ばば様の過去
いきなりばば様にばれてしまった。自分のアホさ加減に泣きたくなってきた。顔をゆがめたまま固まっていると、
「大丈夫じゃ。そんなに心配せんでもええ」
と、頭を撫でられた。いや心配しているわけではなくて……
「何を隠そうこのわしも異世界から転移してきたクチじゃからの。地球と言う星……世界の日本という国じゃ」
驚きすぎてまたしてもフリーズ。硬直状態が解けると私は興奮して大きな声を出してしまった。
「私、私も日本だった!前世は日本で生活してた!」
「何とまあ偶然じゃのお」
「ばば様はいくつ位の時にこっちに来たの?」
「そうさのう、二十歳過ぎに丁度ぽけべるが流行っていた時じゃ……ちょっと待っておれ」
ばば様は本棚から一冊の本を取り出す。開いて見せると一枚の写真が貼られていた。写真もこの世界にあるんだね。カラーじゃなくて白黒だったけど。
「ほれ、これがわしじゃ」
「うわーぉ、すごい美人だねー」
写真に写っていたのは二人。結婚式みたいな写真で、おそらくばば様であろう女の人の隣に男の人がいた。私は指さしながら聞いてみる。
「この人誰?」
「わしのダーリンじゃ。いい男じゃろう?一緒に転移してこの世界で結婚したんじゃ」
なるほどばば様が言うだけあってイケメンだ。ページをめくっていくつか貼られていた写真を眺める。写っているのすべて笑顔のもので、二人の幸せそうな感じがしっかりと伝わってきた。
「この男の人、今は……?」
「残念ながらそなたが生まれる少し前に天に召された」
「そう……御免なさい」
「いいや。生きとれば一緒に子育て出来たろうにのう」
「そしたら呼び方はじじ様かな」
ばば様は声をあげて笑った。会いたかったな、じじ様。
「よその国は知らんが、この辺りは皆日本語を話していてな。最初は転移したことに気付かなくて、人と話してても話が噛み合わなくてのう」
ああ、やっぱり日本語だったんだ。変換されてるわけではないのね。
「どうして転移したかわかる?召喚とかされたの?」
「ううむ、どこから説明しようか。」
長い話になりそうだったので、お茶の準備をした。ばば様はその間に本を片付ける。
テーブルに着いて続きを促す。
「これはわしがこちらに来てお世話になった人から聞いたことじゃが……」
ばば様はこの世界の創世神話から話し始めた。
何も無かったこの世界に一つの種が投げ込まれた
種は自ら成長するべく、光を、大地を、水を、空気を外界から取り込んだ
発芽し根を張り木となって枝を伸ばし始めると、今度はいろいろな世界からあらゆる物を呼び寄せはじめた
生き物は人間動物植物エルフにドラゴン、モンスターに至るまで
さまざまな物質、地球には無い魔石という無機物さえも
「そしてそれは今でも続いているという」
「つまり木に召喚されたってこと?」
「まあ、おおざっぱに言えばそういうことになるかの」
ばば様はお茶を飲んでほうと息をついた。大抵の異世界転移は、召喚者しか返せないと言うのがセオリーだ。木が召喚したとなれば帰ることは絶望的だろう。
そういえば、とばば様は話を切り替える。
「今まで生活してきて文明の進み具合がちぐはぐだと思わんかったか?
「うん」
「転移してきた人間によって専門分野が違うからの」
「あぁっなるほど!」
「わしは向こうで菓子職人をしておった。こちらに来てからも店を出していたことがある。」
道理でケーキがおいしいわけだ。
「ダーリンはなんというか……技術者で研究者だった」
「ん?」
「家にあるシャワーやコンロなんか魔石の勉強をして作っておったのう」
「じじ様って……すごいねえ」
そうじゃろうそうじゃろうと、じじ様の話をするばば様はなんていうか……恋する乙女のような表情だった。
ばば様かわいい。私も年を取ったらばば様みたいになれるかな。
瞬間、頭をよぎるのはやはり魔王のことで。
そんな日は来ないと、将来のことを考えるたびにこんな絶望的な気持ちになることに耐えられなくて、訊いてみた。
「ばば様、私が魔王になるかもしれないって話、聞いてる?」
「どうしてそれを……」
「生まれた時から言葉、理解できていたんだよ」
むむむ、と考え込むばば様に聞いてみた。少しばかりの期待を込めて。
「魔王にならない方法、知らないかな?」
会話ばかりですみません。