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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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春が来た

 春の暖かい陽気が眠気を誘う。ぽかぽかいい天気で授業中なのに欠伸が出た。口を押さえて控えめにしたつもりが、師匠にはばっちり見られていた。


「アリシアー俺の授業はそんなにつまらないかー。ふぁ~あ」


 師匠にもあくびが移ったみたい。周りを見るとテッドは机に突っ伏して寝ているし、ウィルもうつらうつらしながら、はっとして頭を振っている。必死で眠気に耐えようとしている姿が可愛い。

 小学校で言うなら私は三年生、テッドは四年生、ウィルは五年生になった。ウィルは後二年もすれば王都の学校に行くことになる。


「師匠、そういえば最近エルンスト見かけないけれど、どうしたのかな。魔法の授業もお休みで、冬眠でもしているのかな?」

「あいつは今本職の方で忙しいはずだ。結構な役職についているはずなのに長いことほっつき歩いていたんだからな。今頃書類の山にでも埋もれているんじゃないか?」


 話しながらも眠気は収まらない。欠伸がついつい出てしまう。鉛筆を持っているとノートに意味不明なことがいつの間にか書かれていたりするから、持つのを止めた。

 師匠も師匠で授業をするつもりはすっかり無いようで、畳の上に胡坐をかいて膝の上に頬杖をついている。


 平和だな。何とも言えないこのまったり感がずっと続けばいいのに。十年後も、二十年後も、ずっとずっと……。ぐう。

 はっ、一瞬だけどまた寝てた。


「これはあれかな?魔王化推進派の攻撃だったりするのかなー」

「そうだとしたらとんでもなく手ごわい相手だな。魔法の耐性があるアリシアでさえそんなんだから」

 

 師匠も笑いながら欠伸をしている。

 不意に、肩に重みが掛かってそちらを見ると、ウィルが寄りかかって眠っていた。……普通、男女逆じゃないかな。身長はウィルの方があるのにとても器用だ。寝息がすーと聞こえてくる。


「師匠、こうなったらお昼寝タイムにしよう?」

「ああ、そうだな…今日だけだぞ」


 机をどかしてみんなで畳の上で横になった。私はテッドとウィルの間に寝転んだ。仰向けになるとすぐに目蓋が下がっていく。



 どれくらい経っただろうか。いつの間にか横向きになっていたみたいだ。目を開いてみるとウィルがまだ寝ているのが見えた。初めて会ったときよりも成長して、子供と言うよりは少年と言う感じになりつつある。そのうち声が低くなったり髭が生えたりしてくるのかな。

 王都に行っても時々帰ってくるんだろうか。私はその時まだ村に居られるのかな。

 テッドの方を見ようと寝返りを打つとそこにはテッドではなくてエルンストがいた。こちらを観察するようにじっと見ている。エルンストが………エルンスト?


「なんでエルンストがいるのっ?」


 がばっっと起き上がって思わず大きな声を出してしまった。「なんだどうした」とみんな寝ぼけ眼で起き上がってくる。


「ふふっ。みなさんお待たせしました。魔法の授業の再開です」

「俺は待っていない」


 寝起きでむすっとしながらテッドがぼそりと呟く。一人だけ魔法が使えないので少しすねているみたい。


 エルンストがくいっと上げたメガネがキラーンと光っている。相変わらずの黒ローブ。宮廷魔術師の制服ってわけでもないだろうに。


「これからこの村にいても何の支障もない役職についてきたのでずっとアリシアのそばにいられますよ」

「役職って無職ですか?」

「なんてことを言うんですかっ。ウィル、言っていいことと悪いことがありますよ」

「ご、ごめんなさい」


 おおっ、あのウィルが押されている。無職はエルンストにとって禁句らしい。気を付けよう。


「何を隠そう、アリシア付の教育係になったのです。春の人事異動で希望したら通りました」

「なんでアリシア付なんだ?」

「なぜってアリシアはおう……むが」

「はいそこまでー。よかったなーエルンスト、アリシア付の教育係になれて」


 師匠がエルンストの口をふさぐ。ウィルとテッドには王女であることは知られていない。


「アリシアはおうむ?オウムの教育係?」


 テッドが何だかまだ寝ぼけている。ウィルは……めちゃくちゃ笑顔だ。只、黒い感じの方の。


「アリシアと師匠に話があるんだけどいいかな?」

「わかった。テッド、もう昼飯時だ。今日の授業は終わり。帰っていいぞ」


 『昼飯』と言う言葉でテッドが覚醒する。


「おう分かった。ウィル、アリシア、またな」

「ばいばーい」

「また明日」


 ウィルと私は手を振って見送った。テッドが見えなくなるとウィルはこちらを向く。笑顔が消えて、少し怒っているような顔になった。


「さてと」


 私と師匠は冷や汗を垂らした。根源となったエルンストは師匠がまだ押さえ込んで、まだむがむが言っている。すまんと言って師匠はエルンストを解放した。


「アリシアが王女って本当のこと?」


 どうしよう。誤魔化した方が良いのだろうか。ウィルが他言するとは思えないのだが、知ってしまったことで何かに巻き込んでしまう可能性がある。師匠の方を見ると師匠も決めかねているようだった。

でもおそらくは隠し通すことは出来ないだろう。ここで誤魔化しても何かあるたびに疑念を持たれるよりは、素直に認めた方が良い。


「一応そういうことになっているよ。生まれてすぐにばば様に預けられたから、この国に王子がいたことすら知らない、全く役に立たない王女だけれどね」

「アリシア、もし村長にでも知れたら……」

「ウィルは絶対言わないよ。多分テッドにも言わない」


 あのいけ好かない村長が知れば何かをしでかすのは私でも容易に想像できる。ウィルはテッドを大切な友達だと思っているから巻き込むことは絶対にしない。


「信用してくれているんだ?」

「当たり前でしょ」


 私の一言でウィルの硬かった表情が少し照れているような笑顔になった。つられてほっとしていると、師匠とエルンストの指摘が入る。


「ウィルを危険に巻き込むかもしれない事はいいのか?」

「テッドを信用していないことになりますね」

「テッドはもう少し大きくなってからと言うか、純粋なままでいてほしいと言うか。危険の方は……多分、大丈夫だと…」


 人に改めて指摘されると段々と心配になってくる。私の言葉は自信が無くなって尻すぼみになって行った。


「アリシアが自信をもって大丈夫だと言えるように強くなるよ。だから安心して」


 ウィルが師匠とエルンストにもう少し詳しい話を聞くと言うので私は一人帰った。おそらく魔王の予言の事も聞くのだろう。

 このまま村に居れば私は一般人として過ごすことができると思うけれど、私が王女だと聞いてしまったウィルはどんな道を選ぶのかな。


エルンスト中心の話にするつもりがウィルに乗っ取られたような気が……

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