上を向いて歩こう
もうじき冬も終わり。吐く息はまだ白く雪がまだちらついているけれど暦は春に向かっている。
広場に差しかかると、雑貨屋のおばさんに声を懸けられた。
「アリシアちゃん。悪いけどこの品物をテッドの家に届けてくれるかしら?お代はもらってあるからサインをもらってきてくれる?」
「はーい、行ってきまーす」
「悪いわね」
荷物と受取書を持って、村の門の近くのテッド家の扉をノックする。
「ごめん下さーい。雑貨屋さんのお使いで品物届に来ましたー」
小さな女の子を抱いた、穏やかな感じの男の人が出てきた。女の子は赤い髪だけど男の人は亜麻色。目は二人とも藤色だ。男の人は良く見ると髪の毛に混じって動物の耳が生えている。ゴールデンレトリバーの様な垂れた耳。道理でテッドがわんこっぽいわけだ。
村の中でも獣人は見かけるけれど間近に見るのは初めてで、内心は大興奮だけど失礼にならないように極めて冷静を保った。
「ご苦労様。君が噂のアリシアちゃん?」
「どのような噂か知りませんが私がアリシアです。あなたがテッドのお父さんで、この子がテッドの妹ですか」
「はい、そうですよ」とにこやかに返事をする。その場にいるだけで何だか和む人だ。妹ちゃんはおおきく円らなおめめでこちらをじーっと見てくる。ほっぺがぷっくりしててとってもかわいい。
「かわいいですねー」
「うん、自慢の娘なんだ」
うん、親馬鹿であることを差し引いても十分可愛い。妹ちゃんはドロシーと言うらしい。年は二歳。
荷物を渡してサインをもらって、世間話をしていると奥の方からテッドが出てきた。
「アリシア、どうした?」
「品物届けに来たんだよ」
「じゃあもう用はないな、外に行こう」
「…うん」
少しばかり漂う穏やかではない空気に、何だかいたたまれなくなった。
お邪魔しました、とテッドのお父さんに頭を下げて外へ出る。お父さんはドロシーちゃんの手を振って見送ってくれた。
外へ出ると雪はやんでいた。テッドと一緒に広場へ向かう。
「テッドはお父さんの事、あんまり好きじゃない?」
「だって普通の家は、父ちゃんが外で働いて母ちゃんが家にいるもんだろ」
「お母さんはいつから働いているの?」
「結婚する前からだって言ってた」
もしお母さんが結婚しても仕事を続けたいと言って、それを尊重して主夫を選んだなら、とても懐の広い人だと思う。家事も育児もしっかりしているみたいだし、女の人に働かせる…所謂ヒモ状態とは違うと思うんだけどなあ。
でもそれをテッドに伝えるのは難しい。テッドが理解できるかどうかも分からないし、必要以上に他人の家の事情に首を突っ込むのは嫌だ。
前世でそれをされたことがある。本人は善意でやっていて、絶対にそれが良いことだと思っているのでなおさら手におえないのだ。結果事態は悪化した。
広場に着いて雑貨屋さんに受取書を届けてテッドと別れた。
白黒はっきりつけないこと方が良いこともある。もしテッドがお父さんと衝突して困ったことになったら助け舟を出してあげよう。それまで今よりもっと信頼関係が築けるように努力して、テッドがどうして欲しいのか理解できるようになりたい。
そこまで考えてあ、これって魔王化対策と似ていると思った。事態をはっきりさせるなら私は殺されるのが一番だ。当然そんなのは絶対に嫌だ。現状維持は後ろ向きな前向きだ。
翌朝テッドに会うと、昨日の少し尖った感じはなくなっていた。「おはよう」と声を懸けると頭に雪が積もっていた。私は去年のことを思い出す。
「そろそろスノードロップの時期かな?」
「今年も俺が見つけるからな」
「むう、負けないよ」
空から降る雪をじっと上を向いて眺めていた。遅刻しそうになって慌てて二人で走っていく。
書き始めてひと月が経ちました。今のところ毎日投稿できています。三日坊主にならなくてよかった。




