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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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秋の実り

注意!残酷な描写あり。

 秋の森は収穫できるものが本当に多い。きのこ、木の実、果物などなど一年のうちで最も賑やかな季節でもある。色彩的にも鮮やかで、赤や黄色に色づいた葉が頭上からひらひらと舞い落ちてくる。


 師匠は狩猟用の弓矢で鹿を狙っている。私はその三歩後ろで祈るように両手をくんで息を止めて見守る。

しゅっと矢が飛んで吸い込まれるように鹿の肩口に一矢、次いで心臓のあたりにもう一矢。


「すごい!やっぱり師匠はエルフだったんだ」

「お前、俺を何だと思っていたんだ」


 エルフって言えばやっぱ弓矢だよね、うん。それと魔法。間違っても異種格闘技ではないよね。

 ここは結界の外側の森。今日は祭りのための食材を集めるために来ていて、籠の中にはきのこなど、すでに採ったものがたくさん入っている。


 師匠は鹿の解体の説明をしながら手早く大ぶりのナイフで喉を裂いて血を抜き、腹を裂いて出した内臓を埋めた。作業が終わるのを見計らって声を懸ける。


「なぜ今日は森の外へ連れ出してくれたの?春は遠足だったけれど……」

「ん?」


 立ち上がって振り向いた師匠の持つナイフの刃から、鹿の血がしたたり落ちている。手にもべっとりと付いているみたいだ。刃先を真っ直ぐ私の方に向ける。距離はまだ少しあるから怖くはないけれど気分は悪い。


「ししょ……」

「例えば、この場でお前を殺すためだと言ったら、お前はどうする?」


 思わぬ質問の返し方に、思わず息を止める。覚悟は決めていたはずだ。でももしかしたら何か、試されているのかもしれない。……どんな意図であろうとも私の変わらない答えを告げる。声が震えない様に、できる限りの冷静さを保ちながら。


「大人しく殺されるよ。師匠の事は信頼しているから、師匠がそうするならどうにもならない状況になってしまっているんでしょう?」


 師匠の鋭い目が私を射抜くようにして見つめる。感情の抜け落ちたような顔からは、全く師匠の意図が読めないでいる。

 先ほどの鹿が自分に重なるような気がして少し、怖くなった。心臓が早鐘のように脈打つ。私の答え方は師匠の意に沿うものだっただろうか?恐怖に負けないように、気を抜けば震えそうな足を踏ん張って私も師匠をじっと見つめた。


 暫しの時が経ってふっと師匠の表情が緩んだ。いつの間にか止めてしまっていた息を吐く。


 ―――今がその時かと、覚悟、してしまったから。

 口が段々とへの字に曲がって、喉の奥から熱いものがこみあげて、目からは大粒の涙がぼろぼろとこぼれてしまった。


「すまん」

「謝るくらいなら最初からするなーっ。うぅえぇぇーん。ししょーのばかー」


 師匠はいつものように頭を軽く叩こうとして手を引っ込めた。両手は血で汚れている。片づけをしながら私が泣き止んだのを見計らって話しかけてきた。


「ともかく今のは冗談だ。まだまだ大丈夫だから心配するな。一昨年はウィル、去年はテッド、今年はお前に動物の解体を見せて命を頂くことの……って、お前良く平気だったな?二人とも吐いてたぞ」

「うーん、師匠の腕が良かったから匂いもそんなに酷くなかったし、口に入るお肉だし……二人ともそんなんで勇者になれるのかな?」

「かわいくねーなぁ」

「大きなお世話だよーだ」


 私はべえーと舌を出した。それを見た師匠が笑い出す。よかった、いつも通りだ。


「もしも敵に会ってしまったら逃げることを第一に考えろ。この前のゴーストみたいに立ち向かおうとするな。」

「わかった」


 どうして師匠がそんなことをしたのか腑に落ちないまま、それを誤魔化すような会話を互いに続けながら鹿狩りときのこ狩りは終わった。 師匠は優しい……はずだ。私は、本当に無理なお願いをして師匠を傷つけていないだろうか。何か迷わせるようなことをしてしまったのだろうか。


―――翌日。


「えっ、アリシア、あれ平気だったのか?」

「うん、大丈夫だったよ。その日の夜もお肉食べたし」

「僕、あれ見て三日間お肉食べられなかった……」


 テッドとウィルに驚かれた。そして二人ともしょんぼりしている。師匠はエルンストに昨日の狩りの事を説明をしている。


「女の子のアリシアが平気だったのに」

「ちょっとショックだ……」

「村の中は農業だけだからな。畜産なんかをやっている村だと、小さいころから動物の解体に慣れているらしい。この村だと狩りでもしないとなかなか見れないから、自分の食べているものが『命』である感覚が薄れてしまうかもしれないからな」


 師匠が説明していても二人は立ち直れないでいる。そんなにグロテスクに見えたかな?普段食べてるものと生き物が繋がってしまったからだろうか。

 流石に実際にやれと言われたら私も無理だけど、見ているだけなら割と平気だった。

 いつまでも落ち込んでいるのを見かねた師匠が二人に発破を掛ける。


「本当に二人とも勇者になれるのか?モンスターも生き物だぞ?時と場合によっては解体するかもしれないんだぞ?」

「そんなんで私が倒せるの?約束ちゃんと守れる?」


 師匠と私の声に二人がはっと顔を上げる。約束の事、覚えていてくれたみたいだ。


「な、慣れればきっと大丈夫だ、うん……師匠!実戦お願いします」

「僕もそろそろ、血が見たいと思っていたんだよね」


 二人とも明らかに強がっている。そしてウィル、それはなんか違うと思うよ。

 立ち直った二人を見て、師匠とエルンストがにやけている。何か企んでいるようにも見えた。


「おーおー二人ともやる気になってくれてうれしーぞ」

「アリシアとは別のカリキュラムを組んだ方が良いかもしれませんね」

「これからは遠慮せずにビシバシ鍛えていくから覚悟しろよ?」



 やる気の出ることは多分いいことだ。―――例えその先に私の死があったとしても。

 頑張ってね二人とも。


控えめに鹿の解体シーン書きました。大丈夫でしょうか。

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