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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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遠足?前編

「今年の遠足は山登りなー。モンスターがいるから実戦訓練も兼ねる。気を引き締めろ」

「初心者向けの山ですから、今までの授業や稽古で十分に対応できるはずです。」


 師匠とエルンストがの言葉にウィルとテッドが顔をこわばらせる。座学や実技ののテストは今までも受けてきたけれど、実戦となると命がかかってくるからそう簡単にはできないだろう。冒険者登録ができる年齢になってからだとばかり思っていた。


 去年の飛空船は本当に楽しかった。今年はそうも言ってられなさそうだ。

 目的地は駆け出しの冒険者が行く山でゴブリンやスライム、鬼うさぎなど只の村人でもがんばれば倒せる程度のモンスターが出る場所だ。山の麓に村があるのでそこまで移動するのはまたリタさんに馬車を頼むらしい。


 遠足の日まで手に馴染ませろと、師匠はテッドとウィルに子供でも使えそうな刃が短めの剣を渡した。


「私は何もなし?」

「稽古もしていないのに刃物なんか渡せるか。素手と魔法で何とかしろ」

「アリシアは自分の身を守ることに集中してください」


 自分だけ何も持っていかないのはちょっぴり悔しいと思って、念のためにばば様直伝の携帯食料を自分で作って持っていくことにした。


 カタコト揺れる、行きの馬車の中。テッドとウィルは緊張しているみたい。去年の遠足みたいに騒ぐこともせず、何だかお通夜みたいなことになっている。師匠は胡坐を組んで目をつむり、エルンストは古ぼけた木の杖を抱えたまま黙っている。

 中の様子に目をやりながらリタさんは小声でそっと聞いてきた。


「今日って楽しい遠足のはずじゃなかった?」

「一応そうなんですけど……モンスター相手の実戦訓練も兼ねているので緊張しているみたいです」

「ふーん、アリシアちゃんは平気?」

「せっかく師匠のもとでの実戦なんで動けないのはもったいないかなって。いつか一人で戦わなくてはならないかもしれないので」

「戦う戦うって、冒険者にでもなるの?」


 ……なんて答えたらよいだろう?私の事情を話すわけにはいかず迷っていると、目を開けた師匠が代わりに答えてくれた。


「村を守れるようになってもらうためだ。俺たちが留守にしても大丈夫なようにな」


 なるほど、とリタさんはそれで納得してくれた。


 村に着いた。少し離れた場所に小高い丘のような山があるが、ハイキングと言うよりはピクニックで上りそうな山だ。とてもモンスターがいるとは思えない。木はたくさん生えているけれど地面まで光は届いているし、そんなに急な斜面もなさそう。


「山頂には剣が二本、岩に刺さっていてそれを抜いた者は勇者になれるという話ですよ」


 エルンストが良くある話をする。テッドとウィルの目が輝きだした。うんうん、ちょっぴり胡散臭いとか思いながらもそう言った伝説はわくわくするね。私が抜いたらどうなるんだろう。勇者になれば魔王にならないのかな?それとも勇者と魔王を兼任?少し馬鹿なことを考えながら山への道を歩く。




 登山道の入り口でと三人組の冒険者のパーティとかち合った。この山に来ているという事は多分初心者なんだろう。見た目からおそらく戦士と魔法使いと狩人と言ったところか。狩人が女の人で残り二人が男の人。山に入ろうとしている私たちを見て驚いているようだ。


「こんなところに何で子供が……」

「人さらいじゃないのか?そっちの、ダークエルフだろ?」


 パーティのうちの一人、エルフが師匠を侮蔑するような眼で見ている。師匠が馬鹿にされるなんて気に食わないけれど本人が無視して素通りしたので私たちもそれに続く。嫌だな、この時間にここにいるという事はこれから何度か顔を合わせるかもしれないのか。


 山と言うよりは多少の傾斜がある森になっているので、モンスターと会う前に山登りで疲れる心配はなさそうだ。先頭は師匠、続いてテッド、私、ウィル、エルンストの順番で少し間を開けて登って行く。モンスターが出た時に剣を振るうスペースをとるためだ。


 登り始めて小一時間ほどたったころ、それまで黙々と歩いていたエルンストが口を開いた。


「おかしいですね。ここまでモンスターが出ないなんて……」

「駆逐されたか、格上の奴がいるかだな。あと少しで」

「師匠、何かいる!」


 木の間に生えている茂みがざわざわと蠢いている。その動きがどんどんこちらに近づいてくるのを見て

ウィルとテッドが慌てて剣を抜いた。

 現れたのは額に赤い石がついた灰色の狼が五匹。そのうち二匹がウィルと私に飛びかかる。一瞬が随分長い時のように感じられて気づくと体が勝手に動いていた。飛びかかってきた狼を避け、着地した瞬間を狙って横っ腹を蹴りを入れると近くの木の幹にあたって動かなくなる。すかさずテッドが剣で(とど)めを刺した。ウィルの方を見ると足元に狼の死体が転がっていた。


「残り三匹、気を抜くな」


 極力手を出さないようにしている師匠とエルンスト。狼は二人に目もくれず間にいる子供三人を目がけて走ってくる。弱いものを狙うのは自然の摂理だね。体術だけだと止めが射せないので魔法に切り替えた。氷の矢を空中に出現させ、真ん中の一頭に向けて放つ……避けられた。なおも私目がけて走ってくる狼に三本の氷の矢を順に放つ。二本目が命中、三本目で心臓へ止めを刺した。

 ウィルは狼に押し倒されかみつこうとする口を剣で防いでいたが、足で狼の腹を蹴り上げて横になったところを切り殺した。息が上がっている。

 テッドも危なげなく倒したみたいだ。

 ―――考えてみれば、魔王討伐した師匠に教わっているんだ。強くならない筈はないよ。


「ウィルは油断したな。アリシアは最初から手数を増やせ、テッドは一撃で倒そうとするな、空振りが多くなるぞ。はあ~、見ているこっちがハラハラした」

「初戦にしては上出来ですよ。三人ともけがはありませんね?」


 攻撃をしのいだりするのに必死で怖いと思っている暇がなかった。精神面でも少しは成長しただろうか。ウィルとテッドも行の馬車の中のような緊張は無くなってしっかり動けていたみたい。


「大丈夫か?助けに来たぞっ……てあれ?」


 歩いてきた登山道の方から麓で会ったパーティが姿を現した。周囲に散らばったモンスターの死体を見て絶句する。


「自分たちに倒せないからって僕たちにけし掛けて助けに来たふりをするつもりだったんですか?」

「おそらくそうでしょう。先ほど上から見た限りでは苦戦していたようですからね」

「僕ら子供でも倒せるクズみたいなモンスターに苦戦するなんて、冒険者止めた方が良いですよ。あなたたちはクズ以下なんですから」

「向いていない職業に縋り付くよりとっとと転職をお勧めしますよ。私が今回の事をギルドに報告して、資格を剥奪(はくだつ)される前に」


 ウィルとエルンストの毒舌コンボがひよっこ冒険者のやる気をくじいていく。

 テッドと師匠で死体から牙や皮など必要なものを採っていく。先ほどの雄姿はどこへ行ったのかテッド少し腰が引けている。解体はやっぱり苦手みたい。額の石は魔石で他の採取物より高く売れるらしい。刃物を持っていない私はとりあえず辺りを警戒した。

 違和感を感じる。……いつもの森と違って鳥や虫など、生き物の気配が感じられない。


「師匠、これだけじゃないよね?なんかさっきから鳥肌立っているんだけど」

「よく分かったな。取り敢えず進むぞ。山頂は広場になっているからここより足場はいいはずだ」


 周囲の木々が途切れ、視界が開けた場所に出た。広場には大小二本の剣が平たい岩に刺さっていてまるで公園にあるオブジェの様になっている。後ろからついてきたひよっこ冒険者が私たちを追い抜いて剣を抜きに走っていく。


「くぬぬぬ……抜けないな」

「くそっ最初からそのようにできているんじゃないのか?」

「いつまでやっているのよ、子供たちが待っているわよ。向いていないって言われたんだしとっとと諦めなさい」


 女の人はしっかり現実が見えているみたいだ。戦士とエルフを退くように急かした。二人はこちらを恨みがましい目で見る。逆恨みされそうだな。テッドとウィルがそれぞれ小さい剣と大きい剣に手を掛ける。


「師匠とエルンストはいいの?」

「あー、この年で勇者に成っても何だかなー」

「我々に似合うとも思えませんし」

「あれ、呪われていないよね」


 大丈夫ですと言ったエルンストも剣が抜けるかどうかは気になるようで、テッドとウィルから目を離さずに答えた。師匠はまだ辺りを警戒している。


「いいか?ウィル」

「うん、いつでもいいよ」

「せーの」


 二人で掛け声をかけて二本を同時に持ち上げる。最初は動かなかったものがするすると抜けて行った。抜ける瞬間に光を放つ……こともなく。本当に伝説の剣なのかなと言うくらいに普通に、簡単に抜けて行った。


「抜けた!やったっ、これで俺も勇者だ!」


 テッドが剣を天に向けて翳している。剣は日の光を反射して輝いていた。ウィルの方は長くて重たそうに地面に引きずってしまっている。

 ふっと辺りが暗くなったと思うと頭上を巨大な鳥が通過していく。同時に木々がざわめいて辺りに何かが居るのも感じられた。エルンストが杖を構え、師匠はウィルに剣を置くように言った。


「テッド気をつけて、周りに何かいるよ」


 私がテッドに警戒するように注意しようとするが、くえぇぇぇぇと大きな声にかき消された。

 巨大な鳥が引き返してきていた。「何か言ったか」と振り向き、剣を未だに掲げているテッドを鷲掴みにして攫っていこうとしていたので、それを止めようとして私は走って鳥の足にしがみつく。

 まだ地面についている自分の足に踏ん張ろうと力を入れるが、抵抗もむなしく私とテッドは一緒に空へと舞いあがって行った。

続きます。

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