秋祭り二年目
魔法の授業は秋祭りが終わってからという事になった。師匠の授業の進み具合と調整するためだ。適当なのかと思ったら結構しっかり考えて教えているみたい。
ばば様に話したら見に行きたいと言い出した。転移者でも元の世界で魔法が無い人は使えないらしい。うん、やっぱり憧れるよね。
今日は秋祭り。広場の隅っこで、ばば様と一緒に今年は小さなリンゴのタルトを作って売った。籠に入る量だからそんなに多くはなく、去年と同じようにあっという間にに売り切れた。売り切れた頃にエルンストが声を懸けてくる。
「ああ、アリシア。今日はチハルさんも一緒ですか」
「うん、二人は知り合いなの?」
ばば様は昔王都にお店を出していたことがあったらしい。エルンストはそこの常連さんだったそうだ。リンゴのタルトが売り切れだと言うととても悔しがっていた。幽かに聞こえる程度の声で呟くのが聞こえる。
「ドラゴンが作るのを手伝ったタルトが食べられないなんて」
……身分がばれない様に名前も呼び捨てにしてもらった。敬語は癖みたいなものでなくすのは無理そうだ。普通に話しているのに、なぜか胡散臭さが抜けない。「今日は何の御用ですか」と聞くと、祭りの日は外から変わった品物も持ち込まれるから、一緒に見て回ってくれるそうだ。有り難い。
ばば様はまた友達のところへ行くそうだ。手土産用のタルトをエルンストに見つからないように、こっそり隠し持った。
広場にはリタさんもお店を出していた「こんにちは」と挨拶をして品物を見せてもらう。今日はお祭り用の品ぞろえなのか、装飾品や鏡など、普段よりも華やかなものが多かった。伸びてきた髪の毛を纏めるものがほしいかな。髪留めを中心に見ていると、リタさんが、
「これなんかアリシアちゃんに似合うんじゃない?」
そういってクリップタイプの髪留めを指さした。赤い小さな石の周りに草花の彫り物がしてある。「つけてあげる」と髪留めを持った手を私に伸ばそうとするとエルンストの制止がはいる。
「もしかして、また?」と小声で訊くと、頷くエルンスト。呪詛が掛かっていたらしく、また危機を救ってもらった。
一瞬の攻防になぜか別の緊張感が走る。リタ姉さんは「知り合い?」と胡乱な目でエルンストを見る。私が頷いてもなぜか二人は睨み合っている。
「アリシアにはこちらの方が似合いますよ」
そういって手に取ったのはのはドラゴン……というか、とかげのようなものが彫り込んであるバレッタタイプの髪留めだった。「もっと可愛い方が良いよねー」とリタさん。二人の間で火花が散っているような気がした。
「ドラゴンにはトカゲや蛇のタイプも種として確認されていて、翼がなかったりする者も数多く存在します。ここに彫られているのはおそらく……」
エルンストによるご高説が始まってしまった。他の品物も見ているとウィルとテッドに声を懸けられた。一緒に髪留めを選んであげる、と品物を見始める。
「アリシアちゃんはモテモテだねー」
と、リタさんが感心するように言った。そんなことはないですと否定しておくけれど……そういえばこの村にいてからの知り合いは男の人が多い。村のおじちゃんおばちゃんたちとも話はするけれど名前まで憶えている人はいないに等しい。
血の気が引いていくのを感じた。魔王って異性を侍らせているイメージもある…よね。いや、皆をはべらせるつもりは毛頭ないのよ。でもイメージがね。小さな男の子が一生懸命選ぶのも微笑ましいけれど。
「リタさんが選んでくださいっ。さっきの以外でっ」
ウィルとテッドには申し訳ないけれど、女性であるリタさんに選んでもらうことにした。エルンストに呪詛の確認をしてもらう。かなり不満そうだったけど。
女の子の知り合いを増やさなくちゃ、と密かに決意した。
祭りのメインイベントはお化けかぼちゃの重量当てだった。私に被害が無くていいけど、メインを張るには少し地味な企画だよね。他の人もそう思ったらしく不満が多かったみたい。投票の結果発表は暗くなってから行われた。人が集まったけれど、一番近い数字を書いた人への賞品授与にも、拍手がまばらだった。
祭りの最後にエルンストが魔法で花火を見せてくれた。日本の花火に比べれば規模は小さいものだけれど、これにはみんな大盛り上がりを見せていた。きらきらと光の粒が舞って行って夜空に大きな花を咲かせる。魔法だから近くに森があっても火の心配もいらないし。
エルンストは便利だ。ちょっと変だけど。
師匠は?




