前世が少し恋しいだけだよ。どうにもできないから余分なエネルギーを使おうと歩き回っていただけ。ごめんね、心配かけて」

「エネルギーが有り余っているなら空を飛ぶ練習でもしてみませんか」


 うっかりそれもいいかもと思ってしまったら丁度帰ってきた師匠に駄目だと言われてしまった。

冷蔵庫から冷たいお茶を出してごくごく飲みながら怒る。怒りながらも私とエルンストの分も注いで出してくれるところが師匠らしい。


「目撃情報が出てると言っただろう。これ以上事態を悪化させるな、エルンスト。アリシアも暇ならテッドやウィルと遊んで来い。」

「二人とも剣術道場言っているからいないんだよ。師匠で遊びたい」

「でってなんだ、『師匠と』だろ。言葉は正しく使え」


 自分の言葉を振り返ってみる。

 師匠と遊ぶ……何をして遊ぶ?虫取り、鬼ごっこ、かくれんぼ。

 師匠で遊ぶ……師匠をからかって遊ぶ。うん、どちらかと言うとこっちだな。


「どこも間違っていないつもりだけどって、いたたたた」


 師匠にこめかみをぐりぐりされた。今日は髪の毛結んでいるのにひどい。


「だって鬼ごっことかかくれんぼとか師匠とするところなんて想像できないよ」


 想像してしまったのかエルンストは大爆笑した。師匠は攻撃の標的をエルンストに変えてこめかみをぐりぐりする。




「王都だったら気を紛らわせることもできるかもしれないですね」

「王都の話聞きたい!お店とかたくさんある?」

「聞いてどうすんだ。お前が王都へ行くことはない」


 師匠が夢のないことを言った。

 話を聞くことも許されないんだ。いつの間にかできた弟たちはお城を脱走したりしているのに。連れてってなんて言っているわけじゃないのに。

 あまり王都時代の事は思い出したくなさそうだから、ばば様には何となく聞けないでいる。

 むう、何とか聞き出せないものかと考えていると、一つひらめいた。


「ばば様がお店を出していたって聞いたけど、どうだった?」

「ああ、ケーキやら焼き菓子やら売っていたな。中で飲食できるようになっていて……その頃はまだチハルと顔見知り程度だったが」


 見事に師匠が釣れた。ここからとっかかりを作っていろいろ聞き出そう。


「懐かしいですねぇ。僕もよく通っていたものです。二十年くらい前でしたか……」

「へえ……他にそう言ったお店はなかったの?」

「ありましたがあの店は別格でした」

「俺もよくいったぞ。月に二度は行っていたかな」

「ええ、毎回違う女の子連れてましたね」


 エルンストの発言に師匠がだんまりを決め込んだ。まずい、話題の転換をしなければここで止まってしまうかもしれない。


「お祭りとかはあるの?」

「ああ、王都は毎年夏に建国祭をやっているんだ。一週間ほどずーっと熱気に包まれててな。

「毎年警護で魔術師や騎士が狩りだされるんですよ」


 夏場にエルンストが一週間もいなかった事なんてあっただろうか。ずっと村にいたような気がする。サボりかな。同僚の皆さんの苦労が目に浮かぶ。


「図書館とか劇場とか、娯楽施設とかあった?」

「ええありますよ、図書館も劇場も王立なので規模はかなり大きいです。小さな劇場もありますよ。娯楽というとカジノがありますね。勿論飛空船の発着場もありますし、冒険者、職人、商人などのギルドもあります」


 本当に何でもあるんだな。頭の中でヨーロッパ風の街並みが広がっていく。飛空船に乗った時の街並みよりもかなり規模は大きいのだろう。他にもお城があって大きな商店が立ち並んで……


「神殿もあるんだよね……やっぱり行けないよ」


 王都に行けない一番の理由はおそらくそれだ。自分で危険に突っ込んでいくなんて出来るわけがない。


「ありがとう。話が聞けて良かった。」

「もういいだろう。そろそろ帰れ」


 師匠に追い出されてしまった。少し休んでからまた畑の仕事を手伝うらしい。タフだなー。


 まだ日が高いので森の中をぶらぶらすることにした。夏真っ盛り。数は少ないが蝉の声も聞こえる。地面の木洩れ日でさえ眩しく映る。いろいろな話を聞いてそれだけで満足できた。王都もいいけれどこの森から離れられないならそれでもいいや。


「ただいま、ばば様。今日は王都の話を師匠とエルンストから聞けたよ」

「おかえり、そうか、良かったのう」


記念すべき五十話です。

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