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私が魔王になる前に  作者: よしや
第一章
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遠足 その一

「そういえば、王都の学校だとそろそろ遠足の時期ですね」

「よし、俺らも行くか」

「単に旅行に行きたいだけでしょう?……大義名分がないとダメなのではないですか?歴史を感じるとか健全な精神や肉体を育むとか」

「山登りとか遺跡見学とかか。うーん、お前ら、どこか行きたいところあるか?」


 稽古の合間に師匠とエルンストがおしゃべりしていて、急にこちらに話を振ってきた。でもガイドブックの類の本は読んだことないので観光地は知らない。

 日本だったら山登りや、動物園や水族館、美術館や博物館、工場見学と言ったところかな。

 この世界に、村以外で思いつく場所なんて一つしかない。私は片手をあげて発表した。


「はい、王都に行ってみたいです!」

「俺は時々行っているから却下」


 ぶーぶーと文句を言ってみるが、他のみんなも乗り気ではないみたい。行ったことあるんだって。私にとっては一応の生まれ故郷なのに一度も行ったことないよ。


「近場で行くならアストラ遺跡ですか?」

「あそこは前の魔王の最終決戦場だ。まだ呪いの影響があるのに観光地化する奴の気が知れん。上部だけ見学するにしても……アリシアにどんな影響が出るかわからん。却下」


 エルンストの意見も通らなかった。というか、そんな場所は私も行きたくない。

 みんなであーでもないこーでもないと言っているとウィルが片手を上げて言った。


「遊覧飛空船で地理の勉強なんてどうですか?」

「「さんせーい」」


 テッドと私は両手を上げた。飛空船なんてあるんだ、ぜひとも乗ってみたい。テッドも乗ったことはないらしい。ウィルは経験済みだ。

 師匠とエルンストは話込んでいる。金銭面や日帰りで行けるかどうか、発着場のある町への交通路などおおよそのスケジュールを組み立てている。

 どうやら話し合いが終わったみたいだ。


「師匠、飛空船で決定ですか?」

「ああ、決定だ」


 にやりと笑う師匠。「ぃやったーーっっ」と叫んで畳の上をを転がりまわるテッド。そんなに楽しみか。


「師匠。今更なんですけれど私、村の外へ出てもいいんですか?」

「俺もエルンストもいるから大丈夫だろう。チハルからも少しずつ外に出してやってほしいって頼まれているからな」


 それを聞いてようやく喜ぶことができた。思わぬ形であっさりと村を出ることに若干の不安は残るけれど、できれば思いっきり楽しみたい。

 遠足は一週間後、だ。


「行っておいで、アリシア」

「はい、ばば様、行ってきます」


 春とは言え出発時間は朝早いので、少し肌寒い。持ち物を頭の中で確認しながら足を動かす。

 お弁当持った、水筒持った、遠足のしおり(エルンスト特製、なぜかドラゴンの絵が表紙)も持った。お菓子(ばば様特製)持った、ハンカチ、ティッシュ持った、お金も通行証も持った。うん、大丈夫。

 歩きながら考えているとあっという間に門に着いた。門の前には馬車とリタさんが待っていた。


「アリシアちゃん、おはよー」

「おはようございます、リタさん。今日はよろしくお願いします」


 飛空船の発着場がある町まで荷馬車で連れてってもらう。リタさんは御者席だとしても五人も座るので馬車の中は現在積荷らしきものはない。代わりにかわいいクッションが置いてあった。きっとリタさんの趣味だ。


「いつもの荷物はどうしているんですか?」

「家の倉庫に置いてあるのよ。あ、アリシアちゃんは私の隣に座っても良いからね」


 初めて出る村の外の風景が私にとって何もかもが新鮮で、知らないものばかりだった。森を抜けて広がる大地と広大な空に目を奪われ、進む度に家々が段々と増えていく風景に、心を躍らせる。

 馬車に揺られながら二時間ほどで門のある町に着いた。町に入る前から上空を行きかう飛空船が見えている。門で手続きを済ませ、リタさんと別れてみんなで歩き始めた。

 発着場は町の西側にあって、穴の開いた高くて大きな塔に吸い込まれるようにして入っていく。あの中に乗り場があるのかな?


「おおおぉ」

「すごーい」


 だんだん近づいてくる発着場に乗る前から大興奮のテッドと私。上を向いて飛空船ばかり見て歩くので、迷子にならないようにウィルが手を繋いでくれた。テッドはエルンストと一緒に歩いている。


「えと遊覧船は三番乗り場だな」


 町のマップを片手に、師匠がその辺にいた人に話かけている。……なんでよりによって金髪の美人なお姉さんに話しかけているんだろう?案の定お姉さんは頬を赤らめている。場所を訊き終ったみたいなのに、師匠の腕に手を懸けてしなを作っている。私はウィルと顔を見合わせた。


「アリシア、師匠のピンチだ」

「了解。あっいたいた、お父さーん」


 私は大声で駆け寄って師匠の腕を掴んだ。えへへぇと笑みを浮かべて子供のふりをする。

 金髪のお姉さんは「子持ちぃ?ふざけんじゃないわよ」と悪態をついて行ってしまった。師匠は頭を抱えてため息を吐いた。


「アリシア……俺は道を聞いていただけだ。」

「でも今のお姉さん、ナンパと思っていたみたいだよ?男の人に道を訊けばいいのに」


 何で自ら肉食系っぽいお姉さんに突っ込んでいくのかな?ばば様に振られまくって自身が無くなって、イケメンなのを自覚していないとか?

 そんなことを考えながらぞろぞろとテッドたちと合流すると、ウィルが注意をしてきた。


「ダメだよアリシア、ここはおじいちゃんって言わないと」

「おい、ウィル。最近なんか俺に冷たくないか?」

「師匠をいじるのが楽しいだけですよ。もう堕ちているから大丈夫でしょう?」


 黒い、黒いよウィル。出会った頃より成長して、見た目天使から王子様になりつつあるのに徐々に黒くなっていくのは見ていて……ちょっと楽しい。自分に被害が及ばなければだけど。

 貨物用みたいな大きなエレベータに乗って発着場に着いた。事前にお金を集めて購入していたチケットで乗り場に入る。電車のホームみたいに足場があるけれど、両端の先は、地面も何もない。


『さんばんのりばー遊覧飛空船-まもなく到着しまーす』


長くなりそうなので分けます。つづく

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