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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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過去に存在した魔王たち

「ロベルト、わしの孫娘を敵だとぬかすか?」

 

 ばば様にしては珍しく怒りを露わにした声を出し、ジロリとダークエルフ――ロベルトを睨む。ロベルトは絶望的な顔をした後、崩れ落ちるようにがっくりと畳の上に膝をつき、両手をついて呟く。


「孫娘……?」

「左様。孫娘のアリシアじゃ。先日六歳になったばかりでな。よろしゅう頼む」


 聞いているのかいないのか、反応が全く無いロベルトに聞こえないよう、ばば様に小声で訊いてみた。


「ばば様孫娘って……」

「気にするな。そう言っておけばそなたを雑には扱わんじゃろうて」

「昔何かあったの?」

「うむ、ダーリンとわしを取り合う、いわゆる三角関係じゃった」


 どや顔ばば様。ああ、じじ様一筋でロベルトに見向きもしないばば様が思い浮かぶわー。あまりに可哀想で涙が出そう。更に好きな人に孫娘がいたなんて。不憫だなあ。でも自己紹介しないと話が進まないよね。敵認定されて、いじめられるのも嫌だしね。

 私はロベルトの肩にポンと手を置いた。顔を上げるロベルトにできる限りの笑顔で話しかける。


「初めまして。ばば様のま・ご・む・す・めのアリシアです。よろしくお願いします」


 離れたところからぼそぼそ声がした。金髪の子とばば様が話している。ロベルトはがっくりとうなだれてしまった。


「うわあとどめを刺した」

「魔性の女、じゃのう」

 

 ――動かなくなったロベルトを放っておいて私がばば様のもとへ駆け寄ると、金髪の子が話しかけてきた。


「初めましてアリシア、僕の名前はウィル。さっき逃げて行ったのはテッドっていうんだ。よろしくね。」

「うん、よろしくね」


 金髪はウィル、赤毛はテッド、ダークエルフはロベルト。よし覚えた。ウィルはくるりと振り返ると、漸く立ち直ったロベルトに声をかける。


「師匠、今日はこれで帰ります」

「ああ、あいつにも今日は終わりだって言っといてくれ」

「はい。失礼します」


 三人でウィルを見送る。テッドはやんちゃそうだけど、ウィルは礼儀正しい感じだ。


「柔道でも教えているんですか?」

「ああ」

「ちなみにこいつの師匠はじじ様じゃ」


 じじ様伝説がもう一つ増えた。


「さて、ロベルト。少し込み入った話があるんじゃが……」

「昼飯、まだだろ?俺んち来るか?」

「うむ。それではお言葉に甘えて、行くとするかの」


 近くの店で惣菜を買い、ロベルトの家で食べて一息ついた頃。ばば様は話を切り出した。


「魔王について聞きたい」

「わかった」


 いきなりこんな話題なのにロベルトはすんなり話し始めた。


「俺が実際に会ったことのあるのは一人。百五十年ほど前、異界からやってきて勇者気取りでモンスター討伐をしていたんだが……」


 魔法が使える世界の人間だったらしい。そのうち手に入れた剣が呪われたもので、村や町を襲いはじめ周囲がおかしいと思った時には、かなりの強さになって手がつけられなかったそうだ。被害は国境を越え、魔王と認定されて討伐隊が結成された。

 その隊にロベルトは参加していて、最期も立ち会ったそうだ。人型は失われ異形の者と化したそいつは、呪いをまき散らしながら死んでいった。その場所は今でも立ち入れないらしい。


「史実として知っているのは……」


 ある魔王はネクロマンサーで大量のゾンビやスケルトン等のアンデッドと共に転移してきた。

 魔王を倒してもアンデッドを召喚したのは創世の木だったから、無力化することなくこの世界に散らばって残った。等々、他にもいくつか話した後、こちらに訊いてきた。


「どうして魔王のことなんか聞きに来たんだ?」


 と、こっちを見て尤もな質問をしてきた。話題をはぐらかすのもここまで話した後では不自然だろう。でもどこまで身の上を話せば良いのか、この人を信じて良いのか分からなくて、ばば様の顔を見た。大丈夫、と頷いて――


「それはわしが話す。アリシアはな、この国の王女じゃ」

「ってことは孫娘じゃねー……って王女?あ、なんか聞いた事あるな」


 あごに手をやって思い出そうとするロベルト。


「黒髪赤眼で不吉だって事と、三人の予言師に魔王になるだろうって言われた事くらいか……」

「うむ、それで……なんとかその予言を実現させない方法を探しておる。何か知らんか?」


 今度は腕を組み考え始めたロベルト。なんだ、ばば様も知らなかったのか。考えてみれば無理もないよね。ばば様がこちらにいる間に魔王はいなかったみたいだから。


「これはあくまで俺の考えなんだが、今のところ俺の知っている魔王は異世界から転移してきた奴らばかりだ。」


 どくん、と胸が鳴った。私の記憶は異世界のものだ。記憶、中身、……つまり、魂。


「王族なら、先祖返りさえしなければ大丈夫なんじゃねえか?」


 先祖がえり。確か生まれた時に訊いた言葉。何故今まで疑問に思わなかったのか。

 震えそうな声を抑えようとしたらかすれた声が出た。


「先祖返りって?」

「なんだチハル話してなかったのか?」


 ロベルトがばば様を見たけれど、私は敢えてそちらを向かずにいた。早く続きを話してほしい。


「この国の王族の先祖はドラゴンだ。先祖返りをするという事は、体の一部なり全身なりがドラゴンに変ずるという事だ」


 何も言い出せなくて、沈黙が、しばらく続く。


「……つまり不吉な黒髪赤眼で、ドラゴンになるかもしれなくて、記憶は異世界って……魔王になる要素が三拍子そろってるって事だね」


 自分で言った事実に耐えきれなくて俯いた。「転生者……?」とロベルトの声が聞こえる。


「ばば様、家に帰ろう。……疲れた、家に帰りたい」

世界樹とかユグドラシルとか考えたけれど、『創世の木』ってことで。

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