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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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女子会

「あ、アリシアちゃーん。いらっしゃーい」

「リタさんこんにちは。今日はばば様と一緒に来たよ」


 村の広場でリタさんがお店を開いていた。いつもは地面に厚手の布を引いて商品を置いたりしているのだが、今年の冬は雪が多いので馬車の中を直接覗けるようになっている。


「今日も冷えるねー。アリシアちゃんはこれからお昼?」

「うん、くりから亭で食べるんです。ね、ばば様」

「いいね、私もご一緒していいですか?」

「かまわんよ。皆で食べた方が美味しくなるからのう」


 村に一軒だけある食堂は夜には居酒屋になる。二階は宿屋になっていて村に来て夜を過ごす商人は大体ここに泊まっていく。通行証が無いと入れないので村に来る人自体が少なく、大概は余所の村で寝泊まりするのだが、リタさんはここの常連だ。―――師匠がいるからか。


「あらチハルさん、いらしゃい。アリシアちゃんにリタさんも」

「こんにちはー」


 ここのおかみさんがばば様の茶飲み友達なんだそうだ。最近はこうして食べに来ることも多くなった。おかみさんは五十歳手前くらいでぽっちゃりしている。夜には酔っぱらいの相手もするので肝っ玉が据わっているおばちゃんと言う感じだ。

 厨房には強面(こわもて)の旦那さんがいる。他にお客さんもいないのでおかみさんは一緒のテーブルでおしゃべりを始めた。

 根菜ごろごろ具だくさんシチューが今日のランチメニュー。体の芯から温まるから冬にはもってこいのメニューだ。


「はふはふ。はあーあったまるねー」

「リタさんそんな格好で寒くないの?」

「うーん、寒いけどお洒落したいじゃない?」


 今日のリタさんは暖かそうなロングのコートを着ていたけれど、中は襟ぐりの広く開いたふわふわセーターにスカート。流石にタイツは履いているけれど、寒がりの私には大人になっても真似できない。


「やっぱりロベルト狙いかい?」


 突然のおかみさんの言葉にリタさんが咽た。慌ててお水を飲んで一息つく。


「そんなにバレバレですか?」

「そりゃそうよ。昔ロベルトがこの村に来た時も女の子からきゃーきゃー言われていたし」


 懐かしいわね、と昔を思い出して遠くを見るおかみさん。おかみさんもその一人だったんだろうか。

 みんなで食べ終わったのを見計らってばばさまが手作りクッキーを出した。おかみさんがお茶をよういしてくれる。食後のまったりタイムは師匠の話から始まった。


「チハルさんとセイイチロウさんが王都から越してきたすぐ後くらいだったかしら?村のすぐ外で大けがを負って倒れていたロベルトをセイイチロウさんが拾ってきてね。当時村にいた薬師とチハルさんで看病していたのよ」


 その薬師からばば様はいろいろなことを教わったらしい。菓子職人として成功したのに王都から逃げるようにしてこの村に来て、馴染むのに必死だったそうだ。


「セイイチロウさんがいるのにチハルさんになついてね。セイイチロウさんを敵視していたんだけれどお酒を一緒に飲むくらいまで打ち解けて……」


 段々とリタさんの顔が曇っていく。おかみさんの話はそれでも続いている。師匠がばば様に向ける感情はそんなに単純な物には見えないと思うのだけれど、口にしたところでうまく説明ができないので黙っておく。


「あのロベルトがこんなに一途な男だとは思わなかったわ」


 泣きそうなリタさん。がっくりとうなだれてしまった頭を慰めるために撫でてあげた。私はリタさんを応援したい。


「わしはセイイチロウ一筋じゃから安心せい。ロベルトの方を向くことは絶対ありえん」


 リタさんはほっとしたように何度も何度もうなづいた。


「さ、次はアリシアちゃんの番よ」

「えっ?私」

「うむ。前々からわしも気になっておった」


 矛先が急にこちらに向いて慌てた。三人とも目がギラギラしている。恋愛話を聞き出そうとする女子ってなんでこんなに怖いのかな。


「ウィルとテッドのどっちじゃ?」

「まさかのエルンストかい?もしかして……ロベルト?」

「そしたら私、アリシアちゃんとライバルなの?」


 じりじりとにじり寄ってくる皆は迫力があって怖い。取り調べを受けている気分になってきた。味方になってくれそうなばば様でさえ、一緒になって私を追い詰める側に回っている。 斯くなるうえは……


「ごちそうさまでしたっ!」

「あぁっ逃げた!?」


 店の入り口まで走って逃げる。が…


「ふぎゃっ」

「ああ、ごめんねアリシアちゃん、大丈夫?」

「あ~ら、アレンさんいらっしゃい。お久しぶりねぇ」


 入口から入ってきたテッドのお父さんとぶつかってしまった。尻もちをついてしまった私は、そのまま抱きかかえられて先ほどまで座っていた椅子に卸されて、取り調べの現場に強制送還されてしまった。恐るべし、テッド父。

 名前はアレンと言うらしい。そういえば聞いた事なかったな。垂れた犬耳、ふさふさのしっぽ。先ほど私を抱えた手は獣の物ではなく人間の物だった。獣人のタイプにもいろいろいるみたいで、もう少し獣に近い種族だと肉球があるらしい。


「ドロシーちゃんはどうしたんですか?」

「家でテッドが見ているよ。たまには息抜きしろって。アリシアちゃんが来てから本当にテッドが良い子になっていって助かるよ。昔はもっとやんちゃだったのに」

「「「へぇー」」」


 ばば様、リタさん、おかみさんの興味津々な視線が痛い。お願いだから誰か助けて。


「この前なんか料理を教えろって言ってきてね。卵を片手で割ったら『父ちゃん、すげえ!』だって。」


 前はぎこちない感じだったのに、私の知らないうちに問題が解決している。やっぱり余計な口を出さなくてよかった。


「アリシアちゃんのお蔭だね」

「えっ私何にもしていない……」

「お料理ができる男の人ってステキだよねって、テッドに言ったんだって?」


 言ったかも……あぁ、それでお父さんに料理教えてくれってテッドが言って距離が縮まったのか。

 単純すぎるよ、テッド。

 さらにテッド父は爆弾を落とした。


「アリシアちゃん、うちにお嫁に来る?」


 そちらを見なくても感じられるほどの三人の視線に、居た堪れなくなった私はもう一度脱走を試みる。今度こそは誰かが入って生きても躱せるようにして店を飛び出した。


いくつになっても女子は女子。

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