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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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ロベルト視点です

 暗く冷たい石造りの神殿の中、祭る神などいない祭壇の両側を燭台に灯った赤い炎が揺らめいている。夏だと言うのに少し肌寒さを感じさせるような厳かな空気が辺りに満ちていた。

 豪華な聖職者の服を身に纏う高齢のエルフと跪くダークエルフ。やがてしわがれた声が響き始めた。


「アリシア王女は元気かね?」

「ええ、普通の人間としてすくすく育ってますよ。先日、八歳になったそうで……」

「そうか……我らが予言を下してからそんなに時が経つのか……魔王になる兆候は見られるのか?」

「いいえ、全く」

「成人した後に戻ってこられても面倒だ、もしもそれまでに魔王にならなかったら―――王女を殺せ、ロベルト」


 ロベルトは目を見開き、息をのんだ。アリシアの願いとは同じようでいて正反対の命令。返事の無いことを不快に思ったのか、枢機卿は片眉を上げる。


「ダークエルフに堕ちて行き場を失ったお前がここにいるのは誰のお蔭だ?大人しく仕事をしろ」

「…………御意」




「あ、師匠ーおかえりー」


 広場に差し掛かるとこの時間にしては珍しくアリシアがいた。日は沈みかけていて辺りは薄暗い。買いそびれたものを買いに出てきたのか、籠を持っている。ロベルトを見かけて笑顔で駆け寄ってくるアリシアにため息を吐いた。


「お前は呑気そうでいいな」

「師匠は元気ないね、どうかした?」


 赤い目で心配そうに見上げてくるアリシアの頭をぽんぽんと軽くたたく。「早く帰れよー」と言いながら間借りしている雑貨屋の二階へ上がった。



「……へぇ、猊下にそんなこと命じられたのか。従う気は端っから無いんだろう?」


 ロベルトと二人で話をするとき、エルンストは砕けた口調になる。王都で土産として買ってきた酒を二つのグラスに注いだ。枢機卿が話した出来事を全て報告する。

 宮廷魔術師団副師団長―――それがエルンストの肩書だ。表向きは休職中となっているが、実際は王命によってこの村にいる。前々からドラゴンの保護活動と称して時々いなくなっていたので、支障は無いらしい。


「君が何をしようと僕はアリシアを守るよ。なんたってドラゴンだからね。」


 例え王命が下されなかったとしても、エルンストはこの村に来たのではないかとロベルトは思った。それほどにエルンストの行動原理はぶれない。


「だけど、守るのはアリシアだけだ。君を助けるためにここにいるわけではないよ」

「ああ、それでいい、が手を出すなよ。仮にも王族だ」

「ドラゴンが花嫁か……」


 ぽつりと呟き、次第に恍惚とした表情になって酒を飲む手を止める。それを見たロベルトは慌てた。


「おいマジでやめろ、何を妄想している。これ以上俺の気苦労を増やすな」

「冗談だって。彼女が嫌がることも僕はしたくない」

「どうだか」


 にやけた顔からは本気か冗談かどうにも読めない。その表情をふっと消しメガネをくいっと上げた。


「今まで呪いのアイテムをばらまくだけだったのに、本格的に動き始めるかもしれないと……そういう事かい?」

「ああ、他にどんな手段をとってくるのか想像もつかねー」

「村を襲撃するとか、そのくらいしかね。多分それは最終手段だ。それを見越して陛下はチハルさんに……あの森に預けられたんだろう。村ごと彼女の大切なものになりつつあるから、それを壊そうとすれば怒り狂うだろうね」


 『彼女』がアリシアともチハルとも取れるエルンストの言葉に、ロベルトは片手で頭を抱え込んだ。アリシアの魔王化も怖いが、チハルを守っているものの暴走も怖い。一気に飲み干してグラスを空にする。


「……『一日一善』で村の奴らと関わりを持たせたのは逆効果だってのか?」

「いや、魔王化を防ぐ手段としては最適だと思うよ。ただ弱点にもなりうるだけで」


 今ある手札で使えるものなど限られている。エルンストとロベルトが二人とも村を開けることのないようにすること。結界を重ね掛けすること。アリシアと不特定多数の人間との接触を防ぐこと。

 …春に飛空船に乗れたことは幸運だったかもしれない。もう二度と乗れないかもしれないし、神殿と関わりの無い貴族とのつながりをアリシア自身が持てたのは思わぬ収穫だった。

 どうしても後手に回ってしまうため取ることのできる手段が少ないことに、ため息を吐く。

 戦うにしてもそれ以外の方法にしても、もしも集団で来られたらロベルトとエルンストだけでは守りきれない可能性がある。


「……ウィルとテッドをもっと鍛えておくか」

「うわー可哀想ー。淡い恋心を利用するなんて流石ダークエルフ、悪魔、大魔王」

「ドラゴンの為だけに人間やめたお前に言われたくねー」

「お互い様だね」


 いっそ枢機卿を暗殺することも視野に入れておくかとぼやく。エルンストは何も言わずにグラスに酒を注いだ。半分ほど飲んでふうとため息を吐く。


「君も、殺されないように気を付けて」

「それこそお互い様だろ」

「自覚はない?多分アリシアにとって君は、チハルさんとほぼ同じ位置にいるよ。保護者としてだけど」


 やらかして殺されて自ら魔王化の原因を作り出すなと、ロベルトは釘を刺された。

いろいろ調べたのですが、枢機卿、呼び方は猊下で。神殿なので大神官とか考えたのですがしっくりこなくて…ドラクエのせいで…

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