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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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遠足その後

降りる街が近づいてくるにつれて段々と名残惜しい気持ちになってきた。六時間ほどの空の旅はあっという間で、けれども村にいる時よりもたくさんのことを経験した気がする。

 私たちを降ろして飛び立つ飛空船を見送り、町の入口へ向かおうとすると「旅の記念に写真はいかがですか?」と発着場の入り口で声を懸けられた。ポラロイドなのですぐ出来ますと言うのでお金を払って写してもらう。焼き増しはできないので五回も撮ることになったけれど、みんな笑顔で写った写真は私の宝物になった。


「おかえりー、どうだった?楽しかった?」


 町の入り口にはリタさんと馬車が待っていて、起きている自信が無かった私は行きと違い荷台に乗り込んだ。リタさんの隣に座って馬車から落ちるなんて嫌だものね。

 馬車に揺られてふわふわといい気持ちになったせいか、私はうとうとと眠りこんでしまった。揺れが止まって誰かが名前を呼びながら頬を引っ張るが、私の目蓋は上がらない。そのうち背負われたようだ。日が落ちて寒くなったのでひと肌の温もりが心地良い。

 ばば様の声が聞こえる。今朝話して出かけたのに長い間会っていなかったような気分だ。ただいまと駆け寄って今日あった出来事をたくさん話すつもりだったのに。


「すまん。酒は飲めんのじゃ。アリシアも知っておったと思うんじゃが」

「そうか……いや、いいんだ。料理にも使えると思うからもらっておいてほしい」


 師匠の声が耳のすぐそばで聞こえてきた。家に着いたのか、背負われながら階段を上る感覚が伝わってくる。そうっと大切なものを扱うようにベッドの上に卸されて、私の意識はそのままずぶずぶと沈んでいった。




「村を、出たのか」

「うん。やっぱり良くなかったかな?」

「そなたがそうしたいと願ったのじゃろう?」

「でも、断ろうと思えば断れたよ。自分を守るより好奇心が勝ってしまった、かな」


 桜の時期は疾うに過ぎたのに墨染めの桜は今夜も見事に満開で、見とれていると彼女が背後から声を懸けてきた。


「久方ぶりじゃのう。一年間、恙なく過ごせたのであろう?」

「うん、あなたも元気そうで何より」


 振り返ると妖艶な姿は相変わらずで、でもなぜか気安く話しかけられるようになっていた。ふふと笑って木の根元に座り、私も隣に座るように促す。

 頭上からひらりとひとひら、暗闇の中を花びらが舞い落ちる。


「春になると会えるのかな?それとも魔王に少しでも近づいてしまうとここへきてしまうのかな?今回は村を出たことが条件かも知れないね」

「それではそなたは村に閉じ込められたままではないか」

「でも私はあなたに時々会いたいよ」

「それはわらわとて同じこと……さりとてこの先そなたが悲しい思いをするやもしれぬのは……辛い」


 はあっと二人同時にため息を吐いた。見上げると、横から見るのとは違った桜が見えた。広がる枝に纏わりつくようにして花が咲いている。依然投げかけた疑問をもう一度聞いてみることにした。今度ははっきりと答えてもらえるかもしれない。


「ねぇ、貴女は……誰?」

「魔王の卵みたいなものじゃ。そなたと言う殻を破って外へ出るのじゃろうと思うておる。少しずつしか情報が得られぬのでおそらくは、としか言えぬ」


 すまぬ、と謝られてしまった。同時に同じ場所に存在しているのが奇跡に近い、互いに相容れないはずのもの。それでも私は彼女と仲良くなりたいと考えている。せっかくアリシアが封じているものなのに。


「わらわはいつだってここにいる。たとえ会えずとも、周りが敵だらけになってしまおうとも、そなたの味方がここに一人いることを……ああ、でもそなたは忘れてしまうのじゃった」


 彼女にしては珍しく悔しそうに顔をゆがめる。


「うん、大丈夫。忘れてしまうけれど、絶対に忘れないよ。いつだって前を向いて歩こうと思うから……だから安心して」


 矛盾していることを言ってしまっているけれど、しっかりと彼女には伝わったようだ。いつもの笑顔に戻った。


「さて。そろそろお別れじゃな」

「うん。また今度があればいいんだけど……」



 おかしい。馬車に乗ったところまでは覚えているのにその後の記憶がほとんど無い。窓の外を見ると朝だった。私が寝ぼけ眼で下の階に降りていくと。


「アリシア、よう寝たのう?夕ご飯も食べないでずっと寝ておったからお腹すいたじゃろう。」

「ばば様、どうやって帰ってきたのか覚えてないよ」

「馬車からここまではロベルトがおんぶして運んできたんじゃ」

「よく師匠ここまで来れたね。森に認められているの?」

「前々からじゃ。でもできるだけここには近づかずにいるらしい」

「ばば様大好きなのに?」


 だからこそ、じゃよとばば様は微笑んだ。じじ様を愛しているけれど、信頼関係が結ばれているというか、師匠のことを認めてはいるみたいだ。

 朝ごはんを食べ終わった後、お土産の存在を思い出して荷物から引っ張り出してきた。一緒に皆で撮った写真も見せる。

 昨日一日であった出来事ををたくさんたくさん話した。飛空船から見た風景の事、モンスターやドラゴンに会ったこと、エリーゼと言う女の子に手紙をもらったこと……などなど。身振り手振りを交えながら、時々お茶を飲みつつ、初めて体験したことを全部ばば様に報告した。

 ばば様は私の気のすむまで話に付き合ってくれた。何度も何度も頷きながら、にこにこ笑顔で。



春の遠足編はこれで終わりです。

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