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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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九歳

 九歳になった。


 魔法や戦闘に慣れてきたことに恐怖を感じなくなった自分が少し怖い。もしかして魔王化の兆候なのではないかと思うが誰にも相談できずにいる。成人前から命を狙われるようになるかもしれないので強いに越したことはないのだが。


 勉強は相変わらずだ。時折エルンストの話も交えて雑学もだんだん増えてきた。エリーゼとの文通も続いている。

 エリーゼは私と齢が同じで、もうすでに親の決めた許嫁がいるそうだ。家が貴族だとどうしてもそう言った慣わしに従わなくてはいけないけれど、相手は友達のお兄さんで幼馴染でもあるのですんなり受け入れられたそうだ。……私がこの森に預けられなければどうなっていたのだろう?不吉な容姿の王女として扱われていき遅れになるのかな。

 それとなく双子の王子のことを聞いてみた。かなりのやんちゃっぷりでお城を脱走したりしているそうだ。私は金髪のテッドが二人いるところを想像した。テッドを観察しながら。


「あ、アリシア、何か俺の顔についているか?」

「ううん、見ているだけ」

「そうか……」


 テッドの顔が赤い。師匠が「いちゃいちゃするな、俺には目の毒だ」と言ってきた。何の事だかさっぱりだ。テッドと言えば……


「テッドには犬の耳としっぽ、生えないの?」

「もともと父ちゃんのじいちゃんが獣人でそれ以外はみんな人間なんだ。隔世遺伝だって言ってた。血が薄いから肉球とかもないし。アリシアは生えた方が良かったか?」

「うん、犬は好きだよ」

「なっ、す……き……?お、俺頑張って耳としっぽ生やすから!」


 頑張って生えるものなのかな?

 テッドは遠足で抜いた剣を使うようになった。剣は光の属性がついているらしい。魔法が使えないテッドにとって助けになると良いな。


「魔族が赤毛の子を攫って行ったという話が最近出まわっていてな」

「へえ、怖いですねー」

「アリシア、なぜ目をそらす」


 思い切り身に覚えがある。遠足の時にテッド抱えて飛んでたことだ。目撃されていたとは気づかなかった。あのひよっこパーティだけではなくて一般の人もそのように感じたのか。飛ぶ練習がしてみたかったんだけれど大人しくしているか。

 ついでに前々から疑問に思っていたことを聞いてみた。


「王族以外に黒髪赤眼はいるの?」

「黒髪はたくさんいるぞ。赤眼もいないわけではない。両方揃うとなると数は少ないかもしれないが」


 王族だと言わなければ私はただの一般人で済むという事だ。

 テッドにはドラゴンの血が混じっていると正直に話したけれど、魔族に間違えられるから周りには絶対に言わないでと言っておいた。王族であることは、まだ言えないでいる。


「アリシアもう一度羽根を生やす予定はありませんか?」

「ありません」


 エルンストが手をわきわきさせながら聞いてくる。周りの目も気になるけれどもし練習しようものならこの人が飛んでくるに違いない。最近、やけに引っ付いてくるようになった。テッドとウィルと師匠に撃退されるのがオチだけど。


 変わったことと言えば師匠だ。頭ぽんぽんが無くなった。私が成長したからだろうか。それとも狩りの時のことが原因だろうか。少しさみしい。私の頭に手を置こうとして引っ込める瞬間を狙って師匠の手首をつかんだ。そのままぐいっと引っ張って頭の上に手を置かさせて師匠を見上げる。師匠は困惑しながらも私をじっと睨む。沈黙しながらその状態が続く。……おかしい、私が求めているのはこんなに殺伐とした雰囲気ではない。もっと和やかなスキンシップが欲しいだけだ。大人になったらセクハラになってしまう、子供のうちにしか出きない事をしてもらいたいだけだ。だってまだ九歳だもの!


「二人とも何やっているの?真剣白羽どりの練習……ってわけじゃないよね」


 ウィルの突込みが入った。師匠がウィルに助けを求める。


「アリシアがわけわからん。ウィル、助けてくれ」

「アリシアだめだよ。師匠を放してあげて?」


 師匠の手首をつかんだ指を優しく放して私の手を取る。何を思ったのかウィルは跪いてそのまま私の手の甲に口づけをした。顔がかっと一瞬で熱を帯びるのが分かる。


「な、何するの!」

「え、だってお姫様にはこういうことするものでしょう?」

「何の脈絡もなくそんなことはしないよ!」


 きょとんとした無害そうな顔をしていたが、私の恐らく真っ赤であろう顔を見て次第に笑みを浮かべる。何も知らない人が見ればただの王子様スマイルかもしれないが、おそらく確信犯だ。私には少し黒いものが見える。これ以上何かされない前に手を回収した。


「だから俺の前でいちゃいちゃするなって」


 師匠がまた訳の分からないことを言っていた。

 最近、ウィルは遠足で抜いた剣を振る練習をしている。重たくて長いのでもう少し身長が伸びないと実戦では無理そうだ。


 誕生日のケーキはフルーツたっぷりのタルトだった。相変わらずおいしい。ばば様がお店を続けていたらどうなっていたのだろう。


「もう九歳になるのか、月日が経つのは早いのう」

「ばば様は何歳になったの?」

「無くなったじじ様と同じ年になる」

「え……」

「十歳差じゃったからのう」

「……ばば様長生きしてね」


 頑なに年を教えてくれないばば様。覚悟はしておいた方が良いかもしれない。

 この話を聞く少し前から、いろいろな料理の事を教わり始めた。基本は日本の料理とお菓子作りだが、調合の知識を生かした料理も教わることにした。携帯食料がいい例だ。料理の特殊効果で能力が上昇する効果が付いたりするものもある。



「そういえばエルンスト、この前の遠足の強いモンスターの調査って終わったの?」

「ええ、ロベルトには話してありますが黒い方はどうも新種のモンスターのようでして、この所あの山だけでなく各地で発生しているようです。大した被害は報告されてはいないのですが注意が必要だとのことで……」

「私の事は関係していると思う?」


 重たい口をエルンストが開いた。師匠も一緒に聞いているのだが表情が硬い。


「新種という事は創世の木に新たに召喚されたという事です。神殿はおそらく関係はないと思いますが……属性が闇だという事がどうしても引っかかってしまって、貴女に無関係だと断言できません。もしあれに貴女が一人で対峙していたとしたら、取り込むか取り込まれるかして魔王になった可能性は十分有り得るかと……」


 思わぬ情報に身が震えた。関係していたとしても神殿側が用意したモンスターで、人為的な物だとばかり思っていた。創世の木が意図的に召喚していたなら、……私の敵は……


「テッドとウィルがあそこで剣を抜いたのは偶然か必然かわからない。村の外に出るときはできるだけ独りになるな」


 ウィルとテッドは剣を抜いたことで勇者となった。勇者が誕生したという事は、魔王も……?



誕生日まとめでした。成長しているようなしていないような。

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