待ってました
今日は初めての魔法の授業の日。自分のことのように楽しみにしているばば様と一緒に、道場へ向かう。何だか授業参観みたいだ。
道場に着くと師匠、エルンスト、ウィル、テッドがすでに来ていた。収穫の終わった畑の方へ皆で移動する。へまをして道場が壊れたら困るからだそうだ。流石に中で魔法を使う構造にはしていないらしい。広い方が思いっきりできそうだね。
最初に簡単に魔法の説明をしてくれた。先祖の転移元の世界によって魔法の系統が違うそうだ。呪文詠唱タイプ、魔法陣タイプ、アイテム使用タイプ、血筋による無詠唱タイプ、等々。ただこの世界に神様はいないので神々に助力を請うような魔法は、一切発動しない。精霊などは、この世界に存在するものであれば発動する。
自分がどんなタイプか探っていく所から始めるらしい。メジャーなタイプでない時はそれだけで結構時間がかかるそうだ。
「最初は水属性から探っていきます。失敗しても被害は少ないですから。」
説明を一通り受けた後、ばば様と師匠は少し離れた場所に移動する。
「ヴァッサーオーヒュドールマイム」
少し手のひらを前に出して呪文を唱えると手のひらの前に水の球が浮かんでいる。
「うわぁぁー」
「すごいねぇー」
口々に歓声や称賛の声を上げる私たちに、エルンストは眼鏡のつるを上げてふっと笑った。師匠がじとーっとした目でこちらを見ている。
「さぁ、最初はウィルからです」
ウィルが恐る恐る真似をして呪文を唱えると、先ほどよりもやや小さめの水の球が浮かんだ。すごい、そんなに簡単にできるものなのか。テッドが「おおーっ」と驚き、エルンストが頷く。
「上出来です。素晴らしいです。これから細かい分類を探っていくと良いでしょう」
次にテッドが真似をした。水の球は出ない。エルンストに教わって、何度か呪文を変えて試すも全くの無反応だった。木の枝で地面に簡単な魔法陣を書くのもダメみたい。
「テッドはアイテムタイプですかねェ」
エルンストの言葉に、むすっとした顔で落ち込むテッド。呪文詠唱と魔法陣の魔法は使えないみたいだ。
「テッドは勇者だもん。魔法の使えない勇者だっていっぱいいるよ」
と励ましてみたけれど、やっぱり魔法は憧れらしく肩を落としたままだった。
次は私の番。ウィルとテッドがやったように手のひらを前に出して呪文を唱える。ちょっと恥ずかしい、かも。
呪文を唱え終っても何も変化はない。はずれかなと思って両方の手のひらを見ると、上からゴロゴロと低い音が響いてきた。上を見上げる前にザアアァァーッと滝のような雨が辺り一面に降ってくる。そばで見ていたエルンストはもちろんウィルもテッドもびしょ濡れだ。二人は「うわわーっ」とか言いながら頭を抱えてばば様の方へ逃げていく。
いつまでたっても止まない雨に私はだんだんパニックを起こし始める。なんで、どうしてと思う度に振り方が強くなり、雨粒が頭や肩に打ち付けて痛い痛い。
エルンストが何かを叫んでいるが雨の音で聞こえない。師匠が走ってきて耳のそばで大声を出した。
「アリシアっ。止まれと念じろっ」
言われた通りにするとぴたりと雨は止まった。師匠を見上げると頭をポンポンと叩かれた。安心してじんわりと涙が滲む。濡れているからわからないよね。
ため息交じりにエルンストが言う。
「失念していました。アリシアはおそらく無詠唱タイプです。」
うん。ドラゴンがご先祖様だもんね。ぶつぶつ唱えるイメージないよね。でも最初に言ってほしかったな。無詠唱タイプが呪文を唱えてしまうと増幅してしまい、下手をすると制御ができなくなってしまうそうだ。魔法って怖い。あんなに楽しみにしていたのにトラウマになりそうだ。
離れた場所で見ていたばば様は濡れなかった。子供三人とエルンストと師匠はずぶぬれで村の中を帰って行く。村の人の目が痛かった。
その夜、トイレに起きて一階にそっと降りていくと、ばば様の部屋から明かりが漏れている。何しているんだろうとこっそり覗くと、小さな声で魔法の練習をしているばば様を見てしまった。
……ばば様可愛い。ううん、私はな~んにも見ていないよ。
呪文はドイツ語フランス語ギリシア語ヘブライ語で「水」です。なんて安易な。
ちなみに筆者が喋れるわけではありません。




