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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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村へ行こう

「その前に……まずはこの世界での魔王がどんなものか、知っておいた方が良いじゃろう」

「……うん」


 何だかばば様に話をはぐらかされた様な気がして、少しだけ不安になった。


「今日はもう遅い。明日にでも、村へ行こうかの?」

「いいの?」

「ああ。わしより長生きしている輩が居るからのう。そやつの話を聞くとするか」

「わかった」


 村があるという話は聞いていたけど、村へ行ったことは今まで無い。この家の周辺の森を歩いたことがあるだけだ。

 ばば様は時折出かけていたみたい。そういえば、よく私を置いて行けたな。育児放棄?いやいやここまで育ててもらったんだし、私も大人しかったし……。

 考えるの止めにして明日に備えて寝てしまおう。



 次の日はよく晴れていた。洗濯物をして軽く掃除をしてから、ばば様と一緒に出掛けた。

 いつもは歩かない道へと進む。


「花が咲いていたら、少し摘んでいこうかのう」

「話をしてくれる人って女の人?」

「いいや。なんに使うかは行けばわかる」


 村の外には結界があること、出入りする商人は魔力付の通行証を持っていること、私たちの家は村からしか行けないことなどを聴いた。

 歩き始めて十分程度で村の裏手に着いた。そのまま進むと円い広場に出る。広場の中心には大きな石碑の様なものが立っていて、ばば様はそこに花を供えた。


「ばば様、これは?」

「ふふっ、聞いて驚け。これはな、じじ様のお墓じゃ」

「っっええぇぇぇーーー。」


 私の声が広場に響き渡ってしまった。石碑を立てられてしまうほどの人物って……。しばらく呆然としてしまうが、慌てて口を閉じ小声で訊いてみる。


「じじ様何者?」

「生活水準を大幅に上げた功労者じゃ」

「なるほど」


 家の中の便利さを思い返せば、かなりの貢献だったに違いない。


 広場の周りには店舗のほかに、屋台みたいなお店も立っていた。民家はその奥にあるみたいだ。あちこちから不規則に屋根が見える。


「あらまあ、ばば様いらっしゃい」


 と声をかけてくるおかみさんもいる。ばば様はここでもばば様なのか。

 何度も何度もぐるぐる広場を駆け回る犬を見かけた。変な行動をとっているなと思ったけれど、もしかしたら私の知らない世界から来たのかもしれない、と思いなおす。

 ばば様の後についていくと、少し大きめ平屋建ての集会所みたいな建物に着いた。

 中からなにやら叫び声が聞こえてくる。


「ぎゃ~っ、はなしやがれくそじじぃーっ」

「じじーじゃねえっっ」


 中は道場になっていて畳が敷いてあった。道着を着た私と同じくらいの赤毛の子供が、褐色の肌の大人に襟首を掴まれていた。何だか猫みたい。男の子はツンツン頭で、見た目も言動もやんちゃそうな感じだ。大人の方はやや青みがかった長い銀髪で、後ろで一つに束ねている。

 そばには同じような恰好をした金髪の子がいて、ため息を吐いていた。

 あれ?もしかして大人の方って……耳が少しとがっている?


「ダークエルフ?」

「よく知っているのぅ、アリシア」


 赤毛の子は離れようと足をじたばたさせている。自分にぶつからないように腕を伸ばして持っている大人は、じじーと呼ぶには若く見えるけれど、種族がエルフなら見た目ではわからない。


「あの人何歳なの?」

「確か前に訊いたときは三百を越えておったか」


「じじーじゃん」

「じじーじゃの」

「じじーですね」


 近くから声がしてそちらを向くと、金髪の子がこちらに避難してきていた。

 この子も私と同じくらいかな?目の色はスカイブルー。きらきらしていてまあ綺麗。

 赤毛の子を下したダークエルフがこちらに気づいて近づいてきた。男の子はそのまま裸足で外へ逃げて行く。


「久しぶりだな、チハル。今日も美しいな」

「相変わらずじゃのう」


 チハルってばば様の名前か。初めて聞いた。あれ?これって口説いているの?私の考えすぎ?

 近くで見ると瞳の色は、ダークブルーだった。エルフだけあって顔立ちは整っているけれど…


「じじ様の方が良い男だね」

「わかっておるなぁアリシア」


 ばば様はにーっと嬉しそうに笑った。写真で見たじじ様は、鼻筋が通っていて細面で意志の強そうな瞳だった。

 ダークエルフはこちらを睨んでくる。


「じじ様ってのは、セイイチロウのことか?」


 セイイチロウがじじ様かどうかわからなくて、ばば様を見た。

 頷くばば様。そうか、じじさまはセイイチロウって名前なのか。漢字で書くとどうなのかな?

 再びダークエルフを見ると彼はすっと目を細め、低い声で言った。


「お前、敵な」


 ひいっと声を上げて、私は思わずばば様の後ろに隠れた。

ダークエルフに敵認定されました。

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